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不死の姫と勇敢な騎士

75 前進

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 平原を進み、帝国軍の陣地を見渡す。昨晩の火事は広く帝国陣地を焼いたようだ。仮設の寝床と思われる施設が点々としている。そして現在、兵の多くは火事の後始末と撤退の準備に忙しいようだ。

 さすがの指揮官もあの光景を見て撤退を決心したらしい。国に戻ったときの厳罰に、震えながら帰り支度をしているに違いないだろう。

「今なら奇襲の絶好の機会ですね」

 ベルクは兵糧を潰し、あとは帝国の撤退を待つばかりで手を出してくることはない。そう考えているだろう。私たちも昨日の作戦はそれを狙ったものであり、成功を収めたならば、関所での防衛戦に移行するつもりだった。エインヘリアルを使うまでは……

「さぁ、お前たちの力を見せてくれ! 帝国軍を滅ぼして見せろ!」
「拝命致しました」

 そう応え、黒塗りの鎧が前進する。

「我々も続く!」

 私が率いる槍の部隊に、直剣を携えたリーザを加え前進を開始する。

 昨日の今日でリーザの精神は大丈夫であろうか。彼女にとっては忌むべき場所だと言うのに……すぐ横に控える彼女の表情を覗き見る。リーザは至っていつも通りと言わんばかりの表情を見せている。

「姫様、如何いたしました?」
「いえ、何でもないの」

 どうやらその心配は杞憂らしい。私の従者は主のような弱弱しい精神は持ち合わせてはないらしい。

「ベルク軍だ!」

 前方で騒々しく声がし始めた。ようやく気が付いたらしい。その声へと不死の軍勢たちが走り出した。腰に帯びた剣を引き抜き、突撃を開始する。

「お、おい! お前何やってんだ! まさかベルクに寝返ったのか⁉」

 彼らの困惑も最もだ。何も聞かされていないならば、不死の軍勢たちは食料に困り、こちらに寝返った帝国兵だと見えるだろう。まぁ例え、指揮官が全軍に朝の出来事を知らせていたとしても信じる者はいまい。

 武器を持たず帰り支度に従事していた者たちは、逃げ惑うか、混乱の内に倒れていく。騎士道精神? クソ喰らえだ。今朝までは心の隅ではあるものの、確かに後ろめたい気持ちもあった。大国を相手に小国であるベルクが戦うためには仕方ないと、自分にも騎士団にも言い聞かせ追いやっていた。

 しかし、そんなものは今朝のリーザを見たときに霧散した。容赦などいらぬと心の底から思えるようになった。今となってはその影響で、呪いと蔑んだエインヘリアルをほぼ無意識下で使うことになったのかもしれない。

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