上 下
71 / 95
不死の姫と勇敢な騎士

71 贖罪

しおりを挟む

「お前たち、とくと見ておけ。これがベルク王が代々受け継ぐ聖槍ヴァルハラの力だ」

 私は相手によく見えるよう背中を晒す。そしてヴァルハラから影が伸び、私の背中を多い隠し、しばらくすると影が引っ込む。自身では見えないが、傷は跡も残さず消え去っただろう。

「な、なんだアレは!」

 黒塗りの兜から驚きの声が漏れ、帝国兵たちは指示(さししめ)したように一歩下がる。

「傷が、治った?」

 兵の後ろに隠れ、様子を見ていた指揮官が間抜けな声を上げる。

「帝国よ、私の大切な従者を傷つけた罪は重いぞ」

 リーザの生存と取り戻した安堵は束の間、彼女をこんな目に遭わせた下種共に激しい怒りを向ける。私に睨み付けられた帝国兵たちはまた一歩下がる。

 痛みの残滓が消えるころ、ヴァルハラを構え直して奴らと相対する。百戦錬磨の帝国兵が十数人であるが怯む所以はない。先程の光景を目の前に臆することなく立ち向かえる者はいないだろう。

 指揮官の男は見逃してやろう。そして自軍に伝えると言い、ベルクには化物がいると。比喩ではなく本物がいるとな。

 ぐっと地面を踏みしめ、命一杯の力を込めて蹴った。風の壁を切り裂き一本の矢の如く、ただただ一突きに全てを込める。

 そのままの勢いで先頭に立つ帝国兵の心の臓めがけて突撃する。ヴァルハラの切っ先は容易く黒塗りの重装を貫き、心の臓を捕らえた。勢いそのままに帝国兵を押し倒す。奴らは倒れる場所を空けるように後ずさり、絶命した兵の上に立った私を中心に、取り囲む形で小さな輪が出来た。

「何をしている! 殺せ!」

 今の出来事に圧倒されていた兵士たちが指揮官の一声に応じ、一斉に突きを放つ。あぁ確かこんな拷問器具があったなと、子供の頃興味半分に読みんで寝られなくなった記憶をぼんやりと思い出しながら突き刺さる剣の存在を感じる。

「や、やったか⁉」

 四方八方から串刺しにされた私を遠巻きから観察する指揮官。兵士たちが一斉に剣を引き抜き、至る所から血が噴き出す。支えをなくし、倒れそうになるのを堪え叫ぶ。

「ヴァルハラぁぁあ!!」

 その声に応え、勢いよく影が伸び全身を覆い隠す。

「ヒッ! ヒィィィ! 化物、不死の化物め!」

 影が離れると、破れた隙間から異様に白い肌見え隠れする。年頃の娘なら露出した肌を隠し、赤面するところだろうか。

 異形の奇跡を目にした兵士たちはたじろぎ、どよめき後ずさる。最早戦意と呼べるものはない。だが、こいつらはやってはならないことをした。その贖罪はきっちりとしてもらう。

 命でな。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

処理中です...