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不死の姫と勇敢な騎士
56 吐露
しおりを挟むしばらくリーザの胸で思うがままに感情を吐露した私は、いつの間にか落ち着きを取り戻していた。敵とは言え人を殺した事実は今だ重くのしかかるが、国のために仕方がないことなのだと思えるように……いや、思ってしまっていた。
「姫様、敵がいつ攻め来るかわかりません。一度関所まで引きましょう」
リーザに手を引かれ戦場を後にする。死者はいないものの馬の下敷きになったり、衝撃に吹き飛ばされ骨をやってしまった団員が数人いるようだ。恐怖に支配され、狂気に飲まれた者達は我を取り戻し、負傷者の支えとなって部隊全体で関所に撤退する。
これが本当の戦争なのだ。人と人の闘争なのだ。
この時、人を殺めた我々は深く心の中にそれを刻み込んだ。負けてはならない。帝国には勿論のこと、自分にもだ。
「さぁ、水をお飲みください」
関所にて一杯の水を差しだしてくれるリーザ。それを口に含みゆっくりと喉に流し入れる。冷たさが体を巡っていく。こんなにも体が熱を持っていたなんて……
「落ち着きましたか?」
「えぇ、ありがとうリーザ。どうしてここへ?」
「皆の昼食を届に参りました。さぁ姫様も……苦しいとは思いますが何か口にしてください。これからが持ちません」
パンを差し出すリーザ。あれの後で胃が食べ物を受け付けるとは到底思えない。しかし、彼女の言う通り食べなければ持たないのも事実だ。不死でも腹が減るし、腹が減れば体も頭も十全に働いてくれない。
一口、二口とパンをかじり水で流し込んでいく。干し肉も用意されていたが、さすがにこれは手が出なかった。パンを食べ終え、水のお替りを貰い一息つく。
「さぁ、これからどうするか……」
あれから帝国に動きはない。不気味な程静かであるが、大砲と言う隠し玉以上の物はないと思う。軽装と重装の部隊、騎兵隊と相手の手の内も見えてきた。ただ、相手に与えた損害自体は微々たるものであろう。
こちらの戦力は約二百、それに対して相手は約千の軍勢である。
彼我の戦力差は言わずもがな。実戦においての経験も勝てる相手ではない。そして決定的に違うのは人を殺した経験の差だ。戦場のど真ん中であんな錯乱状態に陥ってしまえば全滅は必至である。
「リーザ、北の通路はどうなっているの?」
「はい、騎士団の人員がこちらの守りに裂かれているため、予定よりも遅れております」
「迂回路から出した使いはまだ戻らいないの?」
北の国へ協力を仰ぎに行ったお父様とお母様との連絡に使いをやったのは一週間程前。王位継承の儀を執り行う報せを持たせて行かせた。隣国へは馬車を使って半日の道程だ。迂回路で遠回りし、人の脚とは言えもう戻ってきてもおかしくはない。
何かあったかと勘ぐるには十分な期間だ。業腹ではあるが、あの男を問い詰める必要がありそうだ。
「リーザ、テオドールをこちらに連れてきなさい」
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