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不死の姫と勇敢な騎士

27 避難

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 城内は慌ただしく従者が走りまわっている。その中、私はリーザに連れられ自室に戻った。

「リーザ……お父様とお母様は無事なの? 急用とは言っていたけど」
「国王様とお妃様はベルクへの支援を賜るため、北の国々へ向かって出立した後ですのでご無事です」
「そう……よかった」

 それならばお父様とお母様に差し迫った危険はないと言える。私は心に渦巻く不安を少しだけ息と共に吐き出した。

 すでに国民の避難も開始されていると言う。しかし帝国の侵攻が予期していたよりも早いこともあり、受け入れの許可が下りた国はないと言う。だがベルクが落ちれば、ここを拠点にして北の小国たちが容赦なく帝国の魔の手に落ちるだろう。それをただ指を咥えて待つ愚か者はいないはずだ。必ずやベルク王国の手助けをしてくれるはずだ。

「姫様、準備が出来ましたら避難を指示している騎士と共に北門へ」 
「リーザ……貴方は残るつもりなの?」
「はい。騎士団と共に戦う所存でございます。心配なさらずとも、私は姫様の従者。我が国のベルク騎士団にも劣らぬと自負しております。ましてや私や姫様が愛した祖国へ、不躾に踏み入ろうとする賊共に遅れを取ろうはずもありません」

 普段通り抑揚のない声だが、私を見つめる瞳は自信に満ち溢れていた。

「わかったわ……そんな目をされたら、付いて来て欲しいなんて我儘言えないじゃない」
「ご安心くださいませ。いずれ姫様が治められるこの国は私共がお守りします」
「ダメよ。私が目指すベルクの幸せにはリーザも必要不可欠なんだから……絶対に無事――」

 唐突に轟くような音と城全体を揺るがす振動が襲い掛かる。直後続きのように轟音が鳴り響き、小さく人々の声が聞こえる。男女入り交じる叫び声、悲鳴だ。音と叫び声からして城内で何か起きたわけではない。外……外で何かあったのだ。

 私とリーザは慌てて部屋の窓へと駆け寄る。南の方角を向いた窓からの覗くのは静寂。遠くに揺れる帝国軍の灯りを除けばいつも通りと言ってもいい。ならば騒動の原因は北側にあると言っていいだろう。

「嫌な予感が致します……」

 しばらくして城に伝令が届く。内容は北門の先で山崩れがあり道が塞がったと言うものと、それに何名かが巻き込まれたと言う最悪の報せであった……
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