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不死の姫と勇敢な騎士
18 従者
しおりを挟む訓練終了を告げたのは従者のリーザだった。
「姫様、お食事の用意が整いました」
「あらリーザ、よくここがわかったわね」
丈の長い黒のドレスに白のエプロンを付けた従者の制服はこの訓練場では一際似つかわしくない。と言っても簡素なドレスの姫と銀色の騎士が木の棒と木剣を手に蝋燭で照らされただけの地下室で模擬戦をしているのも大概に変だろう。
「先生にお伺いすると、ここだと。それと、明日は覚悟しておいてください。と言伝も預かってまいりました。とてもご立腹でしたので、お互いに姫様の我儘(わがまま)には苦労させられますが、頑張りましょう。と励ましの言葉を投げかけておきました」
抑揚もなく淡々と伝えるリーザ。昔から彼女に感情の起伏と言うものが存在しているのかが甚(はなは)だ疑問だと周りからは揶揄される。しかし、長い付き合いともなると彼女の表情や口調のほんの小さな変化が見えるようになった。そんな私から見たリーザは結構感情豊かだと思う。
「リーザ……従者ならそこは私を庇って一国の姫ならば武に精通して然るべきです。とか、あまり根をつめて勉強ばかりですと姫様も気が滅入ってしまいます。くらいは言ってよ」
「別に武を学ばなくとも私がお守りします」
顔はこちらを向いているが、目線だけはラルフに向け言う。やや怒気を含んでいるように思う。目の敵とまではいかないものの、普段から彼を敵視しているような態度が散見する。
目線に気が付いたのか、ラルフは苦笑いを見せていた。
「それに、少々気が滅入っている方が姫様には丁度いいと思われます」
姫様のお転婆も少しは改善されるでしょう。と暗に言われているよう気がする。怒気と言うよりも飽きれに近い雰囲気を感じる。確かに時折我儘に付き合わせ苦労を掛けていることは確かだと思う。
「さて、そんな汗に塗れた姿は姫様と言うよりも、女性としてどうかと思われますので、湯あみとお着替えを済ませてからお食事と致しましょう」
「そうね。お食事にお父様とお母様はいらっしゃるのかしら」
「申し訳ございません。国王様並びにお妃様は急用でお夕食にはご一緒出来ません」
「残念だけど仕方ないわよね。じゃあ食事はお部屋に運んで頂戴」
お父様もお母様もベルクのために多忙の身ではあるのであまり期待はしていなかった。小国であり人手が足りないのもあり、他国では国王や妃がやらない仕事も自ら率先して行っている。しかし急用とは些(いささ)か妙(みょう)ではある。忙しく共に夕食を取ることが機会が少ないのはいつものことだが、急用と言うのは聞き馴染みがない。
「承(うけたまわ)りました。それでは姫様は浴室の方へどうぞ。私は先程のことを給仕に伝え、お着替えを準備してから向かいます」
リーザは後ろを向き、馬の尾を思わせる束ねた髪を揺らしながら地下訓練場を出ていく。
「どうも昔からリーザには嫌われているように思うのだが……俺は何かしたのかな。どう思われますか姫様」
「無自覚って罪なことよ」
私もよくわかってないけどとまでは言わず、私も訓練場を後にする。
「あぁ、火の元の始末はお願いね」
「承知いたしました」
面倒ごとを押し付けられたラルフはうなだれ元気なく返事を返した。
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