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04 人々
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間所を後にした私はなだらかな坂を上り、程なくして城門へと着いた。
眼前には深い堀、山の雪解け水が流れ込み人を阻む。
私は槍を掲げ、見張り役に合図を送る。
本当は関所で借りる旗を掲げ合図を送らなければならない。
しかし、曲がりなりにも私はこの国の王、私の身分が証明出来ればいい。
見張り役は白旗を振り、間もなく跳ね橋が独特の悲鳴をあげ降りてくる。
橋の先には木製の格子が姿を覗かせる。
「お帰りなさいませ!今すぐ開けますので、少々お待ちを」
格子の扉が上がり、人一人分の高さに達した頃に潜り抜けて中へと入る。
「姫様、まだ上がりきっていません!危ないのでおやめください。何度も申し上げているではありませんか」
「気にするな、もし潰れても死にはせんよ」
「そう言う問題ではありません!」
いかんな、このままでは説教が始まってしまう。
「待て待て……その話は後で聞くから先に私の話を聞いてくれ」
彼は何か言いたそうにしているが、私の表情を見て居住まいを正す。
私は先程の武装した二人組とのあらましを話し、関所への武器の搬入と警戒態勢を強めるように伝えた。
「了解致しました!」
「恐らく、奴らが再び姿を現すのは随分先のことだろう。あまり根を詰めるな」
そう言い残してそそくさと城門を後にした。
後ろからは慌ただしく準備を始める声が聞こえる。
説教から逃げたことがばれるのはもう少し先のことだろう。
「姫様!質のいい果物が入ってますぜ!」
「姫様!こっちは野菜です!」
街に入ると露店を出している店主達が麻袋に果物や野菜を詰め込んで渡してくる。
「おいおい、こんなに貰えるわけがないだろう」
「いいんですよ!この国でこうやって商売できるのは姫様のおかげですから」
慕ってくれるのは嬉しいのだが、これでは私の腹がはち切れてしまう。
何故ここの国の民は世話焼きが多いのか。
「あーひめさまー」
「ひめさまだーおかえりなさーい」
今度は遊びたいさかりのやんちゃ達だ。男の子も女の子も服に泥をつけ私の膝元までやってくる。
私はしゃがんで子供たちと同じ目線になる。
「みんな泥だらけじゃないか、どこで遊んでたらこうなってしまうんだ?」
「ひめさまにおくり物がしたくてお花をつんでたの!」
そう言うと後ろ手から花で編み上げた冠を取り出し私の頭にかけてくれた。
「お前たちありがとう、大切にするよ」
お礼にと先程麻袋に詰め込まれた赤い果物を子供たちに配っていく。
子供たちは礼を言い駆けていった。
それを眺めながら、あの子たちの幸せな未来を願った。いや、私が成し遂げなければならない。
屋敷に戻るともう日は暮れかけていた。
王族が住む城もあるのだが、私が住むには広すぎる。
それに、あまりいい思い出もないからな。
扉を開けて入るとまるで私の帰りを予期していたかのように使用人のアンナが待っていた。
黒のドレスの上に白いエプロンを身に着けた彼女は見本のようなお辞儀をして私を迎えた。
「お帰りなさいませブリュンヒルド様」
「ああ、ただいま」
羽織った外套を脱ぎ、子供たちに分配したとはいえ、いまだに大きく膨らむ麻袋を手渡す。
「湯あみの準備が出来ております。お食事の準備は途中ですが……もう一品追加致しましょう」
麻袋の中を覗いた彼女が私に進言する。
「好意で貰ったものだ、アンナの腕は心配していないが最高の一品に仕上げてくれ」
「かしこまりました」
夕食に期待を膨らませつつ私は湯あみへと向かった。
眼前には深い堀、山の雪解け水が流れ込み人を阻む。
私は槍を掲げ、見張り役に合図を送る。
本当は関所で借りる旗を掲げ合図を送らなければならない。
しかし、曲がりなりにも私はこの国の王、私の身分が証明出来ればいい。
見張り役は白旗を振り、間もなく跳ね橋が独特の悲鳴をあげ降りてくる。
橋の先には木製の格子が姿を覗かせる。
「お帰りなさいませ!今すぐ開けますので、少々お待ちを」
格子の扉が上がり、人一人分の高さに達した頃に潜り抜けて中へと入る。
「姫様、まだ上がりきっていません!危ないのでおやめください。何度も申し上げているではありませんか」
「気にするな、もし潰れても死にはせんよ」
「そう言う問題ではありません!」
いかんな、このままでは説教が始まってしまう。
「待て待て……その話は後で聞くから先に私の話を聞いてくれ」
彼は何か言いたそうにしているが、私の表情を見て居住まいを正す。
私は先程の武装した二人組とのあらましを話し、関所への武器の搬入と警戒態勢を強めるように伝えた。
「了解致しました!」
「恐らく、奴らが再び姿を現すのは随分先のことだろう。あまり根を詰めるな」
そう言い残してそそくさと城門を後にした。
後ろからは慌ただしく準備を始める声が聞こえる。
説教から逃げたことがばれるのはもう少し先のことだろう。
「姫様!質のいい果物が入ってますぜ!」
「姫様!こっちは野菜です!」
街に入ると露店を出している店主達が麻袋に果物や野菜を詰め込んで渡してくる。
「おいおい、こんなに貰えるわけがないだろう」
「いいんですよ!この国でこうやって商売できるのは姫様のおかげですから」
慕ってくれるのは嬉しいのだが、これでは私の腹がはち切れてしまう。
何故ここの国の民は世話焼きが多いのか。
「あーひめさまー」
「ひめさまだーおかえりなさーい」
今度は遊びたいさかりのやんちゃ達だ。男の子も女の子も服に泥をつけ私の膝元までやってくる。
私はしゃがんで子供たちと同じ目線になる。
「みんな泥だらけじゃないか、どこで遊んでたらこうなってしまうんだ?」
「ひめさまにおくり物がしたくてお花をつんでたの!」
そう言うと後ろ手から花で編み上げた冠を取り出し私の頭にかけてくれた。
「お前たちありがとう、大切にするよ」
お礼にと先程麻袋に詰め込まれた赤い果物を子供たちに配っていく。
子供たちは礼を言い駆けていった。
それを眺めながら、あの子たちの幸せな未来を願った。いや、私が成し遂げなければならない。
屋敷に戻るともう日は暮れかけていた。
王族が住む城もあるのだが、私が住むには広すぎる。
それに、あまりいい思い出もないからな。
扉を開けて入るとまるで私の帰りを予期していたかのように使用人のアンナが待っていた。
黒のドレスの上に白いエプロンを身に着けた彼女は見本のようなお辞儀をして私を迎えた。
「お帰りなさいませブリュンヒルド様」
「ああ、ただいま」
羽織った外套を脱ぎ、子供たちに分配したとはいえ、いまだに大きく膨らむ麻袋を手渡す。
「湯あみの準備が出来ております。お食事の準備は途中ですが……もう一品追加致しましょう」
麻袋の中を覗いた彼女が私に進言する。
「好意で貰ったものだ、アンナの腕は心配していないが最高の一品に仕上げてくれ」
「かしこまりました」
夕食に期待を膨らませつつ私は湯あみへと向かった。
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