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憑かれる彼女のビターバレンタイン
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ふと目を開けると、見慣れた天井が見えた。
見慣れた天井といっても、自分の部屋のではない。
どうしていっくんの部屋に…?
そっと周りを見回しても、誰もいない。
腕に力を入れて上体を起こすと、ベッドがぎしりと軋んだ。
ベッドから降りようと掛け物を退けた時、部屋の外からガヤガヤと話し声が聞こえてくる。
それはだんだん近づいてきて、そのままガチャリと部屋の扉が開かれた。
そこにいたのは、件の美女だった。
何故、彼女がここに?
いやいや、そもそも彼女がいっくんの彼女だったら、私がいっくんのベッドに寝ていたら怒るのでは?
そうなったら、いっくんに迷惑を掛けてしまうのは必至で。
そのことに気付き、さぁっと血の気が引く。
それでいっくんに嫌われてしまったら、生きていけない。
あわあわと慌てる私に、美女はうるうると瞳を潤ませる。
ヤバい、これ、修羅場な展開?!
「蓮花ちゃーん!無事で良かった~!!」
これからの展開に泣きそうになっていた私に、美女が勢いよく抱き付いてくる。
予想外の友好的な美女の態度に付いていけず固まる私に、美女の後から部屋に入ってきた臣くんが、苦笑いしながら声を掛ける。
「おい、純香。蓮花が驚いてるぞ。」
臣くんの親しい態度に、やっぱり臣くんもいっくんの彼女の存在を知っていたんじゃないかと恨めしい気持ちで見る。
その視線を受けた臣くんが、慌てたように誤解だ、と叫ぶ。
「純香は、斎の彼女じゃなくて、俺の彼女だ。」
真剣な臣くんの言葉に、私の頭の中で純香さんがいっくんの腕に腕を絡めているときの様子がリプレイされる。
疑いの目を臣くんに向ける私に、今度は純香さんが申し訳なさそう顔をする。
つまり、純香さんはついこの間アメリカ留学から帰ってきたばかりで、まだ向こうのスキンシップの仕方が抜けきれていないこと。
いっくんの腕を組んだのも、友愛の一種で特別なものではないこと。
臣くんとは大学に入ってからの付き合いで、3年目だということ。
今日も臣くんとデート予定だったが、臣くんが今日締め切りのレポートを忘れていて、それが終わるまでいっくんに時間潰しをお願いしたこと。
いっくんに時間潰しをお願いしたのは、全然彼女のように優しくしてくれない臣くんに、焼きもちを妬いてほしいという下心があったことを涙ながらに説明された。
それをため息をつきながら聞いていた臣くんが、徐に部屋のドアを振り返った。
「下心なら、お前にもあったんじゃねぇの?斎。」
はっと臣くんと同じようにドアの方に目を向けると、いっくんがドアの枠に体を預けるようにして立っていた。
「お前が蓮花の気配に気付かないなんておかしいだろ。お前、気づいててそのまま放置したろう?」
胡乱げな眼差しでいっくんを見る臣くんの言葉に、私は目を見開く。
それは、つまり、私に勘違いさせて、私を遠ざけようとしていたということか。
溢れてくる涙を必死に抑えようとしている私を、いっくんは困ったように笑うと、部屋の中に入ってきてベッドの脇に腰かけた。
「臣の言う通りだ。」
俯く私に、いっくんは容赦なく言った。
それならそんなまどろっこしいことしないで、直接言ってくれたらいいのに。
痛い、胸がとても痛い。
ぐっと唇を噛み締めて失恋の痛手に耐える私に、いっくんは言葉を続ける。
「いつもこっちの気も知らないで抱きついてきたり、一緒に寝ようとしてきたりするアホな幼馴染みが、少しでも俺を兄ではなく男として意識すればいいと思った。」
いっくんの言葉に、私は、え?っと顔を上げる。
涙が幾筋も流れた頬を、いっくんが苦笑しながら指でなぞる。
「まさか、そのあとそれが原因で悪霊に連れて行かれそうになるとは思わなかった。」
私を喪うかと思うと、死ぬほど怖かったと、相変わらず苦笑しながら話すいっくんの手に、頬を寄せる。
「今日はバカって怒らないの?」
「さすがに今回は、俺も煽りすぎたと反省した。」
「石、取れちゃった。」
「また作ってあげるよ。」
「今日、チョコ渡そうと思って会いに行ったの。」
「うん。」
「チョコ、もらってくれる?」
「俺が蓮花が作ったもの、貰わなかったことがある?」
「…本命チョコだよ?」
「そんなの毎年だろう?」
と意地悪く笑って言ういっくんの腕をバシバシ叩く。
私の気持ちなんて全部お見通しみたいないっくんの態度に納得がいかなくて、むぅっと頬を膨らませる。
いっくんの余裕な表情を崩したくて、いっくんにぎゅっと抱き付いた。
「神様仏様斎さま、私いっくんがいないと生きていけないの。」
知ってるよ、と笑いながら抱きしめ返してくれるいっくんの腕の中は、やっぱり世界で一番安心できる場所だった。
ーーーーーー
「ねぇ、あの子たち、私たちの存在忘れてるんじゃない?」
「まぁ、良くあることだよ。来年からは毎日こうなんじゃないか?」
「…………。正臣、私たちも負けていられないわ!遅くなったけどデート行くわよ、デート!」
「はいはい。」
バレンタイン。
それは、好きな人に思いを伝えられる特別な日。
どうか、あなたの思いが伝わりますように…ーーーーーー。
見慣れた天井といっても、自分の部屋のではない。
どうしていっくんの部屋に…?
そっと周りを見回しても、誰もいない。
腕に力を入れて上体を起こすと、ベッドがぎしりと軋んだ。
ベッドから降りようと掛け物を退けた時、部屋の外からガヤガヤと話し声が聞こえてくる。
それはだんだん近づいてきて、そのままガチャリと部屋の扉が開かれた。
そこにいたのは、件の美女だった。
何故、彼女がここに?
いやいや、そもそも彼女がいっくんの彼女だったら、私がいっくんのベッドに寝ていたら怒るのでは?
そうなったら、いっくんに迷惑を掛けてしまうのは必至で。
そのことに気付き、さぁっと血の気が引く。
それでいっくんに嫌われてしまったら、生きていけない。
あわあわと慌てる私に、美女はうるうると瞳を潤ませる。
ヤバい、これ、修羅場な展開?!
「蓮花ちゃーん!無事で良かった~!!」
これからの展開に泣きそうになっていた私に、美女が勢いよく抱き付いてくる。
予想外の友好的な美女の態度に付いていけず固まる私に、美女の後から部屋に入ってきた臣くんが、苦笑いしながら声を掛ける。
「おい、純香。蓮花が驚いてるぞ。」
臣くんの親しい態度に、やっぱり臣くんもいっくんの彼女の存在を知っていたんじゃないかと恨めしい気持ちで見る。
その視線を受けた臣くんが、慌てたように誤解だ、と叫ぶ。
「純香は、斎の彼女じゃなくて、俺の彼女だ。」
真剣な臣くんの言葉に、私の頭の中で純香さんがいっくんの腕に腕を絡めているときの様子がリプレイされる。
疑いの目を臣くんに向ける私に、今度は純香さんが申し訳なさそう顔をする。
つまり、純香さんはついこの間アメリカ留学から帰ってきたばかりで、まだ向こうのスキンシップの仕方が抜けきれていないこと。
いっくんの腕を組んだのも、友愛の一種で特別なものではないこと。
臣くんとは大学に入ってからの付き合いで、3年目だということ。
今日も臣くんとデート予定だったが、臣くんが今日締め切りのレポートを忘れていて、それが終わるまでいっくんに時間潰しをお願いしたこと。
いっくんに時間潰しをお願いしたのは、全然彼女のように優しくしてくれない臣くんに、焼きもちを妬いてほしいという下心があったことを涙ながらに説明された。
それをため息をつきながら聞いていた臣くんが、徐に部屋のドアを振り返った。
「下心なら、お前にもあったんじゃねぇの?斎。」
はっと臣くんと同じようにドアの方に目を向けると、いっくんがドアの枠に体を預けるようにして立っていた。
「お前が蓮花の気配に気付かないなんておかしいだろ。お前、気づいててそのまま放置したろう?」
胡乱げな眼差しでいっくんを見る臣くんの言葉に、私は目を見開く。
それは、つまり、私に勘違いさせて、私を遠ざけようとしていたということか。
溢れてくる涙を必死に抑えようとしている私を、いっくんは困ったように笑うと、部屋の中に入ってきてベッドの脇に腰かけた。
「臣の言う通りだ。」
俯く私に、いっくんは容赦なく言った。
それならそんなまどろっこしいことしないで、直接言ってくれたらいいのに。
痛い、胸がとても痛い。
ぐっと唇を噛み締めて失恋の痛手に耐える私に、いっくんは言葉を続ける。
「いつもこっちの気も知らないで抱きついてきたり、一緒に寝ようとしてきたりするアホな幼馴染みが、少しでも俺を兄ではなく男として意識すればいいと思った。」
いっくんの言葉に、私は、え?っと顔を上げる。
涙が幾筋も流れた頬を、いっくんが苦笑しながら指でなぞる。
「まさか、そのあとそれが原因で悪霊に連れて行かれそうになるとは思わなかった。」
私を喪うかと思うと、死ぬほど怖かったと、相変わらず苦笑しながら話すいっくんの手に、頬を寄せる。
「今日はバカって怒らないの?」
「さすがに今回は、俺も煽りすぎたと反省した。」
「石、取れちゃった。」
「また作ってあげるよ。」
「今日、チョコ渡そうと思って会いに行ったの。」
「うん。」
「チョコ、もらってくれる?」
「俺が蓮花が作ったもの、貰わなかったことがある?」
「…本命チョコだよ?」
「そんなの毎年だろう?」
と意地悪く笑って言ういっくんの腕をバシバシ叩く。
私の気持ちなんて全部お見通しみたいないっくんの態度に納得がいかなくて、むぅっと頬を膨らませる。
いっくんの余裕な表情を崩したくて、いっくんにぎゅっと抱き付いた。
「神様仏様斎さま、私いっくんがいないと生きていけないの。」
知ってるよ、と笑いながら抱きしめ返してくれるいっくんの腕の中は、やっぱり世界で一番安心できる場所だった。
ーーーーーー
「ねぇ、あの子たち、私たちの存在忘れてるんじゃない?」
「まぁ、良くあることだよ。来年からは毎日こうなんじゃないか?」
「…………。正臣、私たちも負けていられないわ!遅くなったけどデート行くわよ、デート!」
「はいはい。」
バレンタイン。
それは、好きな人に思いを伝えられる特別な日。
どうか、あなたの思いが伝わりますように…ーーーーーー。
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