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忘却の空と追憶の月
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馬車から降りて崖下へ続く道の入り口へ向かおうとしたその時。
木々の間から、金色の髪が覗いた。
あ、と思った次の瞬間、待ちわびた顔が視界に映る。
やっと、やっと会えた!
その思いで胸がいっぱいになり、胸が詰まってアルフレッドの名前を呼べない。
だから、考えるより先に足が地面を蹴っていた。
アルフレッドが駆け寄る私に気付いて視線を向ける。
そして、向けられたのは…ーーー。
これまで一度も向けられたことのない、他人を見るような凍えるように冷たい視線だった。
「…え?」
その思わぬ視線に、足が地面に縫い付けられたようにピタリと止まる。
戸惑う私の視線の先に、アルフレッドの後ろからアーモンド色の瞳で怯えるようにこちらを見つめる女性が姿を現した。
その瞬間、つっと背中を冷たい何かが走る。
先ほどまで喜びに火照った体が、一気に冷めた瞬間だった。
まさか、そんな、なんで。
そんなとりとめのない言葉が頭の中でぐるぐると回る。
そんな私の様子に、後から来たリリーが不思議そうに声をかける。
「ティアリーゼ様?いかがなさいました?」
呆然とアルフレッドの方に視線を向けて動かない私に焦れたように、リリーはアルフレッドへと目を向ける。
そして、アルフレッドを見た瞬間私と同じように戸惑いに体を強張らせ、何が起こっているのかと眉をしかめる。
「皇太子殿下?なぜ、ティアリーゼ様をそんな目で見てるんですか?照れてるんですか?
いいですよ、今さら周りを気にしなくても。散々心配掛けたんですから、どんと抱き締めてあげてください。」
「リ、リリー!」
遠慮なくアルフレッドに苦言を呈するリリーにハラハラしながらも、次のアルフレッドの言葉に耳を疑った。
「リリーか。ティアリーゼ?…誰だ、それは」
「え?」
「そして、お前は…誰だ」
「…っ!」
鋭く目を光らせ、私に視線を真っ直ぐ合わせて言うアルフレッドに、アルフレッドの後ろにいる女性以外の皆が驚きに息を呑んだ。
「…誰って!ティアリーゼ様ですよ!殿下の婚約者の!忘れちゃったんですか!?」
「婚約者…?」
リリーの言葉にアルフレッドがそう呟いた後、後ろに控えている彼女がきゅっとアルフレッドの袖を掴むのが見えた。
アルフレッドが気遣わしげな視線を彼女に向ける。
その瞬間、心臓を鷲掴みされたような痛みが走る。
なぜ、なぜ今なの。
婚約者候補の時は、いつでも心の準備ができていたのに。
アルフレッドに運命の人が現れたら、身を引く準備が。
だけど今は、こんなに胸が痛い。
「…皇太子殿下、私はティアリーゼ・セレニティアでございます。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。兄とともに殿下の御身を心配しておりましたので、気が急いてしまいました。お許しください」
「セレニティア…、兄、ということは、エマの妹か?」
「そうで…ございます」
やっとのことで返事をする。
リリーのことも、お兄様のことも覚えている。
だけど、私のことだけすっぽりと抜け落ちているかのように覚えていないなんて。
そんなこと、あるのだろうか。
終わったと思った悪夢は、まだ続いていたことを知った。
木々の間から、金色の髪が覗いた。
あ、と思った次の瞬間、待ちわびた顔が視界に映る。
やっと、やっと会えた!
その思いで胸がいっぱいになり、胸が詰まってアルフレッドの名前を呼べない。
だから、考えるより先に足が地面を蹴っていた。
アルフレッドが駆け寄る私に気付いて視線を向ける。
そして、向けられたのは…ーーー。
これまで一度も向けられたことのない、他人を見るような凍えるように冷たい視線だった。
「…え?」
その思わぬ視線に、足が地面に縫い付けられたようにピタリと止まる。
戸惑う私の視線の先に、アルフレッドの後ろからアーモンド色の瞳で怯えるようにこちらを見つめる女性が姿を現した。
その瞬間、つっと背中を冷たい何かが走る。
先ほどまで喜びに火照った体が、一気に冷めた瞬間だった。
まさか、そんな、なんで。
そんなとりとめのない言葉が頭の中でぐるぐると回る。
そんな私の様子に、後から来たリリーが不思議そうに声をかける。
「ティアリーゼ様?いかがなさいました?」
呆然とアルフレッドの方に視線を向けて動かない私に焦れたように、リリーはアルフレッドへと目を向ける。
そして、アルフレッドを見た瞬間私と同じように戸惑いに体を強張らせ、何が起こっているのかと眉をしかめる。
「皇太子殿下?なぜ、ティアリーゼ様をそんな目で見てるんですか?照れてるんですか?
いいですよ、今さら周りを気にしなくても。散々心配掛けたんですから、どんと抱き締めてあげてください。」
「リ、リリー!」
遠慮なくアルフレッドに苦言を呈するリリーにハラハラしながらも、次のアルフレッドの言葉に耳を疑った。
「リリーか。ティアリーゼ?…誰だ、それは」
「え?」
「そして、お前は…誰だ」
「…っ!」
鋭く目を光らせ、私に視線を真っ直ぐ合わせて言うアルフレッドに、アルフレッドの後ろにいる女性以外の皆が驚きに息を呑んだ。
「…誰って!ティアリーゼ様ですよ!殿下の婚約者の!忘れちゃったんですか!?」
「婚約者…?」
リリーの言葉にアルフレッドがそう呟いた後、後ろに控えている彼女がきゅっとアルフレッドの袖を掴むのが見えた。
アルフレッドが気遣わしげな視線を彼女に向ける。
その瞬間、心臓を鷲掴みされたような痛みが走る。
なぜ、なぜ今なの。
婚約者候補の時は、いつでも心の準備ができていたのに。
アルフレッドに運命の人が現れたら、身を引く準備が。
だけど今は、こんなに胸が痛い。
「…皇太子殿下、私はティアリーゼ・セレニティアでございます。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。兄とともに殿下の御身を心配しておりましたので、気が急いてしまいました。お許しください」
「セレニティア…、兄、ということは、エマの妹か?」
「そうで…ございます」
やっとのことで返事をする。
リリーのことも、お兄様のことも覚えている。
だけど、私のことだけすっぽりと抜け落ちているかのように覚えていないなんて。
そんなこと、あるのだろうか。
終わったと思った悪夢は、まだ続いていたことを知った。
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