聖なる森と月の乙女

小春日和

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聖なる森と月の乙女

公爵令嬢と命のタイムリミット②

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私はロンと一緒に教会周辺に自生している薬草を急いで採取し、お湯を沸騰させた大きな鍋に薬草をありったけ入れる。
鍋の縁に薬草が焦げ付かないように丁寧に混ぜながら、毒素を体内から排出する作用のある薬草と、ラフィールほどではないが回復する作用を持つ薬草を見つけた時に、思わず大きな歓声をあげて隣で薬草を摘んでいたロンを大いに驚かせてしまったことを思い出す。

爪が紫色に変色する病気。
普段薬草を取り扱うことから、どの薬草が何に効果があるのか知りたくて、その辺りの書物も際限なく読み漁っていた。
それなのに、こんな病気は書物の中に出てきた記憶がない。
忘れただけ?
でも、これだけ特徴があれば、頭のどこかには引っ掛かりそうなものなのに。

むしろ、こういう特徴が出やすいのは毒物を摂取したときではないか?

毒素を体内から排出する薬草を見つけたとき、ふとその可能性が頭を過った。
もしかしたら、少しは進行を抑えることができるかもしれない。

ロンは、今は母親の側に付いている。
ここに戻ったときに、爪の色は少し濃くなっていた。
母を失うかもしれないことに青ざめたロンの顔が脳裏をちらつく。
徐々に薬草の色にお湯が色づいてくるのをもどかしく思いながら、ロンの母親の回復を願って、鍋をかき混ぜる手に力を入れた。

ーーーーーー

「ロン。これをお母様に飲ませて。」

薬草を煎じた薬湯を、母親の側に寄り添うロンに渡す。
疑心暗鬼を隠そうともしない表情で私を見上げるロンに、大丈夫だという気持ちを込めて大きく頷いて見せる。
しばらく、コップの中に注がれた緑色の液体を見つめていたロンは、意を決したように母親の頭を抱え薬湯を母親の口に流し込んだ。
少し咽ながらも、こくりと飲み干した母親にホッと息をつく。

「良かった、飲んでくれて。
ロン、できるだけお母様に水を飲ませてあげてね。」

私の言葉にロンが頷くのを見たあと、私は他の人にも薬湯を飲んでもらうよう声を掛けて回る。
藁にもすがる思いなのは皆同じで、次から次に薬湯を求める声が上がる。
その声一つ一つに応え、自分の飲める人には自分で、ロンのような家族が付いている人は家族に手伝ってもらって、一人では飲めない人には飲む手伝いをした。
結局、教会内のすべての人が薬湯を飲んだ。
最後の一人に薬湯を飲ませた後、水分もたくさん摂るように全体に声をかけ、薬草を採るために協会を出る。

「日が沈みきるまでにできるだけたくさん採らなくちゃ。」

意気込んで薬草狩に励んでいると、教会から家族に付き添っていた人たちが、ガヤガヤと協会から出てくるのに気付く。
先頭にロンがいて、先ほど摘んだ薬草を手に、他の付き添っていた家族へ何かを伝えている様子だ。
ロンの言葉に皆頷くと、それぞれ草むらに分け入って行く。
不思議に思って見ていると、私に気付いたロンが小走りで駆け寄ってくる。

「リズ!薬草採るのみんなも手伝ってくれるって!」

こんなに小さい子が、みんなを先導して薬草を集めようとしてくれていることに驚いた。

「でも、お母様の側に着いていたいんじゃない?
さっき手伝ってくれたので十分だから、お母様の側にいてあげていいのよ?」

戸惑ってそういう私にロンはふるふると頭を振る。

「さっき、リズが言ったんだ。私は私にできることをするって。俺も母さんのために何かしたい。みんな同じ気持ちだったよ。」

私を見てにっこり笑うロンに、ありがとうと笑い返す。

明日の朝までに城に戻るのは難しいだろう。
城からいなくなった私に気付いて、青褪めるリリーの顔が想像できて申し訳ない気持ちになる。
そして、ただでさえ忙しいアルフレッドに心配を掛けてしまう申し訳なさも。
でも、ここで投げ出して城へ戻ったら、きっとずっと後悔する。
そして、そんな私はアルフレッドを幸せになんてできない。
そんなの絶対に嫌。

「日が落ちる前にできるだけ薬草を採っておきたかったから助かるわ。お母様たちが早くよくなるように、一緒に頑張りましょう。」

うん、と大きく頷くロンに、今私がしていることは間違っていないと言ってもらっている気がした。
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