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聖なる森と月の乙女
公爵令嬢とお茶会③
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「私が婚約者…王女か公爵令嬢を好きになったんじゃ…」
「それはない。」
きっぱり即答するアルフレッドに、私はどうしても分からないことを聞いた。
「じゃあどうして手紙の返事、くれなかったの?」
私を嫌いになったわけでもなく、王女や公爵令嬢に心を寄せているわけでもないのに、避けられていた理由は。
「それは、王女殿下がアルフレッドに好意を寄せているからだよ。」
私の問いに答えたのはお兄様だった。
アルフレッドを仰ぎ見ると、苦虫を潰したような顔をしている。
「それがどうして、私に手紙を出せない理由なの?」
「私と親しく付き合っていると王女に知られれば、ティアに害が及ぶと思ったからだ。」
王女は、もともと手がつけられないほどの我が儘で癇癪持ちであると、前々から国外でも噂されるほど評判は悪かったらしい。
そしてアルフレッドに好意を抱いていた王女は、公爵令嬢がこちらへ文化交流のために留学する話を聞き付けて、引っ付いて来たのだという。
こちらに着いてからも、アルフレッドへの執着が凄まじく、アルフレッドの側に女性がいるようものなら酷く癇癪を起こし、手が付けられないようであった。
更にアルフレッドがいないところでは、侍女をいびり倒し、もう既に何人かはそれに耐えきれず、王宮を辞しているとのことであった。
そんな状況であるのに、アルフレッドが唯一心を砕く女性がいると王女の知るところになれば、なまじ権力を持っているだけに何をされるか分かったものではない、と懸念されて距離を置くことにしたのだという。
「言ってくれれば良かったのに。」
理由が分かっていれば、こんなに寂しい思いをせずに済んだと思えば、隣に座るアルフレッドを恨めしげに見てしまうのもしょうがないことだと思う。
「それは、ティアを守るためとは言え、配慮が足りずすまなかった。でも、押してダメなら引いてみろというだろう?まさかそれで私が捨てられそうになるとは思わなかったが…。」
「そんなことしなくても、私がアルを大切に思う気持ちは変わらないわ。それに、私がアルを捨てるって何?そんなことしないわよ?」
私の気持ちを疑っていたのかと、拗ねた気持ちになる。
アルフレッドは苦笑いを浮かべ、お兄様はそうじゃねぇっつうの、と呆れたようにため息をついた。
「ティアが婚約者になることで、私は堂々と君を守れる。複数の婚約者候補の1人と唯一の婚約者では、存在の重要性も変わってくる。王女もおいそれと手出しできない、国際問題になるからね。」
優しく、穏やかな瞳でそう語るアルフレッドに、私はピンと閃いた。
「つまり、私を守るために、便宜上私を婚約者にしてくれるということね?」
話の流れがようやく見えたようで、清清しい気持ちになる。
気づけばモヤモヤもすっかり取れた。
「アル、こいつには直球しか通用しないぞ。我が妹ながら、鈍すぎてイライラするぜ。」
お兄様がテーブルに片肘ついて、呆れたようにため息をつく。
その様子に苦笑しながら、アルフレッドは私の髪を一房自分の指に絡め取る。
「まだこのままでいいさ。ティアが心を決めるまでは。ティア、私は君が一等大事だよ。何者にも傷つけられないように、真綿に包んで閉じ込めてしまいたいほど。だから覚えておいて。君に何かあったら、私は私でいられなくなる。それがどういう意味か考えてみて。」
答えは急がないから、と絡め取っていた髪にアルフレッドがそっと口付ける。
アルフレッドから注がれる優しい眼差しに、何だかとても恥ずかしくなって、顔に熱が集まるのがとてもよく分かる。
何か言わなくちゃと口を開くが、何を言ったらいいのか分からなくてまた閉じるを繰り返して、堪らず手で顔を覆った。
クスクス笑うアルフレッドの存在を隣に感じながら、寂しく泣いていた心が温かく息を吹き返すのを感じた。
「だからさ…、ちょいちょい俺の存在忘れるの、やめてくれる?」
お兄様の呟きは、恥ずかしさで悶える私には届かなかった。
「~っ、アル!私温室に行ってくる!」
あまりの恥ずかしさに耐えられなくなって急いで立ち上がる私に、アルはクスクス笑いながら、行っておいで、と声を掛けた。
「リリーも一緒に連れていくんだよ?」
扉の外で待機しているだろうリリーを思い、コクコクと頷くと早足にアルフレッドの執務室を後にした。
恥ずかしさいっぱいの私は、温室で思いもかけずあの人に会うことになるとは、知るよしもなかった。
「それはない。」
きっぱり即答するアルフレッドに、私はどうしても分からないことを聞いた。
「じゃあどうして手紙の返事、くれなかったの?」
私を嫌いになったわけでもなく、王女や公爵令嬢に心を寄せているわけでもないのに、避けられていた理由は。
「それは、王女殿下がアルフレッドに好意を寄せているからだよ。」
私の問いに答えたのはお兄様だった。
アルフレッドを仰ぎ見ると、苦虫を潰したような顔をしている。
「それがどうして、私に手紙を出せない理由なの?」
「私と親しく付き合っていると王女に知られれば、ティアに害が及ぶと思ったからだ。」
王女は、もともと手がつけられないほどの我が儘で癇癪持ちであると、前々から国外でも噂されるほど評判は悪かったらしい。
そしてアルフレッドに好意を抱いていた王女は、公爵令嬢がこちらへ文化交流のために留学する話を聞き付けて、引っ付いて来たのだという。
こちらに着いてからも、アルフレッドへの執着が凄まじく、アルフレッドの側に女性がいるようものなら酷く癇癪を起こし、手が付けられないようであった。
更にアルフレッドがいないところでは、侍女をいびり倒し、もう既に何人かはそれに耐えきれず、王宮を辞しているとのことであった。
そんな状況であるのに、アルフレッドが唯一心を砕く女性がいると王女の知るところになれば、なまじ権力を持っているだけに何をされるか分かったものではない、と懸念されて距離を置くことにしたのだという。
「言ってくれれば良かったのに。」
理由が分かっていれば、こんなに寂しい思いをせずに済んだと思えば、隣に座るアルフレッドを恨めしげに見てしまうのもしょうがないことだと思う。
「それは、ティアを守るためとは言え、配慮が足りずすまなかった。でも、押してダメなら引いてみろというだろう?まさかそれで私が捨てられそうになるとは思わなかったが…。」
「そんなことしなくても、私がアルを大切に思う気持ちは変わらないわ。それに、私がアルを捨てるって何?そんなことしないわよ?」
私の気持ちを疑っていたのかと、拗ねた気持ちになる。
アルフレッドは苦笑いを浮かべ、お兄様はそうじゃねぇっつうの、と呆れたようにため息をついた。
「ティアが婚約者になることで、私は堂々と君を守れる。複数の婚約者候補の1人と唯一の婚約者では、存在の重要性も変わってくる。王女もおいそれと手出しできない、国際問題になるからね。」
優しく、穏やかな瞳でそう語るアルフレッドに、私はピンと閃いた。
「つまり、私を守るために、便宜上私を婚約者にしてくれるということね?」
話の流れがようやく見えたようで、清清しい気持ちになる。
気づけばモヤモヤもすっかり取れた。
「アル、こいつには直球しか通用しないぞ。我が妹ながら、鈍すぎてイライラするぜ。」
お兄様がテーブルに片肘ついて、呆れたようにため息をつく。
その様子に苦笑しながら、アルフレッドは私の髪を一房自分の指に絡め取る。
「まだこのままでいいさ。ティアが心を決めるまでは。ティア、私は君が一等大事だよ。何者にも傷つけられないように、真綿に包んで閉じ込めてしまいたいほど。だから覚えておいて。君に何かあったら、私は私でいられなくなる。それがどういう意味か考えてみて。」
答えは急がないから、と絡め取っていた髪にアルフレッドがそっと口付ける。
アルフレッドから注がれる優しい眼差しに、何だかとても恥ずかしくなって、顔に熱が集まるのがとてもよく分かる。
何か言わなくちゃと口を開くが、何を言ったらいいのか分からなくてまた閉じるを繰り返して、堪らず手で顔を覆った。
クスクス笑うアルフレッドの存在を隣に感じながら、寂しく泣いていた心が温かく息を吹き返すのを感じた。
「だからさ…、ちょいちょい俺の存在忘れるの、やめてくれる?」
お兄様の呟きは、恥ずかしさで悶える私には届かなかった。
「~っ、アル!私温室に行ってくる!」
あまりの恥ずかしさに耐えられなくなって急いで立ち上がる私に、アルはクスクス笑いながら、行っておいで、と声を掛けた。
「リリーも一緒に連れていくんだよ?」
扉の外で待機しているだろうリリーを思い、コクコクと頷くと早足にアルフレッドの執務室を後にした。
恥ずかしさいっぱいの私は、温室で思いもかけずあの人に会うことになるとは、知るよしもなかった。
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