2 / 62
聖なる森と月の乙女
公爵令嬢と薬草
しおりを挟む
「もう、アルったら!あれでは婚約者の最有力候補が私だとまた誤解されてしまうじゃない。毎回誤解を解くのも大変なのよ?」
隣にいるアルフレッドをジト目で見てしまうのはしょうがない。
毎回あれのせいで、私はご令嬢から嫉妬の対象なのだ。
次回のお茶会のことを考えるとぶるりと悪寒が走る。
途轍もなく憂鬱である。
次はどういう言い訳でいこうか。幼馴染だからという言い訳は逆に火に油を注ぐらしく、最近では禁句に為りつつある。かといって、他に何か理由が思い付くわけでもなく、うんうん唸っている私に、アルフレッドは困ったようにくすくす笑いながらいつもの言葉を口にする。
「まだ諦めていないんだ?」
「諦めてないわよ!私の夢はスローライフよ!薬草に囲まれて、たまに調合しながらまったり過ごすの。」
あぁ、なんて素敵なのかしら。
考えるだけで胸がドキドキしてくるわ!
「ふーん。でもここでもできるよね?ほら、ここは君と私で集めた薬草でこんなに溢れているじゃないか。」
目の前には溢れる緑が広がる。小さい可憐な花をつけているものやほんのり香りを漂わせるものなど、薬草ばかり集めたとは思えないほど、優雅な温室だ。
もともとアルフレッドに与えられた温室だったが、私の薬草好きを知ったアルフレッドが薬草を育てる空間として提供してくれているのである。
ここには私が自領から持ち帰ったものや、アルフレッドが視察先で見つけたものなどがところ狭しと植えられている。
まさにこれは、アルフレッドと私のコレクションと言っていいほどのものである。
しかし、だ。アルフレッドは別に薬草が好きなわけではない。
唯一の幼馴染ということで、私にただただ付き合ってくれているだけ。アルフレッドは唯一の幼馴染にずいぶんと甘いのだ。
例え私がアルフレッドの婚約者となり、ゆくゆくは皇太子妃、王妃となって薬草を愛でる生活を満喫したところで、私にだけしかメリットがないなんて不公平ではないか。
「私は、アルにも幸せになってもらいたいの。」
そう、そのためにはアルフレッドを幸せにしてくれる運命の相手を探さないといけない。
今日お茶会に来ていたあの侯爵令嬢はどうだろう。身分はさるものながら、あのコミュニケーション力は目を見張るものがある。少し身分を重要視して下の貴族に冷たいところが玉に傷で…いやいや、玉に傷どころか致命傷だ。醜い嫉妬系はアルフレッドの鬼門だ。
うん、却下。
じゃああの男爵令嬢はどうだろう。あの可愛らしい見た目に、相手の心をくすぐる話術で周りの貴族子息たちを虜にしているという噂も聞く。
でも、頭の中が少しお花畑なのがいただけないなぁ。それにただひとりではなく、複数の男性を虜にというのもいただけない。
アルフレッドだけを見つめて、アルフレッドだけを愛してくれる人でなければ、アルフレッドを幸せになんてできないのだ。
あー、でもそうすると今日のお茶会の中には目ぼしい人が見当たらなかった。
また一から発掘するよう王妃様に掛け合ってみようか。
アルフレッドはテーブルに肩肘ついて顔を支えながら、そんな私の様子を困ったような、でもどこか嬉しそうな表情で見つめている。
「私は君がいてくれるだけで幸せなんだけどなぁ。」
皇太子殿下のため息を伴った小さな呟きは、まだ私に届かない。
隣にいるアルフレッドをジト目で見てしまうのはしょうがない。
毎回あれのせいで、私はご令嬢から嫉妬の対象なのだ。
次回のお茶会のことを考えるとぶるりと悪寒が走る。
途轍もなく憂鬱である。
次はどういう言い訳でいこうか。幼馴染だからという言い訳は逆に火に油を注ぐらしく、最近では禁句に為りつつある。かといって、他に何か理由が思い付くわけでもなく、うんうん唸っている私に、アルフレッドは困ったようにくすくす笑いながらいつもの言葉を口にする。
「まだ諦めていないんだ?」
「諦めてないわよ!私の夢はスローライフよ!薬草に囲まれて、たまに調合しながらまったり過ごすの。」
あぁ、なんて素敵なのかしら。
考えるだけで胸がドキドキしてくるわ!
「ふーん。でもここでもできるよね?ほら、ここは君と私で集めた薬草でこんなに溢れているじゃないか。」
目の前には溢れる緑が広がる。小さい可憐な花をつけているものやほんのり香りを漂わせるものなど、薬草ばかり集めたとは思えないほど、優雅な温室だ。
もともとアルフレッドに与えられた温室だったが、私の薬草好きを知ったアルフレッドが薬草を育てる空間として提供してくれているのである。
ここには私が自領から持ち帰ったものや、アルフレッドが視察先で見つけたものなどがところ狭しと植えられている。
まさにこれは、アルフレッドと私のコレクションと言っていいほどのものである。
しかし、だ。アルフレッドは別に薬草が好きなわけではない。
唯一の幼馴染ということで、私にただただ付き合ってくれているだけ。アルフレッドは唯一の幼馴染にずいぶんと甘いのだ。
例え私がアルフレッドの婚約者となり、ゆくゆくは皇太子妃、王妃となって薬草を愛でる生活を満喫したところで、私にだけしかメリットがないなんて不公平ではないか。
「私は、アルにも幸せになってもらいたいの。」
そう、そのためにはアルフレッドを幸せにしてくれる運命の相手を探さないといけない。
今日お茶会に来ていたあの侯爵令嬢はどうだろう。身分はさるものながら、あのコミュニケーション力は目を見張るものがある。少し身分を重要視して下の貴族に冷たいところが玉に傷で…いやいや、玉に傷どころか致命傷だ。醜い嫉妬系はアルフレッドの鬼門だ。
うん、却下。
じゃああの男爵令嬢はどうだろう。あの可愛らしい見た目に、相手の心をくすぐる話術で周りの貴族子息たちを虜にしているという噂も聞く。
でも、頭の中が少しお花畑なのがいただけないなぁ。それにただひとりではなく、複数の男性を虜にというのもいただけない。
アルフレッドだけを見つめて、アルフレッドだけを愛してくれる人でなければ、アルフレッドを幸せになんてできないのだ。
あー、でもそうすると今日のお茶会の中には目ぼしい人が見当たらなかった。
また一から発掘するよう王妃様に掛け合ってみようか。
アルフレッドはテーブルに肩肘ついて顔を支えながら、そんな私の様子を困ったような、でもどこか嬉しそうな表情で見つめている。
「私は君がいてくれるだけで幸せなんだけどなぁ。」
皇太子殿下のため息を伴った小さな呟きは、まだ私に届かない。
1
お気に入りに追加
2,040
あなたにおすすめの小説
殿下、お探しの精霊の愛し子はそこの妹ではありません! ひっそり生きてきましたが、今日も王子と精霊に溺愛されています!
Rohdea
恋愛
旧題:ひっそり生きてきた私、今日も王子と精霊に溺愛されています! ~殿下、お探しの愛し子はそこの妹ではありません~
双子の姉妹のうち、姉であるアリスティアは双子なのに妹ともあまり似ておらず、
かつ、家族の誰とも違う色を持つ事から、虐げられ世間からは隠されてひっそりと育って来た。
厄介払いをしたかったらしい両親により決められた婚約者も双子の妹、セレスティナに奪われてしまう……
そんなアリスティアは物心がついた時から、他の人には見えない者が見えていた。
それは“精霊”と呼ばれる者たち。
実は、精霊の気まぐれで“愛し子”となってしまっていたアリスティア。
しかし、実は本来“愛し子”となるべきだった人はこの国の王子様。
よって、王家と王子は“愛し子”を長年探し続けていた。
……王家に迎える為に。
しかし、何故か王家はセレスティナを“愛し子”だと思い込んだようで……
そんなある日、街でちょっとワケありな様子の男性を助けた事から、
その男性と仲良くなり仲を深めていくアリスティア。
だけど、その人は──
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される
未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】
ミシェラは生贄として育てられている。
彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。
生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。
繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。
そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。
生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。
ハッピーエンドです!
※※※
他サイト様にものせてます
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる