31 / 45
三章
統合という名の死
しおりを挟む
夏の終わりも間近に迫る頃。自分は鈴城さんと会っていた。
この夏どこかに行ったかなどの他愛もない話の後、鈴城さんはこう尋ねる。
「狼さんは、狐さんにどうなって欲しいなとか何かありますか?」
自分は思わず考えてしまう。狐が理想とする現実を手に入れた時の事を。ありきたりに言うなら、幸せを手に入れた時の事を。
そこに恐らく自分達はもういない事を。
それを考えて、それが分かっていながら、自分は現実を告げる。
「幸せになって欲しいです」
鈴城さんは頷いて、自分は裏腹な気持ちを抱えつついつも通り笑顔で対応している。
人は見かけに騙され、上辺だけで生きている。だから、普通であればそのまま終わるはずなのだが、鈴城さんは違った。
「それは、統合するという事ですか?」
自分は言葉を詰まらせる。統合――するのか。
統合は、別れた人格を少なくしたり一つにしたりするために使われる専門用語でもある。統合すれば、他の人格は消える。つまり、本来あるべき一人の姿に戻れる。
しかし、自分達他の人格からすれば、それは終わりを意味する。あった存在がなくなるのだから。
だからこそ、自分達は狐の口から『統合』という言葉が出る事を恐れている。自分達にとってそれは死を意味する言葉だからだ。
とはいえ、他の人格達は狐のためになるのであればそれもいとわない。要は、狐がそれで幸せになれないのであれば、そもそもとして統合する意味がなくなるのだ。
「統合した所で、狐は幸せになれるんですかね?」
「う~ん、そうですね……それはまた次回話しましょうか」
そう言って鈴城さんは帰っていく。
自分はその後も考えていた。
狐の幸せ。狐が自由になれる事。狐が本当に望んでいる事。
それは、自分達の終わりであり存在の消滅を意味する。
これは自分達のわがままなのか。それとも、人間らしさなのか。
それが分からず二十年。
狐ちゃんは、何が望みなのだろうと考えて、自分は迷宮にでも迷い込んだ気持ちになる。
しかし、それはある人の手紙によって解決する。
それは市川さんという人がくれた手紙だ。
この夏どこかに行ったかなどの他愛もない話の後、鈴城さんはこう尋ねる。
「狼さんは、狐さんにどうなって欲しいなとか何かありますか?」
自分は思わず考えてしまう。狐が理想とする現実を手に入れた時の事を。ありきたりに言うなら、幸せを手に入れた時の事を。
そこに恐らく自分達はもういない事を。
それを考えて、それが分かっていながら、自分は現実を告げる。
「幸せになって欲しいです」
鈴城さんは頷いて、自分は裏腹な気持ちを抱えつついつも通り笑顔で対応している。
人は見かけに騙され、上辺だけで生きている。だから、普通であればそのまま終わるはずなのだが、鈴城さんは違った。
「それは、統合するという事ですか?」
自分は言葉を詰まらせる。統合――するのか。
統合は、別れた人格を少なくしたり一つにしたりするために使われる専門用語でもある。統合すれば、他の人格は消える。つまり、本来あるべき一人の姿に戻れる。
しかし、自分達他の人格からすれば、それは終わりを意味する。あった存在がなくなるのだから。
だからこそ、自分達は狐の口から『統合』という言葉が出る事を恐れている。自分達にとってそれは死を意味する言葉だからだ。
とはいえ、他の人格達は狐のためになるのであればそれもいとわない。要は、狐がそれで幸せになれないのであれば、そもそもとして統合する意味がなくなるのだ。
「統合した所で、狐は幸せになれるんですかね?」
「う~ん、そうですね……それはまた次回話しましょうか」
そう言って鈴城さんは帰っていく。
自分はその後も考えていた。
狐の幸せ。狐が自由になれる事。狐が本当に望んでいる事。
それは、自分達の終わりであり存在の消滅を意味する。
これは自分達のわがままなのか。それとも、人間らしさなのか。
それが分からず二十年。
狐ちゃんは、何が望みなのだろうと考えて、自分は迷宮にでも迷い込んだ気持ちになる。
しかし、それはある人の手紙によって解決する。
それは市川さんという人がくれた手紙だ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる