世界の中心は君だった

KOROU

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三章

統合という名の死

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 夏の終わりも間近に迫る頃。自分は鈴城さんと会っていた。
 この夏どこかに行ったかなどの他愛もない話の後、鈴城さんはこう尋ねる。

「狼さんは、狐さんにどうなって欲しいなとか何かありますか?」

 自分は思わず考えてしまう。狐が理想とする現実を手に入れた時の事を。ありきたりに言うなら、幸せを手に入れた時の事を。
 そこに恐らく自分達はもういない事を。

 それを考えて、それが分かっていながら、自分は現実を告げる。

「幸せになって欲しいです」

 鈴城さんは頷いて、自分は裏腹な気持ちを抱えつついつも通り笑顔で対応している。
 人は見かけに騙され、上辺だけで生きている。だから、普通であればそのまま終わるはずなのだが、鈴城さんは違った。

「それは、統合するという事ですか?」

 自分は言葉を詰まらせる。統合――するのか。
 統合は、別れた人格を少なくしたり一つにしたりするために使われる専門用語でもある。統合すれば、他の人格は消える。つまり、本来あるべき一人の姿に戻れる。
 しかし、自分達他の人格からすれば、それは終わりを意味する。あった存在がなくなるのだから。

 だからこそ、自分達は狐の口から『統合』という言葉が出る事を恐れている。自分達にとってそれは死を意味する言葉だからだ。
 とはいえ、他の人格達は狐のためになるのであればそれもいとわない。要は、狐がそれで幸せになれないのであれば、そもそもとして統合する意味がなくなるのだ。

「統合した所で、狐は幸せになれるんですかね?」
「う~ん、そうですね……それはまた次回話しましょうか」

 そう言って鈴城さんは帰っていく。
 自分はその後も考えていた。
 狐の幸せ。狐が自由になれる事。狐が本当に望んでいる事。
 それは、自分達の終わりであり存在の消滅を意味する。

 これは自分達のわがままなのか。それとも、人間らしさなのか。
 それが分からず二十年。

 狐ちゃんは、何が望みなのだろうと考えて、自分は迷宮にでも迷い込んだ気持ちになる。
 しかし、それはある人の手紙によって解決する。
 それは市川さんという人がくれた手紙だ。
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