世界の中心は君だった

三章

梟の伝達

　僕は、鈴城さんに会ってありのままを話した。
　鈴城さんは的確に質問してくれたので、僕はそれにありのままの記憶を伝えた。

　狐の父親は狐が三歳の頃に事故で亡くなっている事。
　そこからは、母親が女手一つで育ててくれた事も話した。

　狐は順調な学校生活を送っていた事も話した。
　その途中で、いじめられていた子を助けたがためにいじめの対象になった事も伝えた。
　そのいじめがエスカレートして、不登校という決断をした事も。

　不登校で引きこもりになった後は、勉強とゲームなどをしていた。
　勉強は色々と行っていて、ゲームなども色々していた事を伝えた。
　この頃に人格がポコポコ生まれた事も、その人格が高卒認定を取った後で消えた事も話した。

　仕事の事は、比較的順調だった。
　途中で辞めはしたが、どこに行っても重宝される事が嬉しかったらしい事も伝えた。
　本間先生に会ったのはその後で、それまでに何度か転院した事も伝えた。

　そして地域活動支援センターの市川さんと出会い、就労移行支援、デイケアにも行った事を話した。
　市川さんとの相性は良かったが、他は退屈さや飽き、相性が悪くて通えなかったこともそのまま話した。

　仕事に関して役職が付くようになったのはその後で、仕事を楽しみにしていたのもその頃だと伝えた。
　しかし、長続きはせずに頓挫している事も話した。

　人格は増えたり減ったりしているが、今の所は増加傾向にある事も伝えた。
　狐の記憶や思い出が段々曖昧になっている事も――。

　それらを話し終えた後、鈴城さんは満足げに帰った。
　どうやら僕にもう用はないらしい。
　しかし、僕にはまだ話していない事がある。

　それは、狼の事だ。
　狼は何かを知っている事。狼は秘密を持っている事。狼はいつだって欺瞞に満ちている事。

　何よりも――狼は僕達を管理する管理者である事。
　それらを話していないのに鈴城さんは満足げに帰って行ったあたり、僕は鈴城さんはその程度なのだなと思った。