世界の中心は君だった

三章

狼の日常

　目が覚めた時、自分が布団で寝ている事に気付いた。薄手の掛布団が体にひんやりと乗っていた。
　その瞬間、『ああ、彼女は眠ったのか』と感じた。どうやらもう夏らしいという事もそれで分かった。

　彼女こと狐は、冬眠ならぬ仮眠、いや、夏眠を取る。そんな時期になったのだと自分は思った。
　という事は、これから暫く自分達で日々を補わなくてはならない。彼女とのコミュニケーション手段は断たれたわけなのだから。
　
　ひとまず、記憶を辿り、いつも通り飼っている小鳥達を起こす。そのお世話を終えて、ご飯を食べても、まだ五時二十分。そろそろ母を起こす時間だと思い起こしに行く。
　母を起こした後は、のんびりとゲームをして過ごす――で、合っているのだと思う。午前中は散歩のために最寄り駅まで行き、午後はまたゲームや読書や小鳥達と過ごす。
　夜は十九時に眠る予定でその時間までの全ては”暇潰し”だ。その合間に、彼女が何をしていたのか、何をしようとしていたのかなどを辿り実行する。
　
　それが彼女の”コピー”であり、分身である自分の役目だ。波風は立てないように過ごす。そんな日常にするのが自分の役目だ。
　しかし、”彼ら”もまた起きるとなると、面倒ではある。
　兎、梟単語ふくろう、蟻単語あり、虎という彼らが起きるのは凄く面倒だ。狐こと彼女から生まれた皆”コピー”の存在のはずなのに、生半可な自我が存在している。
　
　そのため、アレがしたいコレがしたい、ああしようこうしようとうるさくて敵わない。自分はただ平凡に、何事もない日常を過ごしたいだけだ。それなのに、彼らは邪魔をする。正直うっとうしい存在だ。
　それでも彼女が必要だと感じているのだからしょうがない。仲良くはしなくてもいいらしいが、喧嘩しないように過ごすだけだ。

　自分にとって夏は面倒くさい。他の季節ならばそんな事もないのに……。
　自分は、ただ過ごしたいだけだ。静かで穏やかで何の変哲もない日常を。それが彼女の欲しているものだから。