世界の中心は君だった

KOROU

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二章

友人や知人の類で

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 ゴールデンウィーク明けの月曜日。訪問看護『すずかぜ』の鈴城さんが訪れた。
 鈴城さんは申し訳なさそうな表情で、「先日風間が失礼致しました」と謝った。私は「少し言い過ぎました」と謝る。でもそれは、礼節的に謝っているだけで、謝罪すべきは本人にだろうとも思う私がいる。

「それで今日は何の話をしましょうか?」

 鈴城さんがこのままだと謝り倒して終わりそうな気がしたので、私は話題を振る事にした。会う時間を無駄にしないためにも、切り替えが早い上に忘れん坊な私は、その程度の事で済ませてしまう。
 鈴城さんは、気持ちを切り替えたように背筋を伸ばし、穏やかな笑みでこう言う。

「それでは、今日は狐さんの過去の中でお友達とどう過ごしていたのかお聞きしたいです」

 分かりましたと言って、建設的だなと私は思う。鈴城さんは頭の回転が速い。そう受け取って、私は話し始める。

「基本的に子供の頃は色々な種類の友達と遊んでいました。ゲームやカードゲーム、鬼ごっこやかくれんぼ。おままごとやレゴブロック、ゾイドやベイブレード。秘密基地を作ったり、冒険したりなどです。そういった遊びを毎日していました」
「そうなんですね。では、比較的幼少の頃は楽しかった記憶があるという事ですね」
「そうですね」

 私は笑みを見せながら言う。そう、いじめがあったあの日まで私は楽しく遊んでいたのだ。友達もほとんどのクラスメイトや隣のクラスの子とも遊ぶほどに楽しく過ごしていた。

「大人になってからは友達はどうですか?」
「一人だけ親友がいました。もう別れてしまったんですけどね」
「そうなんですね。その方とはなんで別れてしまったのですか?」

 鈴城さんの問いに、私はIT君の顔が浮かぶ。IT君が最後に泣いた姿も同時に思い出す。
 言いにくい事ではないので、正直に私は別れた理由を告げた。

「私から付き合いを断ちました。彼は中小企業の社長。私は無職の障害者。そういった事から彼の経歴や交流関係に傷が付くと考えて、私から継続する事をお断りしました」
「そうだったんですね……」

 鈴城さんはうんうんと頷く。どこか侘しい雰囲気がしている。しかし、私にはその意味が分からない。

「狐さんはお友達からはどう見られる事が多かったですか?」
「そうですね……その彼からは、お喋りで博識で相談事をしやすいと言われました。反面、怒りやすいとかわがままとかイタズラ好きと言われました」
「そうなんですね。子供の頃は覚えてますか?」
「う~ん、めんどくさいと言われたのは覚えてます」

 ふむふむと鈴城さんはメモを取る。
 鈴城さんは、子供から大人になっての性格についてを尋ねたいのだろう。そして、なぜ私に友達や知人の類がいないのかも聞きたいのだろう。あわよくば、人間関係を構築できる人間かについても尋ねたいのだろう。
 
「狐さんは、今後もし友人や知人が出来るとしたら、どんな人と関係を築いていきたいですか?」

 私は思わず唸って考える。人間関係の構築。私が苦手とする分野であり、特に希望はないのだ。

「どんな人かは出会ってみないと分からないので何とも言えません」

 正直に答えると、鈴城さんは「そうですよね」と頷いた。何か含みがあった気もするが、それを気にしない事にした。気にすると面倒な気がしたから。

 そうしてこの日の訪問看護は幕を閉じる。
 私はふと、IT君を思い出す。彼は、私が出会ってきた中で、一番立派な人だった。
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