世界の中心は君だった

KOROU

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一章

桜並木はいつだって切ない香りがする

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 春の匂いはいつもどこか切ない香りがする。
 人は春を喜ぶけれど、私は悲しくてなんだかやりきれない。

 特に桜並木の匂いは、悲喜に満ちていてあまり近づきたくない。桜が満開になると人は嬉しさを持って見に行くらしいが、私はここ数年桜並木を見ていない。
 そのせいか、今日日桜並木を見る事になるとは思っていなくて、困惑で胸がいっぱいだ。

 そもそも今日も出かける予定はなかった。しかし、数日前にスマホに着信があった。普段は滅多に鳴らない私のスマホ。その相手は地域活動視線センターの平田さんだった。

 平田さんとはまだ日が浅い付き合いだ。今日会うので二回目。一回目はセンター利用のために面談した程度だ。だからアレコレ言える程の仲ではない。それに、私はあまり平田さんが好きではない。

 私の感覚が正しければ、平田さんはどこか一方的に喋りたいだけの人に思える。傾聴という聴く姿勢よりも、話したいだけの人に思えるのだ。そういう人は私の苦手とする分野だ。
 そのため、私は今いろんな意味で困っている。移動のためのバスの後部座席で小さく吐息を吐いて外を見る。

 桜並木。桜は儚く散るために咲いているのか、それとも咲き誇るために咲いているのか。それがイマイチこの二十年間分からない。
 最も、植物学的に言えば繁栄のためなのだろうけれど。

 でも、バスの中には「わぁ綺麗」と言っている人達が居る。この人達にはきっと私の”切ない香り”が分からない。それからバスの中では静かにしていて欲しい。公共の交通機関なのだから。

 春はいつだって私を困らせる。IT君と別れたのも春。学校に行かなくなったのも春。仕事を辞めたのも春。
 春にあまり良い記憶がないから、私は桜の匂いを切ない香りと思うのだろうか。

 私は再び溜息を零す。間もなくして、平田さんが待つ地域活動支援センターが見えてきた。
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