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新しい生活
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父は街外れの一軒家を探してくれた。下位貴族が手放したこじんまりとした邸で、父が貴族令嬢のセレスティナが生活するために用意したようだ。だがそこはセレスティナが一人で住むには少し大きすぎる。
セレスティナはカクテスト伯爵家と縁を切り、平民として生きていくと言ったのに…だが16歳になる今まで貴族として使用人にかしずかれて生きてきたセレスティナにも誰の助けもなければ生きていけないのがわかり苦笑する。
今まで伯爵邸にいた年老いて引退しようとしていた料理人のリュンホとその妻のカジュア、息子のコアルドがセレスティナについていくことになった。
表向きはセレスティナが病気療養でこの別邸に移り住む。その後は病気も良くなるがそのまま別邸で暮らし社交界から遠ざかるというのが父の考えたストーリーだ。
「カジュア。わたしにもお掃除の仕方を教えて?」
今は父がセレスティナの邸の使用人に給金を出しているが、いずれ父がセレスティナを見限れば収入のないセレスティナは彼女たちを雇い続けることができない。
もちろん、父も無一文で放り出すほど非道ではない。セレスティナの結婚の支度金としていたお金をセレスティナに渡してくれている。
だが、父からの援助が打ち切られたら今のように働かなければ食いつぶすだけだ。
そうなれば使用人を雇い続けられなくなり必然的になにもかも一人でするしかないのだ。
広すぎる邸に少ない使用人。最初はたしなめていた彼女達もセレスティナと掃除や洗濯、料理まで一緒にするようになっていた。
郊外にある貴族の別邸として成り立つ最低限の邸はこじんまりとはしているものの部屋数はそれなりにあり、庭も小さいながらある。
だからカジュア達の手伝いがなければ今の状態を維持していけない。
セレスティナ一人で住むのだからこんな大きな邸はいらないのだ。ゆくゆくはもっと小さな家に移り住もう。
引っ越しして数日は片付けで日中は忙しく動いているセレスティナだが、夜になるとつい考えてしまう。
家族の事、そしてゲイルの事を。
そうやって思い出しては知らずに涙が流れている。
やっと生活が落ち着き、簡単な身の回りのことは出来るようになった。
ようやく孤児院を訪れることができた。
「みんな。なかなか来れなくてごめんなさいね。今日は私が作ったクッキーを持ってきたの。よかったら食べてね。」
「えっ、ティナ様が作ってくれたの?嬉しい。」
「料理人さんいなくなっちゃったの?」
「ティナが作ったのならオレは不味くても食べるよ。」
子供達が口々に言いながら、セレスティナを囲んで孤児院の応接室に連れて行く。
セレスティナは久々に子供達の笑顔を見て自然と笑みがこぼれた。
応接室ではシスターがセレスティナをもてなす。子供達は外で遊んでいる。
「セレスティナ様。いつもありがとうございます。子供達も喜んでおります。体調を崩しておられたとか?そんな噂を小耳に挟みまして…。その後お加減はいかがでしょうか?ご無理をなさってはおられませんか?」
「シスター。心配していただきありがとうございます。少し体調を崩して病気療養を兼ねて、伯爵邸を出てこの近くに住むことになりましたの。これからは今まで通りとはなりませんが、わたしのできる範囲で支援させていただきたく思っております。
それで職業訓練校のことなんですが…」
職業訓練校とは執事や侍女、メイドなどの使用人や宿屋、飲食店、庭師などの多種多様な職業に就きたい人が通い勉強する学校だ。
授業料は無料だが、学業品や毎日の昼食代はかかる。平民はそれら全てを工面するのもなかなか苦労する。まして日々の生活を寄付でまかなう孤児など通えるはずもない。
セレスティナが自分の小遣いを寄付をしても1人通わすのがやっとだった。
自分の邸を持ったセレスティナは余っている部屋で年少の子供に字や簡単な計算を教えようと考えた。そして職業訓練校に通えていない年高の子には邸でリュンホからコックとしての仕事。カジュアやコアルドから使用人としての仕事を教えてもらったらどうかと思った。
もちろん、正式に雇うわけではないが、仕事をしてもらうのだからお小遣い程度の給料を払うつもりだ。
そうシスターに話すと賛成してくれた。
子供達に話をして了承してくれた男女4人を選んだ。
アレックスとジュリアンはコアドルと一緒に馬番や庭師の仕事、護衛、馭者、力仕事などをする。
カリンとサリアはリュンホからお料理をカジュアからメイドとしての仕事や役割を教わる。
アレックスとカリンは住み込みで、ジュリアンとサリアは園から毎日年少の子達を連れて通うことになった。
そんな穏やかな毎日が過ぎていった。
セレスティナはカクテスト伯爵家と縁を切り、平民として生きていくと言ったのに…だが16歳になる今まで貴族として使用人にかしずかれて生きてきたセレスティナにも誰の助けもなければ生きていけないのがわかり苦笑する。
今まで伯爵邸にいた年老いて引退しようとしていた料理人のリュンホとその妻のカジュア、息子のコアルドがセレスティナについていくことになった。
表向きはセレスティナが病気療養でこの別邸に移り住む。その後は病気も良くなるがそのまま別邸で暮らし社交界から遠ざかるというのが父の考えたストーリーだ。
「カジュア。わたしにもお掃除の仕方を教えて?」
今は父がセレスティナの邸の使用人に給金を出しているが、いずれ父がセレスティナを見限れば収入のないセレスティナは彼女たちを雇い続けることができない。
もちろん、父も無一文で放り出すほど非道ではない。セレスティナの結婚の支度金としていたお金をセレスティナに渡してくれている。
だが、父からの援助が打ち切られたら今のように働かなければ食いつぶすだけだ。
そうなれば使用人を雇い続けられなくなり必然的になにもかも一人でするしかないのだ。
広すぎる邸に少ない使用人。最初はたしなめていた彼女達もセレスティナと掃除や洗濯、料理まで一緒にするようになっていた。
郊外にある貴族の別邸として成り立つ最低限の邸はこじんまりとはしているものの部屋数はそれなりにあり、庭も小さいながらある。
だからカジュア達の手伝いがなければ今の状態を維持していけない。
セレスティナ一人で住むのだからこんな大きな邸はいらないのだ。ゆくゆくはもっと小さな家に移り住もう。
引っ越しして数日は片付けで日中は忙しく動いているセレスティナだが、夜になるとつい考えてしまう。
家族の事、そしてゲイルの事を。
そうやって思い出しては知らずに涙が流れている。
やっと生活が落ち着き、簡単な身の回りのことは出来るようになった。
ようやく孤児院を訪れることができた。
「みんな。なかなか来れなくてごめんなさいね。今日は私が作ったクッキーを持ってきたの。よかったら食べてね。」
「えっ、ティナ様が作ってくれたの?嬉しい。」
「料理人さんいなくなっちゃったの?」
「ティナが作ったのならオレは不味くても食べるよ。」
子供達が口々に言いながら、セレスティナを囲んで孤児院の応接室に連れて行く。
セレスティナは久々に子供達の笑顔を見て自然と笑みがこぼれた。
応接室ではシスターがセレスティナをもてなす。子供達は外で遊んでいる。
「セレスティナ様。いつもありがとうございます。子供達も喜んでおります。体調を崩しておられたとか?そんな噂を小耳に挟みまして…。その後お加減はいかがでしょうか?ご無理をなさってはおられませんか?」
「シスター。心配していただきありがとうございます。少し体調を崩して病気療養を兼ねて、伯爵邸を出てこの近くに住むことになりましたの。これからは今まで通りとはなりませんが、わたしのできる範囲で支援させていただきたく思っております。
それで職業訓練校のことなんですが…」
職業訓練校とは執事や侍女、メイドなどの使用人や宿屋、飲食店、庭師などの多種多様な職業に就きたい人が通い勉強する学校だ。
授業料は無料だが、学業品や毎日の昼食代はかかる。平民はそれら全てを工面するのもなかなか苦労する。まして日々の生活を寄付でまかなう孤児など通えるはずもない。
セレスティナが自分の小遣いを寄付をしても1人通わすのがやっとだった。
自分の邸を持ったセレスティナは余っている部屋で年少の子供に字や簡単な計算を教えようと考えた。そして職業訓練校に通えていない年高の子には邸でリュンホからコックとしての仕事。カジュアやコアルドから使用人としての仕事を教えてもらったらどうかと思った。
もちろん、正式に雇うわけではないが、仕事をしてもらうのだからお小遣い程度の給料を払うつもりだ。
そうシスターに話すと賛成してくれた。
子供達に話をして了承してくれた男女4人を選んだ。
アレックスとジュリアンはコアドルと一緒に馬番や庭師の仕事、護衛、馭者、力仕事などをする。
カリンとサリアはリュンホからお料理をカジュアからメイドとしての仕事や役割を教わる。
アレックスとカリンは住み込みで、ジュリアンとサリアは園から毎日年少の子達を連れて通うことになった。
そんな穏やかな毎日が過ぎていった。
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