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その扉の先は8
しおりを挟む「さ、......桜庭様っ!」
「......うん。」
会長も、信じられないことに俺と同じ気持ちでいてくれたのだとわかった。俺が好きだと、そう伝えてくれた。
だから俺も。
目の前の彼に正直な気持ちを伝えよう。
「おめでとうございます!!」
「あ、うん。............ーーえ?」
「桜庭様と会長様! 本当におめでとうございます! 僕たちもすごく嬉しいですっ。」
ーーえ?
嬉しい? 彼は今嬉しいと言ったのか。
悲しいの間違いじゃなくて?
「あの、」
「どうぞ二人でこれからたくさん幸せになってください。」
「え、......いや」
え、あれ?
え、まじでなんなの。訳がわからないんだけど。
今、彼泣いてたよね。まさか嬉し泣きだったなんていわないよね。それに、
自分の好きな人が自分ではない人と一緒にいる。そんな光景に、そんな素直に。
【幸せになって】
なんて俺は言えない。俺は、たぶん言えない。
ぎゅっと両手をあわせて握り、大きな目には透明な涙。ほほを上気させてこちらを見つめてくる彼に、目線は自然と下へ下がる。
「会長様、ほんとうによかったですねっ。僕たちも会長様を陰ながら応援できたこと、ほんとうに嬉しく思います。」
え? 応援?
「会長様が桜庭様に想いを寄せられていると聞いたときは、少し悲しくもありましたが、こうして二人が隣に並ばれているのを見ると、ほんとうに幸せな気持ちになれます。」
......なんだか、食い違っている。
なんだか、おかしい。
彼は、昔を懐かしむような目をして会長を見る。
対する会長は、どうしてか何かに焦るような表情で、彼を見つめていた。
「え、......会長?」
そんな会長の表情に首を傾げながら、声をかける。その途端。
「さくらばあっ!!」
「ぁ、会長っ!」
俺の名前を叫びながら飛び出してきて愛先輩と、それを合図にするように生徒会室と反対の方へ走っていってしまった会長。そしてそんな会長へ、モーゼのように道を開ける生徒たち。
え、......なにこれ。どうなってるの。
突然のことに驚いて、足が思うように動かない。
「桜庭っ!」
「ぁ、愛先輩。」
会長を追いかけられないまま固まっていると、いつもの怒声に近い声が耳をうつ。声のまま視線を向けてみれば、さっき声をかけてきた親衛隊の子と愛先輩の姿がある。
「あ、......愛、せんぱい。......会長が」
思わず愛先輩の名前を呼んで、助けを求める。
俺の知らないことだって、愛先輩なら知ってるかもしれない。会長が焦った表情を浮かべていた理由も、ここから。俺から、逃げ出してしまった理由も。
「............さくらばあ! てめぇ、そんな顔してんじゃねぇよ!」
「せんぱい、」
「情けねぇ声だすな! 仕方ねぇからとっておきの情報教えてやるよっ。......理巧はどうせ言わねぇんだろうし。」
とっておきの情報?
なにそれ。正直すごい気になる。
だけど、いま俺が一番気になってるのは、ここから居なくなってしまった会長のことで。ここから走ってどこに行ってしまったんだろうか。
会長の居なくなってしまった方へ視線を投げる俺の肩が、勢いよく引っ張られる。
驚きに目を大きくしながら、されるがまま。横に振り向けば、怒ったような愛先輩の表情が目に入る。そしてその後ろには、さも当然のように錦の姿。
......なに、こいつ。いつ来たの?
そう言葉にしようと口を開いた直前、愛先輩の鋭い目が、ほんの僅かほんの少し。
優しくなったことに気づく。
「おい、......桜庭。」
右手を左手に合わせて、力を込めて握りこむ。唇を噛む力は酷く強いように思える。
なにかを耐えるようなその仕草に、みたことのない愛先輩をみて。
「......お前のことは許せねぇし、やっぱすげえムカつくし。なんでこんな鈍感バカがいいんだよっ! って思うけど。理巧が決めたことだし、しょうがないとしか思えねぇし。だけど、軽い気持ちであっちに行くな。あいつは、」
あいつは、ーーーー。
続く言葉を聞いて、俺は走り出した。
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