王様のナミダ

白雨あめ

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王様の涙3

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「かい、ちょう?」

今、会長はなんて言ったんだ。

俺のことが好きだって、そう言ったのか?


「会長、」


口はちゃんと動いてて、きょろきょろ辺りを伺う俺と同じ動作に、きちんと会長の言葉だとわかる。

耳はいまだ赤くて。
きっと俺だって真っ赤で。

だけど、でも。会長は。会長には。


「無理、しなくていいよ。……俺が好きって言ったからって、会長まで」

「は......? なにいってんだ。」

「なにいってんだ、って。」


全く分からないという顔をしてこちらに視線を戻した会長に、もう俺の方が分からない。
なにいってんだ、は会長でしょ。

戸惑いよりも疑問よりも、悲しみよりも。
何よりも先に湧いてきたのは、久しく感じていなかった、純粋な怒り。


「会長こそなにいってんの。俺が好きとか意味わかんない。会長が好きなのは、転校生でしょ。それなのに、俺が好きとかいみわかんない。」

「………は? てめぇ、もう一回言え。俺が誰を好きだって?」

「だからっ! 会長は転校生がーーーーっ、」


刹那。

感じたことがあるような圧迫感。
視界の端に映るネクタイに、またネクタイを掴まれたのだとわかる。

引き寄せられる身体に、離れる足。

反射的に目を瞑って、



「ぇ。」



唇に何かが噛みついた。


「ちょっ、なっ。」

咄嗟のことに、一瞬反応が遅れる。
服越しに触れあう胸元を、思いっきり押し返した。


「会長っ。一体なにして!」


き、き、キスっ。なんてっ。

「うるせぇな。てめぇがきもちワリィこと言うからだろうが。誰があんなクソモジャ好きになんだよ。」

......クソモジャ。

まぁ、もじゃもじゃしてると言えばしてるけど。

ていうか、


「え、会長。転校生のこと好きじゃないの?」

俺はこっちの方が気になって。

「あ? 好きなわけねぇだろ、ふざけんな。どこをどう見たらそんなことになんだ。」

「どこを、って。......、どこをどう見てもそうとしか見えなかった。」

それに、愛先輩だって。

「お前がなにをどう見てたとしても関係ねぇ。俺は、あのクソモジャのことなんか好きじゃない。俺が好きなのは、」

「ほんとに?」

たまらず、会長の言葉を遮ってそう問いかける。

これが、夢か何かじゃないことを願いたい。

「ほんとに転校生のこと好きじゃないの。」

「あぁ。」

「......そっか。」


そっか。俺はたぶん、今すごく嫌なことを考えている。
会長が転校生のことを好きじゃないって知って、ほっとして喜んで。

彼の気持ちを全く考えてない。
きっと彼は、彼の方は俺の思い違いなんかじゃなくて。きっと、


「おい、桜庭。」

「へ? あ、ぁ、はい。」

すぐ傍から聞こえてきた声に我に返る。

あぁ、そうだ。俺、今会長と。

さっきとはうって変わって固い表情を浮かべる会長に、笑みが漏れそうになるのは愛故だ。

俺は、こんな可愛い人を他に知らないから。

「ぁ、桜庭。俺は、」


会長の口がもごもごと動く。
その視線は恥ずかしがるように宙をさ迷って、俺の背中へと固定された。

ん? なんだ?


その瞬間。




ーーーーカシャ。


響き渡るのは、カメラのフラッシュ音。

二人して、その場に固まる。

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