王様のナミダ

白雨あめ

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王様の涙

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木々がさわさわと音をたてる。

みつけたのは、立ち入り禁止の場所。


顔は見えない。表情も分からない。

だけど、きっと。


会長はまた泣いている。


足音に気づいたのか、会長の声がふるえている。


「......さく、らば」

「会長、」

「......くるな。」

「会長。」

「くるなっ!!」



1歩踏み出せば届く距離にある背中。聞こえた声はやはり震えていて。
伸ばしかけていた手を下ろす。

俺に聞かれたくないのか、声を押し殺して背を向ける会長の背中は酷く小さく見えた。

「会長。なんで泣いてるの。なにが悲しいの。」

「......さく、らば。」

「もし、さっきのことで会長が泣いてるんだったら違うから。俺は別に家のために会長に近づいたんじゃない。」

「っ、」

「ただ俺は、」


そう。ただ俺は、


改めてポケットを探る。

やはりハンカチは見当たらない。


だから。だから仕方ないのだ、と。

それを理由にしてもいいだろうか。いまだけ、いまだけ。


ハンカチを忘れてしまったから。


「会長。」

「............っ!」


震える腕を後ろから捕まえる。

驚いたようにこちらを向いた会長の背中に手を回して、そのまま強く引き寄せた。

「は? ちょっ、おいっ!」

暴れる会長の顔を肩において、強く抱きしめる。
会長の体温がぴたりと俺にくっついて、頬があつい。

身体の至るところから熱が上がってくるみたいに。

こんな時でなかったら、俺にこんな真似できないだろう。会長、俺より確実に力強いし。

「さく、らばっ! はなせっ。」

すぐ傍から戸惑ったような声が聞こえて、腕の力を強くする。きっと会長は嫌だろうけど、すぐに済むから待ってほしい。


俺の気持ちを誤解してほしくないという、俺のわがままをきいてほしい。

すぅ、と息を吐く。

会長の身体が震えたのがわかった。


「会長。.....ちゃんと聞いてほしい。俺のこと。俺は家のこととは全然関係なくて」

「......じゃあなんでだ。」

「ぇ。」

「なんで俺にりっ、リンゴもってきたっ。なんで俺を手伝った! なんで俺を、」


手が離れる。体温が遠のいた。


ーー探しにきたんだっ。


その声があまりに悲痛で。

視線を下に下げる。


「っ、」


言葉に詰まる。

俺が今まで会長にしてきたことは、所詮自己満足で。そう分かってはいたけど止められなくて。

迷惑だったのかもしれない。

いきなりお見舞いに行ったり、強引に生徒会室に押しかけたり。

俺は会長のなんでもなくて。


「............。」


だけど。俺は、


口が渇く。

心臓がどきどきと音をたてた。

指先は冷たくなって、たまらず服を強く握る。


つま先はもう見ていられない。思いきって顔を上げる。

さっきよりほんの少し離れた場所で、濡れた瞳が俺を見る。



「会長。」




俺は、


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