王様のナミダ

白雨あめ

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彼の友人

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「えっーと。......ここ、だよね。」

右手でしゃかしゃか揺れるビニール袋を引き上げ、抱え込む。
ついさっき買ったリンゴがちゃんと入っているのを確認して、思わず目を反らしてしまった目の前の光景をもう一度盗み見た。


「............。」


ダメだ。やはり、現実だった。

「うわー。どうしよう。」

口をついてでたのは、そんな言葉。
無事、会長の部屋にたどり着けたのはいいけれど、これは予想していなかった。いや、考えたくなかったというのが正しいかもしれない。
会長までたどりつく、最大の関門を忘れていた。


「はーい、君は却下で。......はい、次っ。さっさと並ぶ! もたもたすんなっ!」

「はいっ!」

小柄な体躯なのに、そこから放たれる威圧感は凄まじいものがある。

「名前は?」

「......、へ?」

「お前の名前だよっ! ちゃんと耳ついてんのか。」

「はいっ!」



「............。」



わー、もう恐い。
ふつうに恐いんですけど。
外見や雰囲気はあの生徒たちと同じものがあるというのに、あの違いはなんだろう。彼の背後には、鬼のようなオーラすら感じてしまう。

今の子なんてもう涙目だよ。
俺の未来があそこにあるよ。

「はい、次っ! って、......あ? もういねぇのか。案外少なかったな。」

彼の童顔とは不釣り合いな低い声が廊下に響く。わらわらと群れを作り去っていく生徒たちの表情は、一様に落ち込んでいるそれ。
あー、この状況すごく名乗り出たくない。このまま彼が帰っていくのをここで待とうか。

彼との接触はできるだけ避けるのが、お互いのためでもあるはずだ。きっと。

「よし。」

早々にそう小さな決意をし、廊下の曲がり角にそーっと隠れる。男子高校の平均身長よりだいぶ低いだろう彼の後ろ姿を見つめて低く隠れた瞬間。


「わっ!」

なに!

突然、後ろから腕を強く引かれ、危うく後ろへ転びそうになる。
驚きのあまり出した声は思いの外高く響いて恥ずかしいし。顔をあげれば、想像通りの人物が眼前に。

「桜庭先輩はっけーん。」

「...........錦。」

はーまじか。
目に映りこんだ、まぶしいほどの銀髪に哀しいかな、瞬時に状況を把握してしまう。
派手な髪色の似合う整った顔を大きく歪め、相変わらず何を考えているか分からない笑顔で猫なで声をだしてくる。それが異様なほど似合っていないのは、本人も承知のうえだろう。

嫌がらせとしか思えない。

それに、


「桜庭ーっ!」


錦に見つかってしまったということは、彼に見つかってしまったも同然だ。学園最大の親衛隊をまとめる親衛隊長の名は伊達ではない。

「愛せんぱい。」

「だぁれが愛だ! 名字で呼べっ、名字で!」

彼の名前を呼んだ途端、耳に響く甲高い声に危うく耳をふさぎそうになる。その体のどこからこんな声がでるのか知りたいぐらいだ。女の子並みに高い声。音域が広すぎる。
ついさっきとは違い興奮気味なのか、こういうときの彼は酷く落ち着きがない。


「まぁー、まぁー、落ち着いて。落ち着きましょう。あ、い、せ、ん、ぱーい。」

「......錦。お前あとで絞めるからな。」


錦はいつも通り、火に油をそそごうとしている。


「で。」

「え?」


錦を鋭く睨んでいた彼の目が俺を捉える。その目はいつも以上に険悪だ。

「どうしててめぇがここにいるんだよっ。ここにはお前の部屋はねぇぞ。」

「あ、あーうん。会長が熱だしたってきいて、ちょっと心配で。お見舞でもとおもって。」

「あ?」

「え?」


どうして俺がここにいるのかの説明に、彼の機嫌は急降下したようだ。はじめから機嫌が悪かっただけに、その顔つきはお世辞にも可愛いとは言えない。

「は? お前が見舞い? お前が、理巧の見舞いにきたっていうのかよ。」

なぜか。信じられないとばかりにこちらを睨み付けてくる愛先輩に、首を傾げるほかない。

確かに、いままで会長とは同じ役職もちという関わりしかなかったけれど、知っている人が熱をだしたと聞かされれば、やはり心配にはなるもので。
それが、あの何事にも負けることを知らないような会長なら尚更だ。
あんな夢をみてしまったからという理由も否定はできないけれど。

「愛先輩?」

だけど、ただの顔見知りで、やっぱりお見舞はいきすぎていたのだろうか。
口を半開きにして、こちらも驚いたように俺を見てくる錦の表情に落ち着かない気持ちになってしまう。

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