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第二話
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「私はあなたを救えてなどいません、アンリ嬢。あなたがミミ嬢に嫌がらせをされている姿を黙ってみていました。」
「でもそれは、証拠を集めてくれていたんでしょう。」
クリス様は暗い顔を上げ、私を見据えた。
碧眼の縁を緑色が散らばるきれいな瞳。
こんなに近くで彼の眼をみることなんてなかったから、今まで気づかなかった。
キラキラと光ってきれい……。
「私はあなたがミミ嬢に悪質な嫌がらせを受けているところを発見し、それを利用しようと考えました。その時の気持ちで動けば最悪殿下にすべてをもみ消される可能性もあった。殿下は、ミミ嬢を……、好いているようにみえましたから。まずは決定的な証拠を集めるべきだと考えた。言い訳ですね。その結果、なたをひどく傷つけた。……殿下はすべてを知っていて放置していたのでしょう。そこに、ミミ嬢があなたにイジメられているから助けてほしいと殿下にとって都合のいいことを言ってきた。それを……利用しようとしたのかもしれません。」
そっか……。
気が付かなかった。殿下はミミ嬢のことを…。
邪魔者は私だったんだ。
殿下は私と婚約破棄したいがために、ミミ嬢の嘘をしりながら、それをさも本当のことのように利用したのだろう。
俯いた拍子に、くるくると巻かれた金髪が私の頬にかかった。
今日の朝も家のメイドが、王子の婚約者に相応しい様、私の髪を綺麗にセットしてくれたのに。
すべて意味がなかったんだ。すべて……。
さっきは寸前のところで耐えた涙があふれそうになる。
もう、どうすれば…。
「アンリ嬢、顔を上げてください。あなたは何も悪くない。その鈍感なところさえあなたの魅力なのです。」
「え?」
顔を上げれば、優しい顔で私を見下ろしているクリス様。
ぼーっとその美しい顔をみていると、クリス様は急に私の前に膝をついて屈んだのだ。
「な、なにをっなされているのですっ!」
クリス様は黙ったまま、ゆっくりと私の右手をとった。
光の加減で変わるエメラルドみたいな瞳に見上げられて、困ってしまう。
「私は最低な男です。私はどこかで、あなたが殿下と婚約破棄なさることを望んでいました。私の恋は……、始まったときから終わっていたものでしたから。」
そう言いながらクリス様が目を伏せる。
それは、……。
「あなたに出会ったとき、あなたはすでに殿下の婚約者だった。許されない想いでした。でも、いまなら……。」
クリス様は私の右手を自身の額へと優しく添えた。
「こんな私を許してくださいますか? あなたを手に入れたいがために、あなたを傷つけた私を。」
その声は懇願するように震えていた。
クリス様が私のことを…?
そんなこと考えたこともなかった。だけど、こんなに真剣に想いを伝えてくれる方。
歩み寄りたい、そう思った。
「許すもなにもありません。あなたは私を助けてくれたではありませんか。クリス様がなんと言おうと私はあなたに助けられた。……、まずはお友達からということでどうでしょう…?」
自信がなく、恐る恐るクリス様をみればクリス様は目を輝かせ私をみていた。
心底うれしい、といったような明るい表情で。
「はい! 是非とも友人になりたい。」
クリス様の大きな、はいっ! に少し驚いてしまう。
私の右手から手を放し、目の前に立ったクリス様は私の頭1つ分以上高い。
「そうだ。明日は空いてますか? 最近、街で流行りの【ふるーつたると】のお店がきになっていて……。よかったら一緒に…、どうでしょう?」
「はひっ。ぜひ!」
力みすぎて変な声がでてしまう。
こんなはずじゃなかったのに!
はずかしくなってクリス様をみると、クリス様は目を真ん丸にして、それから。堪えきれないという風に、綺麗に上品に笑い出した。
※※※※※※※
「アンリー、そろそろでるよー」
「はーい。今いきます。」
あれから10年。
ミミ嬢は、その後王子を謀った罪で学園を追放。親戚のいる辺境の子爵領で農家のようなことをしているという。
王子は、王族ということもあり、学園の件でのお咎めは特になかったが、その後も問題を起こし、王位継承権を剥奪。
王位の座には3年前第二王子のオスカー様が就かれた。
クリスはオスカー陛下の下で宰相を務めている。
「ぱぱー。まってよお。」
「アルク、ほらこっちだ。ママと一緒においで。」
「旦那様、奥様。家のことはしっかりお守りいたしますので、心配なされぬよう。いってらっしゃいませ。」
執事に見送られ、邸をでる。
御者が用意してくれた馬車に3人で乗り込んだ。
「ぱぱー。どこいくの?」
「んー、どこだと思う?」
クリスの膝に手をおき、肩をよじ登ろうとしている。
くりくりの碧眼に、プラチナブロンドの髪。
天使のような私たちの子。
「アルク、たのしみね。」
「うん、たのしみー!」
今日は6年目の結婚記念日。
結婚記念日は毎年家族で出かけるのだ。
下の子はまだ生まれて半年なので今日はお留守番。
「アンリ。」
呼ばれてクリスの腕のなかのアルクから顔をあげると、あの日から変わらない美しい人が見える。
私の耳にそっと美しい顔を寄せて、
「私と結婚してくれてありがとう。」
こちらこそ、という思いをこめてクリスの頬にキスを送る。その途端、甘い笑みを結ぶ彼の顔。
あぁ、幸せだ。
これ以上ない日常にそんな想いがこみ上げる。
「愛してるわ、クリス。」
私が王子に婚約破棄されて幸せになった話。
「でもそれは、証拠を集めてくれていたんでしょう。」
クリス様は暗い顔を上げ、私を見据えた。
碧眼の縁を緑色が散らばるきれいな瞳。
こんなに近くで彼の眼をみることなんてなかったから、今まで気づかなかった。
キラキラと光ってきれい……。
「私はあなたがミミ嬢に悪質な嫌がらせを受けているところを発見し、それを利用しようと考えました。その時の気持ちで動けば最悪殿下にすべてをもみ消される可能性もあった。殿下は、ミミ嬢を……、好いているようにみえましたから。まずは決定的な証拠を集めるべきだと考えた。言い訳ですね。その結果、なたをひどく傷つけた。……殿下はすべてを知っていて放置していたのでしょう。そこに、ミミ嬢があなたにイジメられているから助けてほしいと殿下にとって都合のいいことを言ってきた。それを……利用しようとしたのかもしれません。」
そっか……。
気が付かなかった。殿下はミミ嬢のことを…。
邪魔者は私だったんだ。
殿下は私と婚約破棄したいがために、ミミ嬢の嘘をしりながら、それをさも本当のことのように利用したのだろう。
俯いた拍子に、くるくると巻かれた金髪が私の頬にかかった。
今日の朝も家のメイドが、王子の婚約者に相応しい様、私の髪を綺麗にセットしてくれたのに。
すべて意味がなかったんだ。すべて……。
さっきは寸前のところで耐えた涙があふれそうになる。
もう、どうすれば…。
「アンリ嬢、顔を上げてください。あなたは何も悪くない。その鈍感なところさえあなたの魅力なのです。」
「え?」
顔を上げれば、優しい顔で私を見下ろしているクリス様。
ぼーっとその美しい顔をみていると、クリス様は急に私の前に膝をついて屈んだのだ。
「な、なにをっなされているのですっ!」
クリス様は黙ったまま、ゆっくりと私の右手をとった。
光の加減で変わるエメラルドみたいな瞳に見上げられて、困ってしまう。
「私は最低な男です。私はどこかで、あなたが殿下と婚約破棄なさることを望んでいました。私の恋は……、始まったときから終わっていたものでしたから。」
そう言いながらクリス様が目を伏せる。
それは、……。
「あなたに出会ったとき、あなたはすでに殿下の婚約者だった。許されない想いでした。でも、いまなら……。」
クリス様は私の右手を自身の額へと優しく添えた。
「こんな私を許してくださいますか? あなたを手に入れたいがために、あなたを傷つけた私を。」
その声は懇願するように震えていた。
クリス様が私のことを…?
そんなこと考えたこともなかった。だけど、こんなに真剣に想いを伝えてくれる方。
歩み寄りたい、そう思った。
「許すもなにもありません。あなたは私を助けてくれたではありませんか。クリス様がなんと言おうと私はあなたに助けられた。……、まずはお友達からということでどうでしょう…?」
自信がなく、恐る恐るクリス様をみればクリス様は目を輝かせ私をみていた。
心底うれしい、といったような明るい表情で。
「はい! 是非とも友人になりたい。」
クリス様の大きな、はいっ! に少し驚いてしまう。
私の右手から手を放し、目の前に立ったクリス様は私の頭1つ分以上高い。
「そうだ。明日は空いてますか? 最近、街で流行りの【ふるーつたると】のお店がきになっていて……。よかったら一緒に…、どうでしょう?」
「はひっ。ぜひ!」
力みすぎて変な声がでてしまう。
こんなはずじゃなかったのに!
はずかしくなってクリス様をみると、クリス様は目を真ん丸にして、それから。堪えきれないという風に、綺麗に上品に笑い出した。
※※※※※※※
「アンリー、そろそろでるよー」
「はーい。今いきます。」
あれから10年。
ミミ嬢は、その後王子を謀った罪で学園を追放。親戚のいる辺境の子爵領で農家のようなことをしているという。
王子は、王族ということもあり、学園の件でのお咎めは特になかったが、その後も問題を起こし、王位継承権を剥奪。
王位の座には3年前第二王子のオスカー様が就かれた。
クリスはオスカー陛下の下で宰相を務めている。
「ぱぱー。まってよお。」
「アルク、ほらこっちだ。ママと一緒においで。」
「旦那様、奥様。家のことはしっかりお守りいたしますので、心配なされぬよう。いってらっしゃいませ。」
執事に見送られ、邸をでる。
御者が用意してくれた馬車に3人で乗り込んだ。
「ぱぱー。どこいくの?」
「んー、どこだと思う?」
クリスの膝に手をおき、肩をよじ登ろうとしている。
くりくりの碧眼に、プラチナブロンドの髪。
天使のような私たちの子。
「アルク、たのしみね。」
「うん、たのしみー!」
今日は6年目の結婚記念日。
結婚記念日は毎年家族で出かけるのだ。
下の子はまだ生まれて半年なので今日はお留守番。
「アンリ。」
呼ばれてクリスの腕のなかのアルクから顔をあげると、あの日から変わらない美しい人が見える。
私の耳にそっと美しい顔を寄せて、
「私と結婚してくれてありがとう。」
こちらこそ、という思いをこめてクリスの頬にキスを送る。その途端、甘い笑みを結ぶ彼の顔。
あぁ、幸せだ。
これ以上ない日常にそんな想いがこみ上げる。
「愛してるわ、クリス。」
私が王子に婚約破棄されて幸せになった話。
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