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アルファは、恐い。
僕はオメガだから。
アルファと番になったって、オメガは幸せになれない。
男のオメガなんて、ただ子供が産めるだけの欠陥品だ。
こわい。
オメガは本能的にアルファに従ってしまう生き物だ。
もうアルファと関わりたくない。
二度と……。
「お、おい。大丈夫か」
「こっちにくるな!」
近づいてくるアルが怖くて、僕は叫んでいた。
アルは驚いたように目を丸くして僕をみてる。
「こ、こないでくれ。それ以上、……僕は、……」
震えそうになる肩を押さえつけ、言う。
情けない。こんなことで震えるなんて。
今は発情期じゃない。
怯える必要なんてないのに…。
さっきまで無害に見えていたアルの存在が、今はこわかった。
そんな僕に、アルは静かに声をかけてきた。
「いや、落ち着けよ。俺は確かにアルファだけど、このちいせぇ身体をみろ。たぶん感覚的に12歳くらいだ。まだバース性が発現してる歳じゃねぇ。ただのガキだぞ、今の俺は」
「えっ?」
「大丈夫だ。……だから怯えんな。なにもしねぇよ。約束する」
声が思いのほか優しくて、顔をあげると、アルは真剣な表情で僕を見ていた。
身長差のせいで上目づかいのまま、口を開く。
「……、でも一応これだけは聞いておきたい。お前、もしかしてオメガなのか?」
そう問いかけてくるアルに、僕は咄嗟に
「……ベータだよ」
と嘘をついてしまった。
僕の嘘に、アルは表情をかえることなくそうか、と言った。
「ごめんね。アルファにはいい思い出がなくて、びっくりしてしまって」
そう取り繕う僕にアルは、
「いや、大丈夫だ。……それより、家においてくれるんだろ。ありがとう。本当に助かる」
そう言って出会ってから初めての笑顔をみせた。
か、かわいいっ。
可愛すぎる!
アルの笑顔の破壊的な可愛さに、さっきまであった怯えや不安は吹き飛んで行ってしまった。
でもそれはアルを不審にさせたようだ。
彼は僕を引いたような目でみた。
「なににやついてんだよ」
「え、いや別に」
え、にやついてた?
あまりの可愛さに無意識ににやついていたのか?
指摘された口のまわりをむにむにとしてみる。
「落ち着いたんならちょっといいか」
大きな目が僕をみてキラリと光る。
「なに?」
「俺が飛んできた場所に案内してくれないか? 向こうに帰れないにしても、なにか分かることがあるかもしれねぇし見ておきたい」
「そうだね。わかった。あ、その前に」
僕は奥の部屋に入り、クローゼットを開けた。
たしかここらへんに、……あ、あった。
お目当てのものを見つけて、寝室に戻る。
はてなマークを浮かべながら僕をみている彼の頭にそれを被せた。
「一体なんだ」
「ほら、可愛い。アルの金髪は目立つから、外へ出るときはこれを被って」
艶やかな金髪を茶色の帽子が隠す。
この国では髪の色は茶色、灰色が一般的だ。
時々赤やオレンジが混ざることもあるけれど、こんなに綺麗な金髪は滅多にいない。
それこそ貴族でもない限り。
「帽子なんて普段は被らねぇけど。……しかたねぇな。お前は?」
「僕?」
「お前も目立つ髪色してるじゃねぇか」
アルの言う通り、僕は銀髪なのでこの村ではすごく目立つ。
いつも外に出るときは、フード付きの上着をきて頭を隠している。
「僕も着るよ。これ」
そう言っていつもの黒い上着を着ていると、アルが不満そうな顔をして僕を見てくる。
「俺もそっちがいいんだけど」
「だめだよ、これは僕のだから」
「……ずりぃぞ。俺もそれがいい」
口をとがらして、そっぽを向いて。
そんな子供みたいなことを言うものだから、僕は声をだして笑ってしまった。
「ふふっ、ふっ、そんな子供みたいなことっ。……ふふっ」
「っ、……うるせぇ、笑うな! 子ども扱いしてんじゃねぇ」
「いや、今の発言がこども…。……ふふっ」
「笑うなっ! 俺は欲しいものに妥協はしねぇ!」
「ふふっ……、そういう、ことじゃないよ。……ふふっ、おなかいたい」
ぎゃんぎゃんと吠えるアルが本当に本当に面白くて、僕はお腹が痛くなるまで笑った。
こんなになるまで笑ったのは、久しぶりだった。
僕はオメガだから。
アルファと番になったって、オメガは幸せになれない。
男のオメガなんて、ただ子供が産めるだけの欠陥品だ。
こわい。
オメガは本能的にアルファに従ってしまう生き物だ。
もうアルファと関わりたくない。
二度と……。
「お、おい。大丈夫か」
「こっちにくるな!」
近づいてくるアルが怖くて、僕は叫んでいた。
アルは驚いたように目を丸くして僕をみてる。
「こ、こないでくれ。それ以上、……僕は、……」
震えそうになる肩を押さえつけ、言う。
情けない。こんなことで震えるなんて。
今は発情期じゃない。
怯える必要なんてないのに…。
さっきまで無害に見えていたアルの存在が、今はこわかった。
そんな僕に、アルは静かに声をかけてきた。
「いや、落ち着けよ。俺は確かにアルファだけど、このちいせぇ身体をみろ。たぶん感覚的に12歳くらいだ。まだバース性が発現してる歳じゃねぇ。ただのガキだぞ、今の俺は」
「えっ?」
「大丈夫だ。……だから怯えんな。なにもしねぇよ。約束する」
声が思いのほか優しくて、顔をあげると、アルは真剣な表情で僕を見ていた。
身長差のせいで上目づかいのまま、口を開く。
「……、でも一応これだけは聞いておきたい。お前、もしかしてオメガなのか?」
そう問いかけてくるアルに、僕は咄嗟に
「……ベータだよ」
と嘘をついてしまった。
僕の嘘に、アルは表情をかえることなくそうか、と言った。
「ごめんね。アルファにはいい思い出がなくて、びっくりしてしまって」
そう取り繕う僕にアルは、
「いや、大丈夫だ。……それより、家においてくれるんだろ。ありがとう。本当に助かる」
そう言って出会ってから初めての笑顔をみせた。
か、かわいいっ。
可愛すぎる!
アルの笑顔の破壊的な可愛さに、さっきまであった怯えや不安は吹き飛んで行ってしまった。
でもそれはアルを不審にさせたようだ。
彼は僕を引いたような目でみた。
「なににやついてんだよ」
「え、いや別に」
え、にやついてた?
あまりの可愛さに無意識ににやついていたのか?
指摘された口のまわりをむにむにとしてみる。
「落ち着いたんならちょっといいか」
大きな目が僕をみてキラリと光る。
「なに?」
「俺が飛んできた場所に案内してくれないか? 向こうに帰れないにしても、なにか分かることがあるかもしれねぇし見ておきたい」
「そうだね。わかった。あ、その前に」
僕は奥の部屋に入り、クローゼットを開けた。
たしかここらへんに、……あ、あった。
お目当てのものを見つけて、寝室に戻る。
はてなマークを浮かべながら僕をみている彼の頭にそれを被せた。
「一体なんだ」
「ほら、可愛い。アルの金髪は目立つから、外へ出るときはこれを被って」
艶やかな金髪を茶色の帽子が隠す。
この国では髪の色は茶色、灰色が一般的だ。
時々赤やオレンジが混ざることもあるけれど、こんなに綺麗な金髪は滅多にいない。
それこそ貴族でもない限り。
「帽子なんて普段は被らねぇけど。……しかたねぇな。お前は?」
「僕?」
「お前も目立つ髪色してるじゃねぇか」
アルの言う通り、僕は銀髪なのでこの村ではすごく目立つ。
いつも外に出るときは、フード付きの上着をきて頭を隠している。
「僕も着るよ。これ」
そう言っていつもの黒い上着を着ていると、アルが不満そうな顔をして僕を見てくる。
「俺もそっちがいいんだけど」
「だめだよ、これは僕のだから」
「……ずりぃぞ。俺もそれがいい」
口をとがらして、そっぽを向いて。
そんな子供みたいなことを言うものだから、僕は声をだして笑ってしまった。
「ふふっ、ふっ、そんな子供みたいなことっ。……ふふっ」
「っ、……うるせぇ、笑うな! 子ども扱いしてんじゃねぇ」
「いや、今の発言がこども…。……ふふっ」
「笑うなっ! 俺は欲しいものに妥協はしねぇ!」
「ふふっ……、そういう、ことじゃないよ。……ふふっ、おなかいたい」
ぎゃんぎゃんと吠えるアルが本当に本当に面白くて、僕はお腹が痛くなるまで笑った。
こんなになるまで笑ったのは、久しぶりだった。
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