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本編
一体どうしてこんなことに?―2
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目的のお店が騎士ヴァイスの実家だった――。
(シェーラったら、もう……っ!)
床に散らばった薬草をかき集めながら、わたくしは胸の中で友人に文句を言いました。
シェーラはこれを知っていたに違いありません。だって彼女は、このお店に来たことがあるのですから!
わざわざわたくしを一人で来させた彼女の策略。まんまとはまった自分が情けなくて仕方ありません。
「そうか、巫女はその薬草をうちに売りにきたのか。そう言えば最近修道院から買い取っていると聞いていたな」
薬草の最後の一束を拾い上げながら、騎士はそんなことを言います。「歓迎するぞ、巫女」
そしてわたくしを立ち上がらせようと、手を差し出しました。
わたくしは一瞬迷ってから――さすがに親切心だと気づいていましたから――その手をかわしました。一人で立ち上がり、こほんと咳払いをします。
「このお店の責任者様はどこに?」
「親父殿か? たぶん二階だな」
「よ、呼んでいただけますか」
ここでお役目を放り出すわけにはいきません。たとえここが騎士の実家、わたくしの敵地であろうとも、薬草を売って代金を受け取らなくては。
「わかった。巫女を親父殿に紹介するのもいいな」
「……っ」
「おーい親父殿! 客人だ!」
二階に向かうための階段は奥に見えておりました。騎士はいつもの通りの大音声で二階に呼びかけます。いつも思うのですがこの人は声が大きすぎやしませんか。一体どこから声が出ているのでしょう?
わたくしは、こそこそと店内を見回しました。
謎の品物ばかりが所狭しと並んでいます。ここは魔術具店だと言います。魔術――一部の人たちだけが扱える『魔力』によって成される、数々の奇跡。そして魔術具は魔力のない人々にも扱え、力ない者が魔物に対抗する大きな手段です。
と、知識としては知っておりますが、わたくしも実際に目にしたことはほとんどありません。
それが今、目の前にずらりと並んでいます。天井まである棚にまでぎっしり。はしごは一応ありますが、とても載りたくないような古い代物です。
宝石や土器、短剣や宝飾品は何となく分かるのですが……中にはただの布もあります。
興味深く眺めていくうち、ふと――
その中に野ねずみが山となって横たわっているのを見つけて、わたくしはヒッとのけぞりました。
「どうした巫女よ?」
「ね、ねずみが」
「あああれか。心配ない、あれは特殊な土で作った人形だからな」
「人形……?」
わたくしはおそるおそる近づきました。
とても人形とは思えない精巧さです。ですがたしかに、触ってみると生き物とは違う感触がします。
思い切って持ち上げてみると、思っていたよりずっと軽い人形でした。一体なにで作られているのでしょうか。
「俺の妹が人形遣いでなー、巧いもんだろう?」
「……何に使うものなのでしょうか?」
「念をこめると動くのさ。それで本物のねずみを追い払ってくれる」
ねずみがねずみを追い払うところを想像して、わたくしは首をかしげました。
「その役割なら、猫のほうがよかったのでは……?」
「”猫はきらい"だそうだぞ」
理由はそこですか。
わたくしがうーんとうなっていると、騎士は何やら感慨深げな目をしました。
「巫女が俺とまともに話してくれるとは……」
「!」
しまった。そんなつもりはなかったのに。
この店の異様さに飲まれてしまって、騎士に反抗することをすっかり忘れていたのです。
わたくしはさささと騎士から後ずさりました。これ以上後ろに行っては店から出てしまう位置まで来ると、きっと騎士をにらみます。
「なぜそんなに俺を嫌うんだ、巫女よ――」
騎士がこちらに向かって一歩踏み出そうとした、そのとき。
「客人とは誰だね、ヴァイス?」
とことこと、いやに軽い足音をさせながら、二階から降りてきた人物。
ひょろりとした、失礼ながら枯れ枝のように細長い男性です。まだ老年には早いでしょうが、腰が曲がっています。髪は癖毛で灰色。
「親父殿。こちらは星の巫女アルテナ・リリーフォンス殿だ」
騎士ヴァイスはその男性にわたくしを紹介しました。
風貌はまったく似ておりませんが、どうやら騎士のお父上のようです。わたくしは店の出入り口ぎりぎりから、ぺこりと頭を下げました。
「うん? 星の巫女アルテナ……」
まばらにひげの見える細いあごをこすりながらわたくしを見つめたお父上は、やがて小さな目を丸く見開きました。
「おお! つまりうちの嫁になる娘さんか」
言うなりこちらまでつかつか歩いてくると、がしっとわたくしの肩を掴み、
「うむ、話には聞いていたが健康そうなよい娘さんだ。どうだねアルテナさん、ぜひ私の実験体にならないかね?」
「!? い、いえ、遠慮します――」
「そこを何とか。家族になるよしみで。きっと君の体を強化してみせるから!」
「!?!?!?」
強化って何ですか。
顔をぐっと近づけられ、わたくしは赤くなったり青くなったりしました。
騎士に似ていないというのは訂正です。そっくりです、強引さが!
「親父殿! やめてくれ、巫女をそういう風に扱うのは!」
慌てて騎士がわたくしからお父上を引きはがしました。そしてわたくしをかばうように前に立ち、
「巫女は俺の妻になる大切な身だ。たとえ親父殿でも無体は許さない」
その背中の頼もしいこと。このときばかりはわたくしも、騎士に感謝をしました。
……ふだんわたくしに無体を働いているのは、騎士のほうなのですけれど。
「ほほう。お前さんずいぶん気に入っているな」
「当然だ。そうでなきゃ妻になど望まない」
「星が選んだ妻だろう?」
お父上はにやにやとしていました。対する騎士ヴァイスは――
わたくしに背を向けていますが、渋面を作っているのが気配で分かりました。
「託宣はきっかけのひとつに過ぎないさ。気に入らなきゃ、託宣だろうが断る」
それより、と騎士ヴァイスはわたくしから籐のかごを奪うと、お父上に差し出しました。
「巫女殿は修道院の遣いで来ている。これに値をつけてやってくれ」
「おお、ミツカド草か」
お父上は弾むような声音で言いました。「修道院で育てた魔力草は出来がいい。こちらも助かるんだよ」
「………」
わたくしは複雑な思いで、にこにこしているお父上に頭を下げました。
――修道院は薬草を売る際に、条件を設けています。
『人を傷つけるための道具には使わないこと』と。
ですがここは魔術具店です。魔物対策はともかく……古くは戦場で主に使われていたのが魔術具です。
こんな条件をつけるのは、ある意味で滑稽でしょう。
「あの……無茶ばかりお願いしまして、申し訳ございません」
わたくしは改めて深く頭を下げました。
本来こちらは条件をつけられる立場にありません。薬草を買い取ってくれる相手は限られていますから。
けれど不安なわたくしをよそに、お父上はにこにこと上機嫌でした。
「ミツカド草は頑丈でな。大概の実験には耐えてくれるんだ。この間は魔術の火をつけたまま三日も燃えかすにならずに耐えたんだぞ。これを調合して七日に延ばすのが目下の目標だ」
「……恐れながら、それは何のための実験でしょうか?」
「ん? 意味なんて後からついてくるさ」
つまり深い意味はないということです。
何というか……やっぱりこのお父上と騎士は、どこか似ています。
「そうそう、修道院に渡すものがあるんだよ。これヴァイス、ちょっと手伝いなさい」
「何だ何だ? 重いものなら巫女には持たせられんぞ」
「そういうことではない。いいから来るんだ。アルテナさん、しばらく失礼するよ」
ひょこりとちょっとだけ頭を下げると、お父上は騎士ヴァイスを連れて店の奥に引っ込んでいかれました。
「………」
狭いお店にひとりきり。思わずほうとため息がもれます。
こうしてじっとしていると、謎の道具たちが視線を持って一斉にわたくしを見つめている気がして落ち着きません。
もう一度ため息をつき、シェーラの顔を思い浮かべました。修道院に戻ったらどうしてくれようかしら――。
「……?」
そのときわたくしの視界の端で何かが動きました。
わたくしははっとそちらを向きました。――ねずみの人形の山。
人形、のはずです。
それが一斉に、もぞもぞと動き出したのです。
やがて、
キーッ、チチッ、チチッ、ジジッ
(鳴いた!?)
「ひ――」
わたくしは思わず後ずさり、どんとドアに背をつきました。
動き出したねずみの山がもっさりと崩れ、一匹一匹が床に落ち、独立して動き始めました。
ひげをちらちら動かし、ちょろちょろと動くその姿――もはやどこからどう見ても本物のねずみです。
やがてわたくしは恐ろしいことに気づきました。一匹、また一匹とねずみたちは向かう先を定め始めます。このねずみたちは――わたくしを目指している!
「だ、だれか――」
助けを呼ぼうとして言葉が途切れました。
誰を呼べばいいのでしょう? 初めて来たばかりの、おまけに騎士ヴァイスの実家であるこの場所で。
ねずみがわたくしの足下に群がり始めました。小さなその前脚をわたくしの足首に載せ、
キーッ、キキッ
耳障りな声で泣きます。
爪の感触がしました。今にもわたくしの肌をひっかきそうです。
たくさんのねずみの目がわたくしを見上げています。わたくしの胸に、何かがせりあがってきます――。
「――だれかっ」
かすれた声しか出なかったのはどうしてだったのか……。
まるで応えるように、店の奥から知らない声が聞こえてきました。
「……少しは、反省した?」
反省?
思いがけない言葉でした。ついそちらに気を取られ、わたくしの恐怖は一気に吹き飛びました。
店の奥を見ると、ドアの陰から誰かがこちらを覗き込んでいます。淡い金髪を肩口できっちり切りそろえた女の子……
「反省した? 巫女アルテナ」
「ええと……」
わたくしはねずみの存在を忘れて、思わずその女の子に尋ねました。
「あなたは、だれ?」
(シェーラったら、もう……っ!)
床に散らばった薬草をかき集めながら、わたくしは胸の中で友人に文句を言いました。
シェーラはこれを知っていたに違いありません。だって彼女は、このお店に来たことがあるのですから!
わざわざわたくしを一人で来させた彼女の策略。まんまとはまった自分が情けなくて仕方ありません。
「そうか、巫女はその薬草をうちに売りにきたのか。そう言えば最近修道院から買い取っていると聞いていたな」
薬草の最後の一束を拾い上げながら、騎士はそんなことを言います。「歓迎するぞ、巫女」
そしてわたくしを立ち上がらせようと、手を差し出しました。
わたくしは一瞬迷ってから――さすがに親切心だと気づいていましたから――その手をかわしました。一人で立ち上がり、こほんと咳払いをします。
「このお店の責任者様はどこに?」
「親父殿か? たぶん二階だな」
「よ、呼んでいただけますか」
ここでお役目を放り出すわけにはいきません。たとえここが騎士の実家、わたくしの敵地であろうとも、薬草を売って代金を受け取らなくては。
「わかった。巫女を親父殿に紹介するのもいいな」
「……っ」
「おーい親父殿! 客人だ!」
二階に向かうための階段は奥に見えておりました。騎士はいつもの通りの大音声で二階に呼びかけます。いつも思うのですがこの人は声が大きすぎやしませんか。一体どこから声が出ているのでしょう?
わたくしは、こそこそと店内を見回しました。
謎の品物ばかりが所狭しと並んでいます。ここは魔術具店だと言います。魔術――一部の人たちだけが扱える『魔力』によって成される、数々の奇跡。そして魔術具は魔力のない人々にも扱え、力ない者が魔物に対抗する大きな手段です。
と、知識としては知っておりますが、わたくしも実際に目にしたことはほとんどありません。
それが今、目の前にずらりと並んでいます。天井まである棚にまでぎっしり。はしごは一応ありますが、とても載りたくないような古い代物です。
宝石や土器、短剣や宝飾品は何となく分かるのですが……中にはただの布もあります。
興味深く眺めていくうち、ふと――
その中に野ねずみが山となって横たわっているのを見つけて、わたくしはヒッとのけぞりました。
「どうした巫女よ?」
「ね、ねずみが」
「あああれか。心配ない、あれは特殊な土で作った人形だからな」
「人形……?」
わたくしはおそるおそる近づきました。
とても人形とは思えない精巧さです。ですがたしかに、触ってみると生き物とは違う感触がします。
思い切って持ち上げてみると、思っていたよりずっと軽い人形でした。一体なにで作られているのでしょうか。
「俺の妹が人形遣いでなー、巧いもんだろう?」
「……何に使うものなのでしょうか?」
「念をこめると動くのさ。それで本物のねずみを追い払ってくれる」
ねずみがねずみを追い払うところを想像して、わたくしは首をかしげました。
「その役割なら、猫のほうがよかったのでは……?」
「”猫はきらい"だそうだぞ」
理由はそこですか。
わたくしがうーんとうなっていると、騎士は何やら感慨深げな目をしました。
「巫女が俺とまともに話してくれるとは……」
「!」
しまった。そんなつもりはなかったのに。
この店の異様さに飲まれてしまって、騎士に反抗することをすっかり忘れていたのです。
わたくしはさささと騎士から後ずさりました。これ以上後ろに行っては店から出てしまう位置まで来ると、きっと騎士をにらみます。
「なぜそんなに俺を嫌うんだ、巫女よ――」
騎士がこちらに向かって一歩踏み出そうとした、そのとき。
「客人とは誰だね、ヴァイス?」
とことこと、いやに軽い足音をさせながら、二階から降りてきた人物。
ひょろりとした、失礼ながら枯れ枝のように細長い男性です。まだ老年には早いでしょうが、腰が曲がっています。髪は癖毛で灰色。
「親父殿。こちらは星の巫女アルテナ・リリーフォンス殿だ」
騎士ヴァイスはその男性にわたくしを紹介しました。
風貌はまったく似ておりませんが、どうやら騎士のお父上のようです。わたくしは店の出入り口ぎりぎりから、ぺこりと頭を下げました。
「うん? 星の巫女アルテナ……」
まばらにひげの見える細いあごをこすりながらわたくしを見つめたお父上は、やがて小さな目を丸く見開きました。
「おお! つまりうちの嫁になる娘さんか」
言うなりこちらまでつかつか歩いてくると、がしっとわたくしの肩を掴み、
「うむ、話には聞いていたが健康そうなよい娘さんだ。どうだねアルテナさん、ぜひ私の実験体にならないかね?」
「!? い、いえ、遠慮します――」
「そこを何とか。家族になるよしみで。きっと君の体を強化してみせるから!」
「!?!?!?」
強化って何ですか。
顔をぐっと近づけられ、わたくしは赤くなったり青くなったりしました。
騎士に似ていないというのは訂正です。そっくりです、強引さが!
「親父殿! やめてくれ、巫女をそういう風に扱うのは!」
慌てて騎士がわたくしからお父上を引きはがしました。そしてわたくしをかばうように前に立ち、
「巫女は俺の妻になる大切な身だ。たとえ親父殿でも無体は許さない」
その背中の頼もしいこと。このときばかりはわたくしも、騎士に感謝をしました。
……ふだんわたくしに無体を働いているのは、騎士のほうなのですけれど。
「ほほう。お前さんずいぶん気に入っているな」
「当然だ。そうでなきゃ妻になど望まない」
「星が選んだ妻だろう?」
お父上はにやにやとしていました。対する騎士ヴァイスは――
わたくしに背を向けていますが、渋面を作っているのが気配で分かりました。
「託宣はきっかけのひとつに過ぎないさ。気に入らなきゃ、託宣だろうが断る」
それより、と騎士ヴァイスはわたくしから籐のかごを奪うと、お父上に差し出しました。
「巫女殿は修道院の遣いで来ている。これに値をつけてやってくれ」
「おお、ミツカド草か」
お父上は弾むような声音で言いました。「修道院で育てた魔力草は出来がいい。こちらも助かるんだよ」
「………」
わたくしは複雑な思いで、にこにこしているお父上に頭を下げました。
――修道院は薬草を売る際に、条件を設けています。
『人を傷つけるための道具には使わないこと』と。
ですがここは魔術具店です。魔物対策はともかく……古くは戦場で主に使われていたのが魔術具です。
こんな条件をつけるのは、ある意味で滑稽でしょう。
「あの……無茶ばかりお願いしまして、申し訳ございません」
わたくしは改めて深く頭を下げました。
本来こちらは条件をつけられる立場にありません。薬草を買い取ってくれる相手は限られていますから。
けれど不安なわたくしをよそに、お父上はにこにこと上機嫌でした。
「ミツカド草は頑丈でな。大概の実験には耐えてくれるんだ。この間は魔術の火をつけたまま三日も燃えかすにならずに耐えたんだぞ。これを調合して七日に延ばすのが目下の目標だ」
「……恐れながら、それは何のための実験でしょうか?」
「ん? 意味なんて後からついてくるさ」
つまり深い意味はないということです。
何というか……やっぱりこのお父上と騎士は、どこか似ています。
「そうそう、修道院に渡すものがあるんだよ。これヴァイス、ちょっと手伝いなさい」
「何だ何だ? 重いものなら巫女には持たせられんぞ」
「そういうことではない。いいから来るんだ。アルテナさん、しばらく失礼するよ」
ひょこりとちょっとだけ頭を下げると、お父上は騎士ヴァイスを連れて店の奥に引っ込んでいかれました。
「………」
狭いお店にひとりきり。思わずほうとため息がもれます。
こうしてじっとしていると、謎の道具たちが視線を持って一斉にわたくしを見つめている気がして落ち着きません。
もう一度ため息をつき、シェーラの顔を思い浮かべました。修道院に戻ったらどうしてくれようかしら――。
「……?」
そのときわたくしの視界の端で何かが動きました。
わたくしははっとそちらを向きました。――ねずみの人形の山。
人形、のはずです。
それが一斉に、もぞもぞと動き出したのです。
やがて、
キーッ、チチッ、チチッ、ジジッ
(鳴いた!?)
「ひ――」
わたくしは思わず後ずさり、どんとドアに背をつきました。
動き出したねずみの山がもっさりと崩れ、一匹一匹が床に落ち、独立して動き始めました。
ひげをちらちら動かし、ちょろちょろと動くその姿――もはやどこからどう見ても本物のねずみです。
やがてわたくしは恐ろしいことに気づきました。一匹、また一匹とねずみたちは向かう先を定め始めます。このねずみたちは――わたくしを目指している!
「だ、だれか――」
助けを呼ぼうとして言葉が途切れました。
誰を呼べばいいのでしょう? 初めて来たばかりの、おまけに騎士ヴァイスの実家であるこの場所で。
ねずみがわたくしの足下に群がり始めました。小さなその前脚をわたくしの足首に載せ、
キーッ、キキッ
耳障りな声で泣きます。
爪の感触がしました。今にもわたくしの肌をひっかきそうです。
たくさんのねずみの目がわたくしを見上げています。わたくしの胸に、何かがせりあがってきます――。
「――だれかっ」
かすれた声しか出なかったのはどうしてだったのか……。
まるで応えるように、店の奥から知らない声が聞こえてきました。
「……少しは、反省した?」
反省?
思いがけない言葉でした。ついそちらに気を取られ、わたくしの恐怖は一気に吹き飛びました。
店の奥を見ると、ドアの陰から誰かがこちらを覗き込んでいます。淡い金髪を肩口できっちり切りそろえた女の子……
「反省した? 巫女アルテナ」
「ええと……」
わたくしはねずみの存在を忘れて、思わずその女の子に尋ねました。
「あなたは、だれ?」
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