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第二章 誰がための罪。
38 来臨
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言われた意味がすぐには理解できなかった。
「――それは、朱雀神を試すということか?」
ようやくそれに思い至って尋ねると、シグリィは言葉に困るように小首をかしげて、
「地租四神信奉者を、地租四神自体がどうするかに興味がある、という意味かな」
「――」
ラナーニャは震えた。シグリィの手にあるペンダントを見つめると、心の奥底から得体の知れない不安が襲ってきて彼女をさいなむのだ。このペンダントを――朱雀様に渡す?
「駄目だ――それは」
我知らず、そんな言葉が口をついてでた。
「神様を試すなんて、そんなのは駄目だ」
それは傲慢な行為だ。少なくともラナーニャにはそう思えた。魔女はたしかに地租四神信奉者だ。でも――人間だ。
人間を裁くのを神に任せる?
――それは当然のことなのかもしれない。神は当然のとごとく、人間より高次の存在なのだから。神には、人間を裁くだけの裁量があるのが当然なのだ。
けれど――
「ひ、人のしたことだ。人同士での争いだ。人が――始末をつけなくては」
シグリィはふしぎそうな顔をでラナーニャを見た。
ペンダントは彼の手の内で、暗がりの中揺れている。
「人に人を裁く権利があるかと言われたら、そのほうが疑問じゃないか?」
「――」
人が人を裁く権利――?
ラナーニャは混乱した。たしかにそれも、立派な『傲慢な行為』に思えた。
ではどうすればいい? このペンダントは誰に託すべきなのか?
私はどうすれば?
「ラナーニャ、君の言うことは分かるよ」
シグリィは優しい声でそう言った。「でも、魔女だって地租四神に裁かれるのなら本望じゃないかな。私は、そう思って言ったんだ」
「……それで、朱雀様が魔女の味方をしたら? そのときはどうするんだ?」
「そのときは全力で私が倒す」
彼の中に芯が見えた。彼の中では、すでに結論づいていることのようだった。
あとは――私が朱雀神を呼ぶだけ?
こんな迷いのある心で?
「無理だ……朱雀様はきっと来ない」
今までは、迷わず『人を救うこと』を願ったから神に願いが届いた。彼女はそう思っていた。
人を裁くことを願って、場合によっては人を傷つけることを願って神に祈っても――
朱雀神が来るとは思えない。
「……そうか」
シグリィの淡々とした声。
それが耳に届いたその瞬間に、ラナーニャは断ったことを後悔した。
彼に見放される――
まるで冷たい手が、彼女の心を凍らせたかのように胸が痛い。
彼の存在が急速に遠のくように見えた。追いすがるように、ラナーニャは声を放つ。
「シグリィ!」
しかし彼は――
いつも通りの穏やかな顔で――
「心配ないよ。君の言う通りだ。私が悪かった――私たちで決着しよう」
違う。あなたが悪いわけじゃない――!
そう叫びたかった。けれど喉が詰まって声が出ない。
シグリィはペンダントを握り直す。改めて、魔女に向き直る。
「さて。……このペンダントを壊せば、あなたは消滅するか、魔女」
『生意気な小僧め』
魔女の口調から毒気が抜けていた。
まるで世間話でもするような軽さで、彼女はシグリィに語りかける。
『お前は私の思想は死んだと言ったな。ではお前の思想はどうだ。生きているのか? 世界の真理に届いていると言えるのか?』
「私は『世界の真理』になど興味はないよ」
シグリィは微笑んだ。
「ただ――目の前に起こっていることを知りたい。識りたい。それだけだ」
魔女は笑った。高く、空に放つように。
『異なことを! 神にも等しいお前がその程度の存在だなんて……!』
「神に等しいなんて誰が言った?」
す、とシグリィのまとう空気が変わる。
清廉な、清浄すぎてラナーニャには近づくことのできない空気――
「――私はしょせん人形だ。お前には話が通じなかったようだな。残念だ」
人形? 人形とはどういうこと?
ラナーニャの疑問も虚しく、シグリィはペンダントを握った片手を前に突き出す。
「さようなら、魔女様。オッファーの森の守護神。あなたの護ったものに、私は敬意を表する」
魔女の噛みつくような声が返った。
『≪ひずみの子≫よ。貴様のせいで世界は終わる。それが私には見える。せいぜい自分の存在を呪うがいい!』
パキィン、と。
シグリィの手の中で、貝殻が砕けた。
粉々の粉塵となるほどに――
魔女の体がうすらいでいく。元から透明に近かった体が、完全に輪郭を溶かしていく。空気と入り交じっていく。
『あはははははは!』
魔女は最後まで哄笑していた。高らかに、誇らしげに――
『神よ! 我の最後の姿を見たまえ! 我を救ってはくださらなかった神よ、我に憐れみを――!』
空が、赤く燃えた。
「あ――」
ラナーニャは息を呑んだ。暗闇の中でもはっきりと分かるその紅い色に、覚えがあった。
空を覆うほどの翼。虹色の嘴。聴く者皆が聞き惚れる、南国の楽器のような高音――
「朱雀神様……!」
ラナーニャは思わず走り寄った。「ラナーニャ!」とシグリィが後を追ってくる。だがラナーニャは何かを成そうとしたわけではない。
ただ――近くで朱雀神様を見たかっただけだ。自分などの招請に応えてくれたふしぎな神を。
『朱雀様』
魔女が歓喜に震える声を、空に響かせる。
『ご来臨くださったのですか、朱雀様。私のために――』
朱雀神が一声、鳴いた。
遠くから舞い降りてくる。クルッカへと舞い降りてくる。まっすぐに、魔女の元へと。
『ああ、朱雀様――』
魔女の陶酔の声。まるですべてが報われたかのような、満足げな声。
――これから朱雀神が何をするのか分からないというのに、今まで二度も朱雀神は彼女の邪魔をしたというのに、その声音には絶対的な信頼感があふれでていた。
『朱雀様、朱雀様。あなたはマリアの生まれ変わりの子を求めていらしたのですね。あの娘を、求めていらしたのですね』
女の体はもはや原型を留めていない。ゆらゆらと揺れる空気の塊。
『あの娘を見つけた私をどうか褒めて――くださいますか、朱雀様――』
るる、と朱雀神が鳴く。唄うように啼く。
『ああ――』
そして紅い光は、消えゆく魔女を包み込むように翼を広げた。
『ありがとう存じます、朱雀様――』
それは救いの出来事だったのだろうか――
まるで子を抱くように翼を包んで、朱雀神は。
今にも消えそうな魔女をその慈悲の揺籃に抱く。
シグリィの手元でペンダントの粉が舞い上がった。赤く、紅く、きらめいて空に舞う。
そして貝殻であった塵は、輝きながらすべて上空へ飛んでいく――空の朱雀神を追うように。
その中にいる魔女を追うように。
「そうか」
シグリィは小さくつぶやいた。「それがあなたの答か、朱雀神」
「朱雀様……」
どうしようもなく胸が痛い。ラナーニャは手を胸に抱き、祈りの姿勢を取る。
るると朱雀神が啼いた。
再び翼を広げたとき、そこに魔女はいなかった。
魔女は愛する地租四神の中でその命を終えたのだ――
「呪いが……消える」
シグリィが空を見上げる。朱雀神はクルッカ跡地をくるりと一巡りし、紅い鱗粉を撒き散らしていく。
それは自ら発光する光だ。この暗闇の中、紅い光はちらちらと星のようにまたたいて舞い踊る。
くる、と朱雀神の喉の音。
まるでラナーニャたちに語りかけるように、それは優しい。
そのとき、その場は灯りなど必要ないほど明るかった。赤く燃ゆる鱗粉がクルッカ全体を照らしていた。
「朱雀様」
ラナーニャはおそるおそる呼びかける。不安で喉がからからだった。
二度も己の用で呼びつけた自分を、神はどう思っているのか。
それはイリス神殿で父の御霊を送れなかったときの不安に似ていた。自分は神に――不敬を働いているのではないのか。
ラナーニャの揺れる目と、朱雀神の瞳がぶつかる。
つぶらな瞳は、桃色をしていた。
イリス様と同じ色だ。いつだって誰かを人を慈しむイリス様と――
その瞳が何かを問いかけるようにラナーニャを見ている。長い首をく、と曲げて、ラナーニャをうかがうように見ている。
――何を不安がっているのと、そう問う声がどこかから聞こえて――
「朱雀様!」
たまらず声が上がった。つぶらな桃色の瞳が微笑んだ気がした。
そして、朱雀神は空へと旅立った。大きな翼をはためかせ、紅い輝きの鱗粉を撒き散らし――
その大きな体が、空の彼方へと飛び立ってゆく。
その姿が消えるまで――その赤い光が消えるまで、ラナーニャはただひたすら祈り続けていた。
――何を不安がっているの?
そうだ、私は何を不安がっているのだろう――?
英雄四神を愛しながら、地租四神に頼った自分に恐れを抱いているのか。朱雀神に神罰を下されるのを恐れていたのか。
朱雀神がそんなことをするはずがなかったのに――
気がつけばシグリィが隣にいて、ラナーニャのそばで同じように祈りを捧げていた。
彼が祈りを捧げるのを初めて見た。驚いて彼を見つめると、シグリィは楽しげに笑った。
「地租四神は私たちを助けてくれた。祈らないわけにはいかないだろう?」
それは単純明快な理由。ラナーニャは大切なことを忘れていたことに気づき、慌てて祈りの姿勢に戻る。
――朱雀様。私の大切な人たちを助けてくださって、本当にありがとうございました。
それは心からの謝辞。恐れやら畏れやらを通り越して、『当たり前』の言葉――
それを思い出したとき、肩から荷が外れたような気がした。そう、祈ればいい。朱雀神がしてくれたことにただ感謝して。
自分の願いを叶えてくれた神にただ、感謝して――
「――それは、朱雀神を試すということか?」
ようやくそれに思い至って尋ねると、シグリィは言葉に困るように小首をかしげて、
「地租四神信奉者を、地租四神自体がどうするかに興味がある、という意味かな」
「――」
ラナーニャは震えた。シグリィの手にあるペンダントを見つめると、心の奥底から得体の知れない不安が襲ってきて彼女をさいなむのだ。このペンダントを――朱雀様に渡す?
「駄目だ――それは」
我知らず、そんな言葉が口をついてでた。
「神様を試すなんて、そんなのは駄目だ」
それは傲慢な行為だ。少なくともラナーニャにはそう思えた。魔女はたしかに地租四神信奉者だ。でも――人間だ。
人間を裁くのを神に任せる?
――それは当然のことなのかもしれない。神は当然のとごとく、人間より高次の存在なのだから。神には、人間を裁くだけの裁量があるのが当然なのだ。
けれど――
「ひ、人のしたことだ。人同士での争いだ。人が――始末をつけなくては」
シグリィはふしぎそうな顔をでラナーニャを見た。
ペンダントは彼の手の内で、暗がりの中揺れている。
「人に人を裁く権利があるかと言われたら、そのほうが疑問じゃないか?」
「――」
人が人を裁く権利――?
ラナーニャは混乱した。たしかにそれも、立派な『傲慢な行為』に思えた。
ではどうすればいい? このペンダントは誰に託すべきなのか?
私はどうすれば?
「ラナーニャ、君の言うことは分かるよ」
シグリィは優しい声でそう言った。「でも、魔女だって地租四神に裁かれるのなら本望じゃないかな。私は、そう思って言ったんだ」
「……それで、朱雀様が魔女の味方をしたら? そのときはどうするんだ?」
「そのときは全力で私が倒す」
彼の中に芯が見えた。彼の中では、すでに結論づいていることのようだった。
あとは――私が朱雀神を呼ぶだけ?
こんな迷いのある心で?
「無理だ……朱雀様はきっと来ない」
今までは、迷わず『人を救うこと』を願ったから神に願いが届いた。彼女はそう思っていた。
人を裁くことを願って、場合によっては人を傷つけることを願って神に祈っても――
朱雀神が来るとは思えない。
「……そうか」
シグリィの淡々とした声。
それが耳に届いたその瞬間に、ラナーニャは断ったことを後悔した。
彼に見放される――
まるで冷たい手が、彼女の心を凍らせたかのように胸が痛い。
彼の存在が急速に遠のくように見えた。追いすがるように、ラナーニャは声を放つ。
「シグリィ!」
しかし彼は――
いつも通りの穏やかな顔で――
「心配ないよ。君の言う通りだ。私が悪かった――私たちで決着しよう」
違う。あなたが悪いわけじゃない――!
そう叫びたかった。けれど喉が詰まって声が出ない。
シグリィはペンダントを握り直す。改めて、魔女に向き直る。
「さて。……このペンダントを壊せば、あなたは消滅するか、魔女」
『生意気な小僧め』
魔女の口調から毒気が抜けていた。
まるで世間話でもするような軽さで、彼女はシグリィに語りかける。
『お前は私の思想は死んだと言ったな。ではお前の思想はどうだ。生きているのか? 世界の真理に届いていると言えるのか?』
「私は『世界の真理』になど興味はないよ」
シグリィは微笑んだ。
「ただ――目の前に起こっていることを知りたい。識りたい。それだけだ」
魔女は笑った。高く、空に放つように。
『異なことを! 神にも等しいお前がその程度の存在だなんて……!』
「神に等しいなんて誰が言った?」
す、とシグリィのまとう空気が変わる。
清廉な、清浄すぎてラナーニャには近づくことのできない空気――
「――私はしょせん人形だ。お前には話が通じなかったようだな。残念だ」
人形? 人形とはどういうこと?
ラナーニャの疑問も虚しく、シグリィはペンダントを握った片手を前に突き出す。
「さようなら、魔女様。オッファーの森の守護神。あなたの護ったものに、私は敬意を表する」
魔女の噛みつくような声が返った。
『≪ひずみの子≫よ。貴様のせいで世界は終わる。それが私には見える。せいぜい自分の存在を呪うがいい!』
パキィン、と。
シグリィの手の中で、貝殻が砕けた。
粉々の粉塵となるほどに――
魔女の体がうすらいでいく。元から透明に近かった体が、完全に輪郭を溶かしていく。空気と入り交じっていく。
『あはははははは!』
魔女は最後まで哄笑していた。高らかに、誇らしげに――
『神よ! 我の最後の姿を見たまえ! 我を救ってはくださらなかった神よ、我に憐れみを――!』
空が、赤く燃えた。
「あ――」
ラナーニャは息を呑んだ。暗闇の中でもはっきりと分かるその紅い色に、覚えがあった。
空を覆うほどの翼。虹色の嘴。聴く者皆が聞き惚れる、南国の楽器のような高音――
「朱雀神様……!」
ラナーニャは思わず走り寄った。「ラナーニャ!」とシグリィが後を追ってくる。だがラナーニャは何かを成そうとしたわけではない。
ただ――近くで朱雀神様を見たかっただけだ。自分などの招請に応えてくれたふしぎな神を。
『朱雀様』
魔女が歓喜に震える声を、空に響かせる。
『ご来臨くださったのですか、朱雀様。私のために――』
朱雀神が一声、鳴いた。
遠くから舞い降りてくる。クルッカへと舞い降りてくる。まっすぐに、魔女の元へと。
『ああ、朱雀様――』
魔女の陶酔の声。まるですべてが報われたかのような、満足げな声。
――これから朱雀神が何をするのか分からないというのに、今まで二度も朱雀神は彼女の邪魔をしたというのに、その声音には絶対的な信頼感があふれでていた。
『朱雀様、朱雀様。あなたはマリアの生まれ変わりの子を求めていらしたのですね。あの娘を、求めていらしたのですね』
女の体はもはや原型を留めていない。ゆらゆらと揺れる空気の塊。
『あの娘を見つけた私をどうか褒めて――くださいますか、朱雀様――』
るる、と朱雀神が鳴く。唄うように啼く。
『ああ――』
そして紅い光は、消えゆく魔女を包み込むように翼を広げた。
『ありがとう存じます、朱雀様――』
それは救いの出来事だったのだろうか――
まるで子を抱くように翼を包んで、朱雀神は。
今にも消えそうな魔女をその慈悲の揺籃に抱く。
シグリィの手元でペンダントの粉が舞い上がった。赤く、紅く、きらめいて空に舞う。
そして貝殻であった塵は、輝きながらすべて上空へ飛んでいく――空の朱雀神を追うように。
その中にいる魔女を追うように。
「そうか」
シグリィは小さくつぶやいた。「それがあなたの答か、朱雀神」
「朱雀様……」
どうしようもなく胸が痛い。ラナーニャは手を胸に抱き、祈りの姿勢を取る。
るると朱雀神が啼いた。
再び翼を広げたとき、そこに魔女はいなかった。
魔女は愛する地租四神の中でその命を終えたのだ――
「呪いが……消える」
シグリィが空を見上げる。朱雀神はクルッカ跡地をくるりと一巡りし、紅い鱗粉を撒き散らしていく。
それは自ら発光する光だ。この暗闇の中、紅い光はちらちらと星のようにまたたいて舞い踊る。
くる、と朱雀神の喉の音。
まるでラナーニャたちに語りかけるように、それは優しい。
そのとき、その場は灯りなど必要ないほど明るかった。赤く燃ゆる鱗粉がクルッカ全体を照らしていた。
「朱雀様」
ラナーニャはおそるおそる呼びかける。不安で喉がからからだった。
二度も己の用で呼びつけた自分を、神はどう思っているのか。
それはイリス神殿で父の御霊を送れなかったときの不安に似ていた。自分は神に――不敬を働いているのではないのか。
ラナーニャの揺れる目と、朱雀神の瞳がぶつかる。
つぶらな瞳は、桃色をしていた。
イリス様と同じ色だ。いつだって誰かを人を慈しむイリス様と――
その瞳が何かを問いかけるようにラナーニャを見ている。長い首をく、と曲げて、ラナーニャをうかがうように見ている。
――何を不安がっているのと、そう問う声がどこかから聞こえて――
「朱雀様!」
たまらず声が上がった。つぶらな桃色の瞳が微笑んだ気がした。
そして、朱雀神は空へと旅立った。大きな翼をはためかせ、紅い輝きの鱗粉を撒き散らし――
その大きな体が、空の彼方へと飛び立ってゆく。
その姿が消えるまで――その赤い光が消えるまで、ラナーニャはただひたすら祈り続けていた。
――何を不安がっているの?
そうだ、私は何を不安がっているのだろう――?
英雄四神を愛しながら、地租四神に頼った自分に恐れを抱いているのか。朱雀神に神罰を下されるのを恐れていたのか。
朱雀神がそんなことをするはずがなかったのに――
気がつけばシグリィが隣にいて、ラナーニャのそばで同じように祈りを捧げていた。
彼が祈りを捧げるのを初めて見た。驚いて彼を見つめると、シグリィは楽しげに笑った。
「地租四神は私たちを助けてくれた。祈らないわけにはいかないだろう?」
それは単純明快な理由。ラナーニャは大切なことを忘れていたことに気づき、慌てて祈りの姿勢に戻る。
――朱雀様。私の大切な人たちを助けてくださって、本当にありがとうございました。
それは心からの謝辞。恐れやら畏れやらを通り越して、『当たり前』の言葉――
それを思い出したとき、肩から荷が外れたような気がした。そう、祈ればいい。朱雀神がしてくれたことにただ感謝して。
自分の願いを叶えてくれた神にただ、感謝して――
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