汀に立つは有明の月

虹色すかい

文字の大きさ
上 下
6 / 8

皇宮(二)

しおりを挟む


「ああ……、蓮珠」


 好きだ。あなたの他はなにも望まない。濤允は激しく上下する蓮珠の胸に顔をうずめた。しっとりと汗をかいた白肌から、花のようにいい香りがする。女陰から指を引き抜いて、乳房の肌を吸いながら蓮珠の衣をはぐ。

 白い陶器のような肌につんと勃った桜色の尖りを口に含めば、まだおぼろげな意識をさまよっている蓮珠の赤い唇からため息のような喘ぎがもれた。

 指を絡めて握っていた手を名残惜しそうに離して、蓮珠に吸いついたまま自身の衣をゆるめる。衣服の下で痛いくらいに反りかえった熱塊は、すでに先端から汁をしたたらせていた。濤允は、力の抜けた蓮珠の体を抱えると、寝台の正しい位置に横たえて衣を脱いだ。


「蓮珠」


 濤允の声に、蓮珠はうっすらと目を開けた。呼吸はまだ走ったあとのように荒くて、体に力が入らない。ただ、体にこもった熱は冷めることなく温度を保ち続けていた。

 視界に飛びこんで来た楊濤允の引き締まった上半身に、はっと意識が鮮明になる。両脚の間に陣取った濤允が、蜜口に切っ先をあてがった。


「い、いや……」


 破瓜の痛みがよみがえって、蓮珠は思わず声を震わせて顔をそむける。濤允が腰に体重を乗せると同時に、しとどに濡れた秘裂に突き立てられた。一気に最奥まで貫かれて、苦悶の表情を浮かべた蓮珠の白い喉が反り返る。


「あ……、ああっ!」


 下腹部に、感じる鈍い痛み。顔をそむけたままきゅっと唇をかむ蓮珠の頬に、濤允がくちづける。いたわるような、優しい感触だった。


「痛いですか?」
「……す、少し」


 痛みを逃すように息を吐いて、ためらいながら答える。耳元で「お許しを」と切なげな声がした。濤允が、腰を動かし始める。孔内を押し広げられてえぐられて、ぬぷっと聞くにたえない恥ずかしい音が響いた。


「あっ、あぁ、あぁんん……っ」


 嬌声を上げる蓮珠を見下ろしながら、息を乱した濤允が甘く喘ぐ。濤允は、蓮珠を揺さぶりながら乳房を揉みしだいて乳首を指で弾いた。その刺激に、連珠が中でうごめく濤允をぎゅうっと締めつける。

 剥かれた肉粒を指でこりこりと潰されながら突き上げられると、わずかに残る破瓜の痛みを打ち消すように、全身へしびれるような気持ちよさが広がった。


「あぁあっ、ん、んん……っ、あああぁ――ッ!」


 肉芽を剥かれた時と同じように、視界が真っ白になる。蓮珠。切なげな声がして、濤允の体が覆いかぶさってくる。濤允は、蓮珠の短く乱暴な呼吸を奪うようにくちづけた。歯列を舐め、逃げ惑う舌をつかまえる。蓮珠の体を抱きしめて、腰を打ちつける。

 口の中はふたりの湿った吐息と唾液であふれ、ぐちょぐちょにぬかるんだ花孔の中でふたりの熱が高まっていく。猛りの先端が子宮の入り口を激しく突いて、濤允の熱が蓮珠の中で弾ける。

 肩で大きく息をしながら、濤允はぼんやりと宙を見つめる蓮珠を胸に抱いて寝台に倒れこんだ。汗をかいた体が冷えないように、ふたりの体に布団をかぶせる。蓮珠がもぞもぞと動いて背を向けたので、濤允はその背を包むように体をくっつけて蓮珠の腹に腕を回した。乱れた黒髪から覗く蓮珠の耳に唇を寄せて、蓮珠の体を強く抱き締める。


「蓮珠。生涯、あなただけを大切にします」





 ◆◇◆





 楊濤允は、趙高僥からのお召しがない限り皇宮へ赴くことはない。
 普段は屋敷の庭にこさえた菜園で作物を育てたり池で魚を釣ったりと、隠居した爺のように一竿風月な日々を送っている。湖光離宮の広大な庭には築山があり林があり池があり、外へ出なくても自然の風景や遊びを楽しめるのだ。

 雨が降れば、濤允は殿舎と呼ぶには粗末な、小屋のような庵で書をしたため本を読みふける。日当たりはいいけれど、寝屋と書斎と数部屋あるだけのその庵が濤允の居所だというので、裕福に育った蓮珠はたいそう驚いた。というのも、濤允が蓮珠のもとを訪れるのは夜だけ。昼間、濤允がなにをしているのか気になって、こっそり覗きに行ってそれを知ったのである。

 湖光離宮での生活は、しきたりや人目がなく自由気ままで、心地よく波が揺れる海原をただよっているかのようにのどかだった。時々、濤允は蓮珠を街へ連れ出した。はぐれないように蓮珠の手を握り、民にまぎれて通りを歩く。露店で共に饅頭を食べて、気の向くままに書肆しょしに立ち寄って書物をあさる。蓮珠が父親に禁じられていた俗書に興味を示すと、濤允は嫌な顔一つせずにそれを買った。

 そして、婚礼からひと月と少し経ったある日。蓮珠の姿は、皇太后の宮にあった。蓮珠は今日、夫より華美にならないよう藍染の大人しい襦裙じゅくんに白の帔帛ひはくを合わせた。髪は高くない位置で二輪に結って、歩揺をさすのも控えた。濤允が、質のよくない絹の暗い深衣を着ているからだ。


「薔薇はお好き?」

 木香薔薇もっこうばらの庭を歩きながら、皇太后が蓮珠に尋ねた。
 蓮珠は、皇太后の手を引いて歩幅を合わせるように添いながら、はいとうやうやしく答える。皇太后が女同士で話したいと言ったので、濤允は回廊に置き去りにされていた。


「嫁ぎ先に不満があるのではない?」
「……い、いえ」


 皇太后に上品な笑みを向けられて、蓮珠は答えに窮してしまった。皇宮の絢爛な殿舎や華やかな雰囲気を見ると、やはり自分はここにいるべき人間であったと口惜しい気持ちになる。けれど……。蓮珠は、ちらりと回廊に目を向けた。柱に背を預けた濤允が、じっとこちらを見ている。


「あら。濤允もあなたが気になるようだけれど、あなたも濤允が気になっているようね」
「あ……、申し訳ございません。お話しの途中でしたのに」


 いいのよ、と皇太后が蓮珠の手に自分のそれを重ねる。皇太后の手は、秋風のようにひんやりとしていた。


「私はね、もう先が長くないらしいの。侍医がそう言っていたわ」


 皇太后が静かに言う。蓮珠が悲しそうな顔をすると、皇太后が気にしないでと言うように、重ねた手を軽く二度叩いた。


「濤允には話していないから、あなたの胸にとどめておいてちょうだい」
「はい……、皇太后様」

「濤允は、あなたを心から慕っているわ。私に歯向かったことなんてなかったのにね、あなたがいいと言って私がすすめた縁談をすべて断ったのよ」

「そう、だったのですか?」
「ええ。濤允は、なによりもあなたを大切にすると思うの。だから……」

「皇太后!」


 叫ぶような男の声が、皇太后の言葉を遮る。騒がしいわね。心の中でそう思いながら蓮珠がふり返ると、黄の深衣を着た男が大股で向かってきた。男の後ろを濤允と太鑑が追ってくる。蓮珠は、皇太后の手を握ったまま慌てて頭を低くした。


「秋も深まってきたのに、出歩いて平気なのですか?」


 男が、皇太后に冷たい声を投げる。皇太后が平気だと答えると、男はそれを鼻で笑って視線を蓮珠に定めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【R18】オトメは温和に愛されたい

鷹槻れん
恋愛
鳥飼 音芽(とりかいおとめ)は隣に住む幼なじみの霧島 温和(きりしまはるまさ)が大好き。 でも温和は小さい頃からとても意地悪でつれなくて。 どんなに冷たくあしらっても懲りない音芽に温和は…? 表紙絵は雪様に依頼しました。(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) 雪様;  (エブリスタ)https://estar.jp/users/117421755  (ポイピク)https://poipiku.com/202968/ ※エブリスタでもお読みいただけます。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

救国のエフィーリア―元の世界に帰りたいのに、ヤンデレ少年神と執着系王太子に溺愛されて困っています!―

アナマチア
恋愛
泉美澪(いずみみれい)は、真面目で優しく少し流されやすい高校2年生の女子高生。 ある日、夕方の図書室で、ボロボロの本を拾った。本の中身は記号のような文字で書かれていて、読めるはずのない文字が、頭の中で翻訳されてしまうことに驚愕する。 そして、何かに取り憑かれたかのようにページをめくり続け、ある名称に目をとめる。 「ゼスフォティーウ、さま」 そう口にした瞬間、美澪の足元に巨大な穴が出現し、その中に吸い込まれていく。 そうしてたどり着いたのは、ヴァートゥルナ神と名乗る少年ヴァルの神域だった。 「キミはボクの愛し子なんだよ」 愛し子=エフィーリアであると告げられた美澪は、召喚の儀式によって、水の国ヒュドゥーテルに降り立った。 そこで聞かされた使命は、エクリオの王太子と交わり、その魂を浄化し、エフィーリアの神力を継ぐ子どもを産むことだった。 「家に帰りたい」 現実を受け止められずにいた美澪は、メアリーという侍女に心を開き、持ち前のポジティブさを取り戻す。そして戸惑い悩みながらも、自らの使命を受け止めつつあった。 「美澪の側にいるのに都合がよかったんだ」 突如として現れたヴァルは、瞳と髪色を変えて、パラディン伯と名乗った。 神域での一件で、ヴァルを信用しきれない美澪は、ヴァルと過ごすうちに、警戒しながらもそこそこ良好な関係を築いていく。 「エクリオに輿入れしても、日本に帰る方法を探し続ける」 美澪は、日本に帰ることを諦めないと決めて、自らの使命を果たすために合わせ鏡の儀式を行い、エクリオに転移する。 「あなたの夫になる者です」 そうして転移先で出会った、エクリオの王太子イリオスは、褐色の肌に銀の髪。そして、琥珀色の瞳をもった精悍な顔をした美丈夫だった。 元の世界に帰りたいと思っていたはずの美澪だが、イリオスと過ごすうちに彼に惹かれはじめ、決意が揺らぎだす。しかしイリオスには、他に愛する女性がいた。 果たして美澪は元の世界に帰れるのか? それとも異世界に残り、愛する男と添い遂げるのか? 真面目で優しくて、ちょっぴり流されやすい女子高生が、異世界に召喚され、前世の宿命に翻弄されながらイケメンに愛される話です。 ※架空の時代、背景、登場人物のフィクション作品です。 ※誹謗中傷はご遠慮下さい。 ※転載、複製、及び自作発言を禁止します。 ※誤字脱字報告は、随時対応致します。

媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。

入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

【R18】国王陛下に婚活を命じられたら、宰相閣下の様子がおかしくなった

ほづみ
恋愛
国王から「平和になったので婚活しておいで」と言われた月の女神シアに仕える女神官ロイシュネリア。彼女の持つ未来を視る力は、処女喪失とともに失われる。先視の力をほかの人間に利用されることを恐れた国王からの命令だった。好きな人がいるけどその人には好かれていないし、命令だからしかたがないね、と婚活を始めるロイシュネリアと、彼女のことをひそかに想っていた宰相リフェウスとのあれこれ。両片思いがこじらせています。 あいかわらずゆるふわです。雰囲気重視。 細かいことは気にしないでください! 他サイトにも掲載しています。 注意 ヒロインが腕を切る描写が出てきます。苦手な方はご自衛をお願いします。

悪役令嬢のススメ

みおな
恋愛
 乙女ゲームのラノベ版には、必要不可欠な存在、悪役令嬢。  もし、貴女が悪役令嬢の役割を与えられた時、悪役令嬢を全うしますか?  それとも、それに抗いますか?

処理中です...