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30 風鏡1
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軽い瞬きを二、三度すると、光の帯は緩やかに解けて私を放した。
両手を見る。
焼けただれているはずのそれは、以前のように白く傷ひとつない。
そのかわり、結界に突っ込んだ手の間から、ひんやりとした冷気がシューッと小さな音を立てて噴き出している。
「精霊の……結界?」
明らかに違う強さ。ゾクゾクするほど力を感じる。
(風はそなたを傷つけることを許さない)
噴き出す風が唸りをあげる。
これは怒りだ。
手のひらを包んでいた風は、腕をつたい、肩から私の身体に絡みつく。
さながら鎧のように。
肌に触れる風がピリピリしている。
まるで静電気のように。
そこから私の中に感情が流れ込んでくる。
許さない
聖域を奪うもの
約束の地に踏み込むもの
我らの大地を犯すもの
光を奪いし邪悪なる下僕達
許さない
許さない!
痛いほどの叫びだ。
そう、今は聞こえる。
こんなに簡単なことだった。
ただ精霊の存在を信じればいい。
彼等に意思があることを認めればよかった。
「ありがとう。私に力をかしてね」
ふわん、とやわらかな空気が私を包む。
如何なる場所にいても風の加護を得る者、それが風の乙女。
私はそれに応えないといけない。
幸運、と呼べるかもしれない。
私が望んでいたことを、私がやれるのだから。
この好機をもらったのだから。
「ルーラ………」
いつのまにか、レンディルム陛下が私を見ていた。信じられないものを見るように。
数歩近づいて立ち止まる。
「翼が」
彼の声に背中をみると、いつのまにか翼が出ていた。
黒い竜の翼、だけど今は風の精霊の持つ白い光が羽毛のように広がって、まるで天使の翼のようだ。
「風の乙女よ」
陛下がひざまづく。
「無事でよかった」
絞り出すような安堵の声。
私はちょっと微笑み返す。
「まだ、これからだよ」
両手を見る。
焼けただれているはずのそれは、以前のように白く傷ひとつない。
そのかわり、結界に突っ込んだ手の間から、ひんやりとした冷気がシューッと小さな音を立てて噴き出している。
「精霊の……結界?」
明らかに違う強さ。ゾクゾクするほど力を感じる。
(風はそなたを傷つけることを許さない)
噴き出す風が唸りをあげる。
これは怒りだ。
手のひらを包んでいた風は、腕をつたい、肩から私の身体に絡みつく。
さながら鎧のように。
肌に触れる風がピリピリしている。
まるで静電気のように。
そこから私の中に感情が流れ込んでくる。
許さない
聖域を奪うもの
約束の地に踏み込むもの
我らの大地を犯すもの
光を奪いし邪悪なる下僕達
許さない
許さない!
痛いほどの叫びだ。
そう、今は聞こえる。
こんなに簡単なことだった。
ただ精霊の存在を信じればいい。
彼等に意思があることを認めればよかった。
「ありがとう。私に力をかしてね」
ふわん、とやわらかな空気が私を包む。
如何なる場所にいても風の加護を得る者、それが風の乙女。
私はそれに応えないといけない。
幸運、と呼べるかもしれない。
私が望んでいたことを、私がやれるのだから。
この好機をもらったのだから。
「ルーラ………」
いつのまにか、レンディルム陛下が私を見ていた。信じられないものを見るように。
数歩近づいて立ち止まる。
「翼が」
彼の声に背中をみると、いつのまにか翼が出ていた。
黒い竜の翼、だけど今は風の精霊の持つ白い光が羽毛のように広がって、まるで天使の翼のようだ。
「風の乙女よ」
陛下がひざまづく。
「無事でよかった」
絞り出すような安堵の声。
私はちょっと微笑み返す。
「まだ、これからだよ」
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