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23 翼を持つもの2
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「何事です。ビスラの王ともあろうお方が、他国の神官を呼びつけるなど、感心できることではありませんね」
ふわりと半分透き通ったアルファさんの姿が現れる。
まるで幽霊みたい。脚はあるけど。
陛下は不機嫌そうに顔をしかめた。
「何を言うか。見ていたのだろうが、ずっと。こいつはお前の鏡に映るのだろう?」
「よくご存知で」
「ふざけるな。ビスラの王宮にまで姿をとばすような化け物が」
声をひそめながらも、苛立ちが滲み出ている。
「おやおや、それは誤解ですよ。王たる貴方が私を呼んだからこそ、声や姿を送れるのです。遠見ができるのも彼女の竜の翼の加護があってこそ。でなければ魔物の領域に手を出すことが叶うはずもございません」
「はっ、どうだか。四精霊の血を引くもののくせに」
おや?という顔をして、片眉を上げた。
「ご存知でしたか」
「ああ、思い出したんだよ。昔そういう者の話を聞いたことがある。やはりお前だったか」
アルファさんは答えない。
「以前、お前は水火風地の精霊を操るとリューンが言っていた。たしかに風の力を持っていないと、あいつを風の神官に育て上げることなどできぬ。だが、そんなことが普通の人間に出来るはずがない」
アルファさんは仕方なさそうに肩をすくめた。
「私の王には秘密にしていてくださいね」
「知るか」
「で、何の御用です?」
「こいつを還せ。元の世界へ」
陛下の重々しい命令に対して、アルファさんはあっさり答えた。
「それは無理です」
「なに?」
陛下が怪訝そうに彼を睨みつける。
「風鏡がなくてはだめなのです。あちらとの接点がない今、水鏡だけでは空間が定まりません。無理に還そうとしても、どことも知れぬ場所に放り出してしまうということにもなりかねません」
その言葉をきいたとき、私はやっぱり、という気がした。
なんとなくそうなんじゃないかと思っていたから。
陛下は唸るように問いかける。
「まさか貴様、初めからそのつもりで?」
すごく怒っている。背中に陽炎が見えそう。
アルファさんは冷静な声で答える。
「おわかりでしょう?ビスラはもはや滅亡寸前。いちかばちかに賭けるより他なかったのです………賭けには負けたようですが」
「負けてなんかいない」
思わず答えていた。
二人が驚いて私を見る。
「ルーラ、気がついたのか」
「ルーラ様」
ようやく動くようになった腕で身体を支える。
ずいぶん重く感じたけれど、なんとか上体を起こすことが出来た。
「まだ、負けていない。まだ、終わっていないよ」
アルファさんは謎めいた微笑を浮かべた。
「そうですね。貴女が諦めない限り、勝負は終わりはしない」
「ええ」
そうだ、私は逃げない。諦めたら全てが終わってしまうから。
この国が失われてしまう。
私がここに来た、その意味がなくなってしまう。
「ルーラ………」
喘ぐような掠れた声で、陛下が私の名を呼ぶ。
「お強くなられたようですね。貴女の纏う光が輝きを増しています」
ふわりとアルファさんが私の肩に手を置く。
幻影のはずなのに、微かに温かかった。
「精霊は貴女の呼びかけを待っています。信じてください。水鏡が映したのは貴女の風の刻印だけではありません。貴女は更に別の力も持っておられる。貴女の翼は……………のしるし…………」
スウッと声が遠くなった。
「アルファさん?」
「時間………切れ………す。もう、術が…持たな………い」
途切れ途切れに聞こえたと思うと、ゆらっと姿が揺らめく。そして止める間もなくかき消すように消えた。
ふわりと半分透き通ったアルファさんの姿が現れる。
まるで幽霊みたい。脚はあるけど。
陛下は不機嫌そうに顔をしかめた。
「何を言うか。見ていたのだろうが、ずっと。こいつはお前の鏡に映るのだろう?」
「よくご存知で」
「ふざけるな。ビスラの王宮にまで姿をとばすような化け物が」
声をひそめながらも、苛立ちが滲み出ている。
「おやおや、それは誤解ですよ。王たる貴方が私を呼んだからこそ、声や姿を送れるのです。遠見ができるのも彼女の竜の翼の加護があってこそ。でなければ魔物の領域に手を出すことが叶うはずもございません」
「はっ、どうだか。四精霊の血を引くもののくせに」
おや?という顔をして、片眉を上げた。
「ご存知でしたか」
「ああ、思い出したんだよ。昔そういう者の話を聞いたことがある。やはりお前だったか」
アルファさんは答えない。
「以前、お前は水火風地の精霊を操るとリューンが言っていた。たしかに風の力を持っていないと、あいつを風の神官に育て上げることなどできぬ。だが、そんなことが普通の人間に出来るはずがない」
アルファさんは仕方なさそうに肩をすくめた。
「私の王には秘密にしていてくださいね」
「知るか」
「で、何の御用です?」
「こいつを還せ。元の世界へ」
陛下の重々しい命令に対して、アルファさんはあっさり答えた。
「それは無理です」
「なに?」
陛下が怪訝そうに彼を睨みつける。
「風鏡がなくてはだめなのです。あちらとの接点がない今、水鏡だけでは空間が定まりません。無理に還そうとしても、どことも知れぬ場所に放り出してしまうということにもなりかねません」
その言葉をきいたとき、私はやっぱり、という気がした。
なんとなくそうなんじゃないかと思っていたから。
陛下は唸るように問いかける。
「まさか貴様、初めからそのつもりで?」
すごく怒っている。背中に陽炎が見えそう。
アルファさんは冷静な声で答える。
「おわかりでしょう?ビスラはもはや滅亡寸前。いちかばちかに賭けるより他なかったのです………賭けには負けたようですが」
「負けてなんかいない」
思わず答えていた。
二人が驚いて私を見る。
「ルーラ、気がついたのか」
「ルーラ様」
ようやく動くようになった腕で身体を支える。
ずいぶん重く感じたけれど、なんとか上体を起こすことが出来た。
「まだ、負けていない。まだ、終わっていないよ」
アルファさんは謎めいた微笑を浮かべた。
「そうですね。貴女が諦めない限り、勝負は終わりはしない」
「ええ」
そうだ、私は逃げない。諦めたら全てが終わってしまうから。
この国が失われてしまう。
私がここに来た、その意味がなくなってしまう。
「ルーラ………」
喘ぐような掠れた声で、陛下が私の名を呼ぶ。
「お強くなられたようですね。貴女の纏う光が輝きを増しています」
ふわりとアルファさんが私の肩に手を置く。
幻影のはずなのに、微かに温かかった。
「精霊は貴女の呼びかけを待っています。信じてください。水鏡が映したのは貴女の風の刻印だけではありません。貴女は更に別の力も持っておられる。貴女の翼は……………のしるし…………」
スウッと声が遠くなった。
「アルファさん?」
「時間………切れ………す。もう、術が…持たな………い」
途切れ途切れに聞こえたと思うと、ゆらっと姿が揺らめく。そして止める間もなくかき消すように消えた。
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