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第四章 終焉の神
23 軍議
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王都に戻ると、ロイゼルドはすぐに王に呼ばれて王宮に行った。王太子、宰相他、エルガルフ、アリドザイル、ダリスとアーヴァインも既に呼ばれ、軍事会議が行われている。
レヴィナ公国がトルポント王国軍の攻撃を受け、都が陥落したという知らせが入ったのはつい昨日だ。公王の生死は定かではない。
エルディア達がイエラザーム皇国の夜会で会ったクリストフ公子の行方も、逃れたと聞くがまだわかっていないという。
それを報告した間諜も重傷を受け、魔術師団の治療を受けている。
彼が言うには、トルポント軍の侵攻は異常な速さだった。瞬く間に国境に布陣した公国軍を制圧し公都に迫った。そして圧倒的な強さで都を守る公国軍を壊滅させ、ほんの数日で公王を捕らえ都を落としたという。
これまでにない軍の強さに驚くと同時に、間諜が怪我を負った経緯を聞いた王達は、異常な事態が起きている事を悟った。
————軍に魔獣が加わっている。
トルポント王国軍の兵に混ざって、明らかに異形の獣が複数従軍していたのだ。何より驚くべきことに、その魔獣達の攻撃は軍によって統制されていたという。
軍議が行われている部屋でエルガルフによってそう報告が伝えられると、出席者の間にどよめきがはしった。
「魔獣がトルポント軍に?その話は本当なのか?」
「将軍のところの双子のような神獣の加護を受けた者が、あの国にもいるというのか」
宰相の言葉をアストラルドが首を振って否定する。
「魔獣ではないでしょう。彼等は滅多に人間に従うものではない。魔獣と契約したにしては獣の数が多すぎる」
アーヴァインも頷いた。
「トルポント王国が魔族を召喚したという情報がある。おそらくそれは召喚された魔族だろう」
「魔族?召喚とは………」
その時、ノックとともに扉が開かれる。
「遅くなりまして申し訳ありません」
「いや、いい。それより聖地が魔物に襲われたというのは本当か?」
ギルバート王が会議場に入ったロイゼルドに向けて問う。ロイゼルドは居並ぶ面々に一礼して席についた。
「はい。すでに討伐致しました。ですが、また襲って来る可能性が高いので、鷲獅子騎士団の全員を聖地に配備させようと思っております。レヴィナ公国の状況はいかがな様子ですか?」
エルガルフが簡単に説明すると、ロイゼルドは眉根を寄せて頷いた。
「聖地の魔物もこれまでの魔獣達とは違うものでした。群れで行動する巨鳥と毒蛾でしたが、エルディア嬢が古の記録にある魔物である事は確認しています。レヴィナ公国と聖地は近い。あの魔物達を寄越してきた者が、トルポント王国である可能性は高いでしょう」
レヴィナ公国は聖地から神山ホルクスを挟んでちょうど北に位置している。レヴィナが落とされた日に、同時に聖地も狙われたのだ。
飛行型の魔物ばかりだったのは、ホルクスを越える必要があったからだろう。更にうがった見方をすれば、聖地を狙うためにレヴィナ公国を手に入れたとも考えられる。
「イエラザーム皇国の反応は?」
「皇帝からはまだ何も。ですが、レヴィナ公国はイエラザームの後ろ盾をもって独立した国です。宣戦布告ととられても仕方無いでしょう」
顔に泥を塗られた形になるイエラザーム皇国は黙ってはいまい。そうなると、イエラザーム皇国と国交の深い国々もトルポント王国の敵に回るだろう。
トルポント王国の更に東に位置し、国境を接するブルセナ王国やスリム王国も、大国イエラザームの友好国だ。戦争になれば、トルポント王国の背後から攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。そんな危険を冒してまで、戦を仕掛けた意図は何処にあるのか。
「魔族を伴う圧倒的兵力………目的は大陸の制覇か」
アストラルドの言葉にギルバート王が頷いた。
「自国を囲む国々からの攻撃をまるで恐れてはおらぬ。それほどまでに魔族とは強大な力を持っているのか」
「十数年前、西方の島ワルファラーンのビスラ王国で王が魔族を召喚し、国土が魔物に飲み込まれ国が滅びかけた事例があります。召喚したのは低級の魔物だったとは言いますが、低級ですらそれ。魔物の使役は諸刃の剣です。決して手を出してはいけない領域。その手法は禁忌としてどの記録にも残っておりませんが、トルポント王国はビスラの様にどのようにしてか手に入れたのでしょう」
アーヴァインの言葉に王は机に両肘を立て指を組んだ。
「次にトルポント軍がどの国を狙うかわかるか?」
エルガルフが緑の瞳に不穏な光を浮かべる。
「本当にトルポント王国が大陸制覇を目的としているなら、イエラザーム皇国でしょう。ですが、トルポントに手を貸す魔族の狙いは別にあります」
そう言ってロイゼルドを見やった。
「神殿はどうだった?」
「確かに神殿の地下には女神が眠るという部屋があると、神官長から聞きました。女神のいる地下世界に続くというその扉も確認しています」
淡々とロイゼルドが答える。
「とすれば、魔族が狙うのは女神の結界の消失。次は確実に我が国でしょう。ただ、トルポント王国からエディーサへは攻め込みにくい地形。他の国も黙っておりませんので、何処とぶつかるかはわかりません。特にスリム王国はレヴィナ公国と縁戚関係の国。公王が捕らわれているのであれば救出を図ると思われます。クリストフ公子が逃れていれば、その援助を願うでしょう」
「エルガルフ、こちらから仕掛けるのと、待つのはどちらが良いか?」
「白狼の神獣が今、聖地を守るために別の神獣を探しに出ています。出来るだけ時間を稼ぎ、彼の帰国を待つのが最良かと」
エディーサの将軍は深く息を吐き、最後にこう付け加えた。
「敵が待ってくれれば、の話ですが」
レヴィナ公国がトルポント王国軍の攻撃を受け、都が陥落したという知らせが入ったのはつい昨日だ。公王の生死は定かではない。
エルディア達がイエラザーム皇国の夜会で会ったクリストフ公子の行方も、逃れたと聞くがまだわかっていないという。
それを報告した間諜も重傷を受け、魔術師団の治療を受けている。
彼が言うには、トルポント軍の侵攻は異常な速さだった。瞬く間に国境に布陣した公国軍を制圧し公都に迫った。そして圧倒的な強さで都を守る公国軍を壊滅させ、ほんの数日で公王を捕らえ都を落としたという。
これまでにない軍の強さに驚くと同時に、間諜が怪我を負った経緯を聞いた王達は、異常な事態が起きている事を悟った。
————軍に魔獣が加わっている。
トルポント王国軍の兵に混ざって、明らかに異形の獣が複数従軍していたのだ。何より驚くべきことに、その魔獣達の攻撃は軍によって統制されていたという。
軍議が行われている部屋でエルガルフによってそう報告が伝えられると、出席者の間にどよめきがはしった。
「魔獣がトルポント軍に?その話は本当なのか?」
「将軍のところの双子のような神獣の加護を受けた者が、あの国にもいるというのか」
宰相の言葉をアストラルドが首を振って否定する。
「魔獣ではないでしょう。彼等は滅多に人間に従うものではない。魔獣と契約したにしては獣の数が多すぎる」
アーヴァインも頷いた。
「トルポント王国が魔族を召喚したという情報がある。おそらくそれは召喚された魔族だろう」
「魔族?召喚とは………」
その時、ノックとともに扉が開かれる。
「遅くなりまして申し訳ありません」
「いや、いい。それより聖地が魔物に襲われたというのは本当か?」
ギルバート王が会議場に入ったロイゼルドに向けて問う。ロイゼルドは居並ぶ面々に一礼して席についた。
「はい。すでに討伐致しました。ですが、また襲って来る可能性が高いので、鷲獅子騎士団の全員を聖地に配備させようと思っております。レヴィナ公国の状況はいかがな様子ですか?」
エルガルフが簡単に説明すると、ロイゼルドは眉根を寄せて頷いた。
「聖地の魔物もこれまでの魔獣達とは違うものでした。群れで行動する巨鳥と毒蛾でしたが、エルディア嬢が古の記録にある魔物である事は確認しています。レヴィナ公国と聖地は近い。あの魔物達を寄越してきた者が、トルポント王国である可能性は高いでしょう」
レヴィナ公国は聖地から神山ホルクスを挟んでちょうど北に位置している。レヴィナが落とされた日に、同時に聖地も狙われたのだ。
飛行型の魔物ばかりだったのは、ホルクスを越える必要があったからだろう。更にうがった見方をすれば、聖地を狙うためにレヴィナ公国を手に入れたとも考えられる。
「イエラザーム皇国の反応は?」
「皇帝からはまだ何も。ですが、レヴィナ公国はイエラザームの後ろ盾をもって独立した国です。宣戦布告ととられても仕方無いでしょう」
顔に泥を塗られた形になるイエラザーム皇国は黙ってはいまい。そうなると、イエラザーム皇国と国交の深い国々もトルポント王国の敵に回るだろう。
トルポント王国の更に東に位置し、国境を接するブルセナ王国やスリム王国も、大国イエラザームの友好国だ。戦争になれば、トルポント王国の背後から攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。そんな危険を冒してまで、戦を仕掛けた意図は何処にあるのか。
「魔族を伴う圧倒的兵力………目的は大陸の制覇か」
アストラルドの言葉にギルバート王が頷いた。
「自国を囲む国々からの攻撃をまるで恐れてはおらぬ。それほどまでに魔族とは強大な力を持っているのか」
「十数年前、西方の島ワルファラーンのビスラ王国で王が魔族を召喚し、国土が魔物に飲み込まれ国が滅びかけた事例があります。召喚したのは低級の魔物だったとは言いますが、低級ですらそれ。魔物の使役は諸刃の剣です。決して手を出してはいけない領域。その手法は禁忌としてどの記録にも残っておりませんが、トルポント王国はビスラの様にどのようにしてか手に入れたのでしょう」
アーヴァインの言葉に王は机に両肘を立て指を組んだ。
「次にトルポント軍がどの国を狙うかわかるか?」
エルガルフが緑の瞳に不穏な光を浮かべる。
「本当にトルポント王国が大陸制覇を目的としているなら、イエラザーム皇国でしょう。ですが、トルポントに手を貸す魔族の狙いは別にあります」
そう言ってロイゼルドを見やった。
「神殿はどうだった?」
「確かに神殿の地下には女神が眠るという部屋があると、神官長から聞きました。女神のいる地下世界に続くというその扉も確認しています」
淡々とロイゼルドが答える。
「とすれば、魔族が狙うのは女神の結界の消失。次は確実に我が国でしょう。ただ、トルポント王国からエディーサへは攻め込みにくい地形。他の国も黙っておりませんので、何処とぶつかるかはわかりません。特にスリム王国はレヴィナ公国と縁戚関係の国。公王が捕らわれているのであれば救出を図ると思われます。クリストフ公子が逃れていれば、その援助を願うでしょう」
「エルガルフ、こちらから仕掛けるのと、待つのはどちらが良いか?」
「白狼の神獣が今、聖地を守るために別の神獣を探しに出ています。出来るだけ時間を稼ぎ、彼の帰国を待つのが最良かと」
エディーサの将軍は深く息を吐き、最後にこう付け加えた。
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