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五章

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「杏子、決めたっ!」
「え?」
「幽霊さんを助ける。杏子が成仏してあげる!」

 そういって杏子ちゃんは目を輝かせる。
 じょ、成仏⁉︎
 どうしよう。それはすごく困るんだけど。

「助けてもらった杏子の友達がね、幽霊さんにお礼がしたいのに出来なくて……ずっと悔やんでる。だから、その子の代わりに私が幽霊さんを助けてあげる!」

 キラキラした瞳で見つめられると、胸がずきんと痛む。
 ほんとうのことを言いたいけど、言えないのが、申し訳なくて。

 
 きっと、私のことを成仏できない幽霊だと思っている。
 杏子ちゃんの優しさはうれしいんだけど……。

 成仏しちゃったら、私は消えちゃう!
 そ、それは困る!

 私は考えた。杏子ちゃんを傷つけずに成仏から逃れる方法を。
 あ、いいこと思いついた。

「今日一日、飛鳥先輩に憑かせてもらえない?」


 それは完全に思いつきだった。
 今日一日飛鳥先輩を見守らなければいけないってことは、学校が終わった放課後もってこと。

 放課後の見守り方法までは、作戦が思いつかなかったの。

 妹の杏子ちゃんが協力してくれないかなぁ。ってのぞみをかけてみる。

 

「えっ⁉︎ もしかして、幽霊さん……」


 戸惑ったように顔を歪ませた。
 そして……。
 

「お兄ちゃんのこと好きだったの?」

 目を丸くさせ、それから私にコソッとささやいた。

 私が飛鳥先輩をすき??
 飛鳥先輩に憑かせてほしいっていったから、ちょっと勘違いをしてるみたい。

 わくわくといった効果音が聞こえてきそうなほど、目がキラキラと輝いている。

 私はピーンときた。あ、いいこと思いついたかも。
 よーし、こうなったら、その設定でいこう……。

「協力してもらえないかな?」

 私は否定をせず、両手を合わせてお願いをした。
 すると、杏子ちゃんはさらに目を輝かせる。

「もちろん! 任せて!」

 こうして、近しい協力者ができた。
 一人で不安だったから、なんだか心強いかも。
 そんなことを思っていると。

「あれ? 学校の幽霊ちゃんじゃない?」 

 聞き覚えのある声がして、どきりとする。
 制服を着て歩いてきたのは飛鳥先輩。

 しまった!
 飛鳥先輩に見つからないようにしようと思ってたのに。
 杏子ちゃんと話しているうちに、登校時間ということを忘れていた。

 
「なにー? 学校から出てきちゃった?」

 まるで友達に話すように、あっけらかんと声をかけてくる。
 この兄弟には、幽霊が怖いという概念はなさそう。

「幽霊さんね、お兄ちゃんに憑きたいんだって」

 杏子ちゃんは悪気なくいった。
 えー! それ言っちゃうの?

 どうしよう。
 ちょっと遠くから見守りをする作戦だったのに。

 
 私が考えこんでいると、飛鳥先輩は心配そうな顔をしている。

「俺に、憑きたいの? なんで?」

 なんでと言われると、すごく困る。
 だって、理由は言えないから。

「え、えっと。一日憑いて……男子中学生の日常を知りたいなーって」

 ははっと苦笑いを浮かべながら言ってみた。
 我ながら苦しい言い訳だと思う。
 飛鳥先輩は、ビックリしたみたいだったけど、すぐにくすッと笑う。
  

「なんだそれ! まぁ、俺で良かったら、憑いていいよ?」

 優しい笑顔で、にこりと笑った。
 あっさり許可されて、私は戸惑う。
 ほ、ほんとうにいいの?

 
 
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