上 下
33 / 93

33 ドキドキのご自宅訪問(1)

しおりを挟む
 リオネル様のご自宅兼事務所は、沿道に薔薇が咲き乱れるメインストリートに面した三階建ての大きな建物だった。
 赤い煉瓦造りの連棟式建物で、右側の棟の一階がリオネル様のお母様が経営している香水店、左側の棟がユーレック商会の事務所になっている。
 調香師をされているお母様が先に右側の店舗を借りていたそうだが、リオネル様の事業が成功したと同時に左側の店舗が空いたため、隣に事務所を移してきたそうである。
 建物についても、ユーレック商会が持っているという話だった。
 貴族のたしなみである香水を扱っているというだけあって、ユーレック家の周辺は高級な服飾店や装飾品店が軒を連ねている。
 前世でイメージするなら、東京の銀座のような雰囲気だろうか。
 その割には食事をする場所は少なく、ティールームとレストランが一店舗ずつあるだけ。
 一階で店を出し、二階以上を住まいとしているブルジョワが多いため、貸店舗が少ないと言うことだった。
 リオネル様のお母様の香水店も、上品な貴婦人を顧客にしているだけあって、内装は深い緑に金色をベースに配色されており、高級感があるもの。
 大小さまざまな香水のボトルと、原材料になっている花をドライフラワーにしたものがウィンドーに飾られており、外で見ている私まで爽やかな香りを嗅いでいる気分になった。
「いらっしゃいませ」
 店に入ると、黒髪に琥珀色の瞳をした美しい婦人が私を見て声をかけてきた。
「あら……もしかして、カタリナさんかしら?」
「……はい! 初めまして。カタリナ・エルフィネスです」
 ドキドキしている私に、彼女はにっこりと微笑む。
「初めまして、リオネルの母です。息子は二階にいるから、先に上がっていてくれる? 私もここを締めたら行くわ」
「わかりました。お邪魔させていただきますね!」
 予想以上にお母様が好意的で、私は胸を撫で下ろす。
 だって、いやじゃないか……これからも度々リオネル様にはお世話になるというのに、実のお母様に敵視されていたら。
 その第一関門はクリアした。
 続く第二関門もその次もあるかもしれないけれど、まずは幸先いいスタートである。
 カウンターの横の階段を上っていくと、そこは居住空間になっている。
 扉の数からして三部屋はあるのだろうか……間口よりも奥行があるから、三階部分もあることを考えれば、リオネル様と二人で住むには広すぎるくらいだろう。
 しげしげと観察していると、奥の部屋からリオネル様が顔を覗かせた。
「あ……いらっしゃい!」
「こんにちは! あれ……お料理されているんですか?」
 私はリオネル様の格好を見て、びっくりした。
 首元を開けた白いシャツに黒のトラウザーズ、そして、麻でできた紺色のエプロンをつけているのだ!
(うぁー! イケメンのカフェ店員みたいじゃないっ)
 思わず、脳内がお花畑に早変わりする。
 いつもは青年実業家にふさわしいかちっとしたスタイルをしているので、リラックスしたご自宅での格好のギャップに、私はすっかりやられてしまった。
「……そんなに見ないでください。恥ずかしいので……」
 と、リオネル様は頬を赤らめて私から視線を逸らす。
「母がけっこう忙しくしているので、自宅で食べる時は食事の支度は私がしたりもするんです。週に何度かは叔母が手伝いに来てくれるけど、今日は自分でやろうかなって思って……」
 ふわりと、おいしそうな匂いが漂ってくる。
 スープの香りに、肉が焼ける香ばしい匂い。どうやら、この家では暖炉を使って調理しているようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...