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28 あなたなど願い下げです!(2)

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 私はフィリップを、カウンターの後方にある荷物置き場に連れて行く。
 そこは、自分たちの荷物のほかに余分に運んできた材料や食器類を置いておくスペースだ。そんなところに誰も来るわけがないから、こうした密談にはもってこいである。
「……で? いったい、お話って何でしょう?」
 振り向いて、私は彼の顔をじっと見た。
「忙しいところ、本当に申し訳ない……でも、どうしてもあのまま君との縁が切れるって思うとやり切れなくて……」
 フィリップは長い睫毛を伏せて、もじもじした様子で言い訳を始めた。
 なぜ、そこでもじもじするのかわからない。
 誰がどう見ても、私のほうが困るべきなのに、なんか私が虐めているみたいじゃないか。
「五分しかないから、要点をまとめて述べなさい!」
 ピシッと叱りつけると、フィリップはまるで学校で怒られた生徒のように佇まいを正した。
「は、はいっ! あの、その……エレオノールが妊娠したって話、もしかしたら聞いたかもしれないんだけど、あれは間違いだったんだ」
「……間違い?」
「そう。ベルトラ子爵家がうちと婚姻を結ぶために、婚約をするまでエレオノールが妊娠しているって嘘をつきとおしたんだ。医者にも賄賂を渡して!」
 それを聞いて、フィリップの言い分が少しくらいはわかった。
 妊娠したって騙したエレオノールが全面的に悪いから、自分は被害者だと言いたいのだろう。
 なるほど……それは、お気の毒さま。
 ただ、妊娠の可能性があることをしたのはどこの誰だろう? コウノトリが赤ちゃんを運んでくるとか、そういうことを信じる年齢でもないだろうに……。
「……仮にそうだとして、私にそれを伝えてどうしようとおっしゃるのです?」
 そう尋ねる私に、フィリップは眉をハの字に下げた。
「冷たいな……まぁ、君をそういう風にしてしまったのは、僕の行いのせいなんだろうけど」
「よくおわかりで!」
 しかし、なおもフィリップは食い下がってくる。
「僕が愛しているのは、カタリナ……君だけだ! エレオノールとは時間がかかっても、婚約破棄をする。だから、もう一度、僕とやり直してくれないだろうか?」
「はぁ?」
 目が点になる、とはまさにこのことだ。
 首を長くして待っていたときには私の友人と浮気をし、そっぽを向いた途端に追いかけてくる……この男は、私のことをいったい何だと思っているのだろう?
(このクズ……いや、この粗大ゴミをエレオノールに宅急便で送りつけたい! もちろん、着払いにさせてもらうけど!)
 軽蔑を隠そうともしない私に、さすがのフィリップもたじろいでいるようだ。
「あなたのことなんか、願い下げですわ!」
 キッパリとしたお断り文句に、彼は泣きそうな表情に変わった。
「そんな……!」
「わたくしには愛する仕事があり、とっても誠実で優しい恋人もおりますの。もう二度と、会いに来ないでいただけます?」
「……わ、わかった。今日はこれで十分だ……でも、あきらめないからね、君のこと!」
 そう言い残して、フィリップは踵を返した。
 後に残された私に、にやにやしながらマドレーヌが話しかけてくる。
「モテモテじゃないですか、カタリナお嬢様! 羨ましぃー!」
「ちょっと、マドレーヌ! 人のこと売ってるんじゃないわよっ。いくらもらったの? 少しは私に寄越しなさいよっ!」
 明らかに膨らんでいるエプロンのポケット。その中身を奪おうとする私の殺気に気づいて、マドレーヌは逃げ出した。
「えっ、いやですよ! これは私のもの……!」
「待ちなさいっ! 待ちなさいったら!」
 ぎゃあぎゃあと喚きながら追いかけっこをする私たちを、メアリーが呆れた顔で眺めていた。

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