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24 美青年の一途な想い(2)

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 初めて見た時から、可愛らしい女性だと思っていた。
 金色にきらきらと輝く長い髪、淡いブルーの瞳は大きくて感情を豊かに表現してくる。
 困っていた彼女を助けた礼に手渡された焼き菓子は、これまでに食べた何よりも口に合った。
 ほんのりとしたバターの香り、やさしい甘さ、ふわりとした触感――。
 一個だけでは足りない。そう思わせる中毒性が、そのお菓子……フィナンシェにはあった。
 それはまるで、カタリナ嬢本人のように甘い誘惑だった。
 調香師の母は多忙だったのもあり、家で食事を作ることはなかった。近所に住んでいた叔母が持ってきてくれた総菜で済ませたり、酒場にいっしょに行って食事をしたりすることが多かった。
 だから、カタリナ嬢が手作りだと言って渡してくれたフィナンシェのおいしさは、ことさら印象深かった。
(こんな人と結婚したら、毎日おいしい料理を作ってくれるのかな……)
 そんなふわりとした思いは、彼女のカフェで買い求めたパニーニを食べると、さらに大きいものになっていった。
 彼女はきっと、私の胃袋を掴む天才なのだろう。
 もっと、彼女のことを知りたい――そんな渇望は、日を追うごとに大きくなっていく。
 彼女の姿を一目見るために用もないのにホテルに行き、菓子や食事を買い求めた。
 経営者というだけあって、カタリナ嬢は支配人と話をしていることもあり、なかなか多忙そうである。
 ようやく二人で話ができた時には、私は天にも舞い上がるような気分だった。
「もしかして、カタリナお嬢様は南部地方のご出身ですか?」
「はい」
「ああ……では、ご実家というのはエルフィネス伯爵家でいらっしゃるのですね。道理で所作が美しいと思っておりました」
 気になっていたことの回答を得たものの、実は石で殴られたような衝撃を感じていた。
 彼女が身につけていたヘッドドレスとエプロンのせいで、彼女は平民だと勘違いしていた。
 ――が、話す言葉の美しさや所作の優雅さを見て、違和感を覚えていたのだ。
 それもそのはず、彼女の実家は南部地方で有数の伯爵家。そこの令嬢であれば、ふつうは同等の家門の貴族の子息と結婚するものだ。
 私と彼女の間にある、圧倒的な身分の差――そこに、思わず愕然とした。
 これからカフェを経営しようとしている平民の娘であれば、すぐにでも求婚することもできただろう。
 私は独身だし、それなりに資産を持っている。平民……いや、ブルジョワや新興貴族の家であれば、娘を嫁にやるのに不都合はないはずだ。
 だが、相手が貴族の令嬢となると、話は違ってくる。子爵位を持つと言っても、私はしがない商人あがりの新興貴族なのだから。
 自分の母が父と結ばれなかったのも、平民と貴族という身分の差が原因。しかし、二人の間には他にも障害があった。父が妻帯者だったということ。
 ただ、まだ私には救いがある。
 新興貴族とはいえ、私にはこの王都の有力貴族と同等の資産があり、今後、彼女が欲するだろうカフェ経営への手助けもできるということ……。
 だから、しばらくはほのかな恋情を隠すつもりだった。


 ――が、カタリナ嬢が他の男性と対峙するのを見て、理性を失っていた。
 しかも、相手の男には見覚えがある。
 おそらく、同じアカデミーに通っていた貴族の子息だろう。学年が違うので名前までは知らないが……。
 彼女からその男から婚約破棄をされたと聞いて、憤慨する一方である意味、感謝もしていた。
 なぜなら、その一件がなければ私はカタリナ嬢と出会うことがなかったから――。
 生まれながらの身分は、変えようがない。
 しかし、彼女を大事に思う気持ちは誰にも負ける気はしなかった。
 それに、親の家督を継いだりコネで官僚になったりする甘ったれた青年たちに比べたら、私のような事業家のほうが彼女の夢を理解できるはず!
 そう思って、私は一世一代の決心で彼女に告げた。
「新興貴族の私では、伯爵令嬢に交際の申し込みをするのは不遜だとは思います……しかし、私の気持ちを受け入れて……その、お……お付き合いをしていただけないでしょうか?」
 真っ赤な顔をして快諾してくれた彼女に、私は自分の命さえも捧げる決意をしたのだ。
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