静寂の境界線

あいすりぅ

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問1

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紫:M静寂、静寂、静寂。
人が賑わう大通り。五月蝿いはずの午後の街並み。笑い声、怒鳴り声、騒ぎ声。
沢山の騒音が混じり合い、そうやってひとつの空間が出来上がる。

ただ、俺の頭の中だけは、いつもいつもそれ〃で満ち溢れていた。

静寂‥いつも誰かの視線を気にしている。

静寂‥いつも、何かに怯えている。

静寂の境界線‥そこを越えれば、ーー。





ーーーーーーーーーー


恭:さっきからなにぶつぶつ言ってんだよッ!ーー

紫:ゔっ!?ゲホゲホッ

恭:シドウちゃんよぉ‥この状況で考え事ですかぁ?はー、随分と舐め腐ってんじゃねえか。悲しいなぁ俺‥。そんな無視されるとさぁ‥。

お仕置きが足りねえのかなぁ!?なんて、思っちゃうんだけどよぉッ!?

紫:ゔがっ!?

紫:M路地裏の地面はカビ臭くて、湿気でヒヤリと冷たい。今日の放課後は珍しく足取りが軽かったはずなのに、気づけば自分の血がついたアスファルトの上に平伏している。

新作の小説を本屋に買いに行く予定だった。だけど道中、この男と出くわしたのが運の尽きだろう。
顔を合わせた途端、胸ぐらを掴まれ路地裏行きだ。

あとは簡単。殴る、蹴る、暴言を吐かれ続ける‥それの繰り返し。
あぁ、感覚がもう麻痺している。恐怖も痛みも何も感じない。

まるで‥静寂‥。そうだ、これはとてもよく似ている。あの境界線″に‥。

恭:チッ、しょうもねえなーお前。何が楽しくて生きてんだ?

紫:はあ‥はあ‥げほっ

恭:‥教えてくれよ‥なぁ‥。

紫:M何が楽しいか‥?そんなの、俺の方が知りたい。

この男の名は、不破恭平(ふわきょうへい)。
俺と同じ共学に通う不良、と言うには成績が良く、出席日数も皆勤賞。
見た目に関しては大量のピアスに真っ赤な髪色と、その言葉がよく当てはまるが、どうもしっくりこない。

ただ、俺のようなターゲット″を見つけると、たちまち凶暴な悪魔へと姿を変貌させる。
何が気に入らないのか、何をそんなに嫌悪するのか、それは不破のみぞ知る話だ。

不破が俺の髪を掴み上げる。
あまりにも強く引っ張るものだから、俺は痛みでふいに不破を睨みつけてしまった。

紫:‥、(睨む

恭:っ、何だよその目はよぉっ!?俺をそんな風に見るんじゃねえ!?

紫:Mああ、やってしまったーー。そう思ったところでもう遅い。嵐の荒波のように不破の手は止まらない。

これは流石にまずいーー。
そう意識が混濁(こんだく)する中、俺はある現象″に気づき目を見開いた。不破の居るその先で起こる不自然な静寂。向こう側の開けた歩道に続く平凡な一般道(いっぱんどう)。

その空間だけが止まっている。その空間だけが悍(おぞ)ましく静か。

殴られたせいか?視界が揺れているから?いや、違う。あれは‥静寂″だーー。

紫:ゔっ!がっ!

青:おい、恭ちゃん!そろそろやばいって!

恭:やめろ!触んなっ!チッ、なんだよ?青山、お前が代わりになんのか?

青:い、いや!ほ、ほら!恭ちゃん腹減ってない?俺奢るからさ!飯食いに行こうぜ!な?

恭:‥なぁ、青山ぁ‥。

青:な、なに?

恭:次、止めたら、分かってんだろうな‥?

青:あ、あはは‥、ごめん、恭ちゃん‥。

恭:‥はぁ‥だりぃ‥。こいつ、殴りがいなくて興が醒める‥青山ぁ、行くぞ飯。

青:っ、お、おうよ!そこの角にさ!新しいラーメン屋できたらしいぜ!恭ちゃんラーメン好きだったよな?

紫:Mやっと終わった。それだけならよかった。こんな時に出くわすなんて、本当に今日は運が悪い。2人が歩き始める。静寂のその先″にーー。

紫:待て!駄目だ!行くなっ!!その先はっ!

恭:‥あ″?てめえっ!?

紫:M昔、誰かがこう言っていた。


紫:Mその先は、境界の向こう側だーー

青:ん?なんだ?ッ、今、なんか‥寒気が‥

異:モーラーイーマーシーター

紫:ッ!?くそっ、間に合わなかっtッぐはっ!?

恭:何意味わかんねえことほざいてんだよこらぁ!?誰が俺に触っていいっつったよ!?ぶっ殺すぞてめえ!?

青:ちょ、ちょっと恭ちゃん!?ほら、行こうぜ!な?

恭:チッ!

青:ちょ!恭ちゃん待てよ!はあ‥お前も、いい加減にしろよまじで‥殺されてえのかよ‥。

異:コーローサーレーターイーノー、オイシソウナ、ナガイチョウダネ。

青:、なんか‥吐き気してきた‥ストレスかな?ゔゔ‥俺ってやっぱ苦労人?

恭:青山ぁ!さっさとしろやぁ!

青:っ、は、はいよ~!‥ゔ、すぐ行くから!ちょっと、待って‥ゔ‥お前も出来るだけ恭ちゃんの目に入らないようにしろよ?恭ちゃんはな‥ほんとはっ!

恭:あおやまぁあ!?

青:ああ!行くって!行くから!そんじゃあな!

紫:っ、待てっ‥

紫:M伸ばした手が空を切る。静寂の境界線。決して超えてはいけない静寂の境目。それはどこにでも現れる。
誰かが足を踏み入れるのをジッと待っている。

そこを超えれば、ーー。

向こう側にいるナニカが、人で無しを食いに這い出てくるーー。




ーーーーーーーーーーーー


紫M:昔、婆ちゃんがこう言っていた。あの境界を越えてはならないとーー。

幼い頃の俺はその意味がよく理解できなくて、一度だけ、婆ちゃんとの約束を破り、境目を超えたことがある。

‥婆ちゃんが泣いていた。俺の肩を掴んで‥境界の向こう側で泣いていたんだ。

その日‥婆ちゃんが死んだーー


ーーーーーーー


紫:うわあっ!?はあ、はあ‥。朝‥夢か‥っ、いてて‥あいつ、馬鹿みたいに殴りやがって‥、ん?ひい!?


紫:M殺風景な部屋。普通の人間が例えるなら真っ先にこう言うだろう。だけど俺の目には、壁の柄が見えないほどの、たくさんのモノが映し出される。

髪の長い女。
黒くどデカい仮面の怪物。
小さな綿毛に人間の足が生えた気持ちの悪いやつ。その他にもたくさん‥。

彼らは境界の裂け目から流れ込んで来た異様なモノ″だ。
それは普通の人には見えないナニカ。
そのナニカと会話したり、触れたりする事はできない。

どうやら境界の向こう側からは、俺達に干渉できない決まりらしい。

だけど、こちら側から足を踏み入れてしまえば、その法則は逆転する。

婆ちゃん曰く、境界を越えたものは。すなわち、人では無くなってしまうのだ。

紫:Mそうなれば、奴らの好き放題‥奴らの好物はよく知っている。生きた人間だーー。

昨日の青山、だったか‥?
たぶんあいつは死ぬだろう。あれはそういうモノ″なのだ。止めるは止めた。出来ることはやったし、しょうがない。

俺は何もできない。ただ見えるだけだ。だから仕方がない。俺のせいじゃない‥俺のせいじゃ‥ない‥。

鏡に映った自分の顔が、情けなく歪んでいた。




ーーーーーーーーー





紫:ゔ‥さっむ‥

紫:M季節は冬。今日の気温はかなり下がるらしい。俺は白くなる息を見つめながら、通学路を歩く。

異:キコっエルっカイ?カイ?カイ?

異:ナンニンイマスゥ~?シンセンデスネー

紫:っ、

紫:M登校中の景色は‥地獄だ。至る所に奴らがいる。俺は俯き、目を合わさないように足早にその場を駆け抜けようとした、時だった。

男の子(凛:わ!!

紫:っ、ごめん!大丈夫か?

お父さん(青:おい!ショウタ!すみません、うちの子が‥。

男の子(凛:違うもん!俺悪くねえ!こいつがよそ見してたんだ!

お父さん(青:こら!なんて事言うんだ!お兄さんに謝りなさい!

紫:い、いえ、大丈夫ですから‥

男の子(凛:ふん!

お父さん(青:おいショウタ!はあ‥本当にすみません‥では‥。

紫:Mやつれた顔をした男は父親だろう。
無邪気に走り回る少年。そんな姿を目で追う。
懐かしい。俺もあんな時期があったな‥。

俺には両親がいない。
小さい頃に事故で他界したらしい。
両親がいない俺を婆ちゃんはよく公園に連れて行ってくれた。

楽しかった日常を懐かしいんでいると、ふいに公園のブランコが不自然に止まる。
静まり返る空間。静寂‥静寂。

先ほどぶつかった小学生くらいの男の子が、その空間へと駆けていく。

紫:まずいっ、そっちは!‥、いや‥

紫:M‥放っておけ。昨日も間に合わなかった。話しかけたところで不審者扱いされて終わりだ。あの子は運が悪かった。だから仕方がない。

境界が静かに歪みはじめる。まるで獲物が罠にかかるのを静かに待つように‥。

紫:うっ、違う‥俺のせいじゃないっ、俺のせいじゃっーー

凛:君っ止まりなさい!ーー

紫:っ!!

凛:ブランコに近づかないで!故障しているから今日は乗れません!早く離れて!

紫:Mガサリと背後の草むらが揺れて、俺の上を軽々しく飛び越える女の姿が目に映る。和服と洋服を合わせたような格好はまさに‥ジャパニーズ‥ニンジャ‥?

雪:凛、左のブランコの手前です。

凛:分かったわ!烏夜(うや)の朧者(おぼろもの)、宵闇(よいやみ)よりいでし者、狂花(きょうか)の玲瓏(れいろう)にて、その境目(さかいめ)、霧消(むしょう)となれ!ーー閉(へい)ーー。

紫:M一体何が起きているんだ?俺は呆然とその光景を眺める。凛と呼ばれた少女が、境界に何か唱えたと同時に、ピシリと音を立てて静寂が崩壊していく。

雪:完全に消失しました。凛、お疲れ様です。

紫:M待て、嘘だろーー、

紫:境界が‥消えた‥?!っ、まずいっ!?


凛:っ、誰‥?




ーーーーーーーーーー
恭side‥


姉(凛):このっ!?役立たず!?なんで私が殴られなきゃいけないのよっ!?
どうしてなのよもう!?あんたのせいよ全部!あんたのせい!ーー

恭:M罵声、罵声、罵声‥いつも誰かに疎(うと)まれている。

紫:俺のせいじゃないっ、俺は悪くないっ!?ーー。

恭:‥シドウちゃんはっけーん。さっきから何ぶつぶつ言ってんだぁ?‥気持ち悪ぃなぁ、ほんっとによぉっ!?

紫:ゔぐっ?!ーー。

恭:M憤り(いきどおり)‥いつも誰かを呪っているーー。



ーーーーーーー


恭:っ‥ゲホゲホ‥、

青:うぃ‥恭ちゃん、はよ~。って!?恭ちゃん!?また親父さんにやられたのか!?

恭:うるせぇ‥でけえ声出すんじゃねえよ‥。

青:ひでえ‥ひでえよ‥。今度こそ警察にっ!

恭:やめろ!!

青:うぐっ、で、でも、恭ちゃんっ悔しくねえのかよ!?

恭:っ‥どうでもいい‥。

青:なんでいつも我慢してんだよ‥お姉さんの事気にしてんなら、尚更だって!

恭:いいから、サツはやめろ‥。どうせ無駄だ‥。

青:っ、くそ!ずりぃよ‥あのクソオヤジッ‥警察のお偉いさんだかなんだか知んねえけどよ‥それで揉み消せるとでも思ってッ!

恭:青山‥手貸せ‥。

青:~ああもう!分かったよ!とりあえず治療すっから、家上がらせてもらうぜ!ういしょっ!お、重え‥ゔう、、

恭:‥。

恭:M弱い者は強者に平伏することしかできない。弱いから傷つく。弱いだけで周りに迷惑をかける。

悪いのは全部、弱い自分のせいだ。

そう言って親父は幼少期から俺を殴り続けた。
俺がいない日には母さんか姉貴を。

助けは求めた。誰にでも、どんな機会にでも。だけど、それはいつも無意味に終わった。

恭:くそがっ‥

恭:M他人のせいにする姉。見て見ぬ振りの隣人。権力の前に屈する教師。
誰もが親父を恐れた。誰もが目を逸らし、何もできないとそう告げる。

傍観、傍観、傍観‥どうしてお前らは普通でいられる?何故何もないように振る舞える?

ネットで騒ぐ一般人。イジメが起きた教室。蚊帳の外からは干渉するくせに、自身に火の粉が飛んだ途端、誰もが無関係を貫いた。

そういう人間にはいつもいつも反吐が出る。

青:よし、これでなんとか‥でも、今日は休んだ方がいいって‥。

恭:いや‥親父にバレたら面倒だ‥行くぞ。

青:‥はあ‥わーたよ‥。なぁ恭ちゃん‥どうして紫藤にあんなことすんの?

恭:‥急に何かと思えば‥なんだよ青山。やけにあいつの肩持つじゃねえか。

青:‥いつもはあそこまでやんねえだろ。ましてや何もしてねえ奴ボコして。

恭:何もしてねえだ?は、あいつはなぁ、一番下衆(げす)な事やってんだよ。見てるだけでイラつくっ!

恭:『かあ、さん‥?』

姉(凛):『いやああ!?お母さん!お母さん!?ああ、ああ!?あんたのせいよ!?あんたのせいでっ!?』

恭:M現実逃避して、のこのこと生きてやがる。平凡そうに。何もねえみてえに。

認めない。悪くない。俺のせいじゃない。関係ない。

見て見ぬふり?傍観者だぁ?そんなものが許されていいわけねえだろ。

同じ痛みを感じねえと人は変わんねえ。だから俺が分からせてやる。
強制的な粛清‥その為に俺は痛みを知ったんだ。

青:‥それさ、親父さんとやってる事、同じじゃねえの。

恭:っ!青山てめえっ!?今なんつった!?

青:うぐっ、らしくねえよ恭ちゃん!

恭:お前に俺の何がっ!?

恭:Mそれが違うって否定されんのなら‥俺は何のために?

青:ゔ、おええええっ!!

恭:っ、汚ねえ!なんっだよ?!

青:ご、ごめん‥恭ちゃん‥なんか、俺‥昨日から調子悪い、みたいでさ‥。っ、ゲホゲホ‥は?何これ、血?嘘、だろ?っ、ゔゔ!?

恭:青山‥?おい、青山!?どうした!?

恭:っ!?イッ‥てえ‥今、何か目に‥。っ!?

異:コレハボクノデス!サワラナイデ!イヤイヤ!

恭:‥は?‥なん、だよっ、それはぁ!?








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