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問1
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紫:M静寂、静寂、静寂。
人が賑わう大通り。五月蝿いはずの午後の街並み。笑い声、怒鳴り声、騒ぎ声。
沢山の騒音が混じり合い、そうやってひとつの空間が出来上がる。
ただ、俺の頭の中だけは、いつもいつもそれ〃で満ち溢れていた。
静寂‥いつも誰かの視線を気にしている。
静寂‥いつも、何かに怯えている。
静寂の境界線‥そこを越えれば、人で無しーー。
ーーーーーーーーーー
恭:さっきからなにぶつぶつ言ってんだよッ!ーー
紫:ゔっ!?ゲホゲホッ
恭:シドウちゃんよぉ‥この状況で考え事ですかぁ?はー、随分と舐め腐ってんじゃねえか。悲しいなぁ俺‥。そんな無視されるとさぁ‥。
お仕置きが足りねえのかなぁ!?なんて、思っちゃうんだけどよぉッ!?
紫:ゔがっ!?
紫:M路地裏の地面はカビ臭くて、湿気でヒヤリと冷たい。今日の放課後は珍しく足取りが軽かったはずなのに、気づけば自分の血がついたアスファルトの上に平伏している。
新作の小説を本屋に買いに行く予定だった。だけど道中、この男と出くわしたのが運の尽きだろう。
顔を合わせた途端、胸ぐらを掴まれ路地裏行きだ。
あとは簡単。殴る、蹴る、暴言を吐かれ続ける‥それの繰り返し。
あぁ、感覚がもう麻痺している。恐怖も痛みも何も感じない。
まるで‥静寂‥。そうだ、これはとてもよく似ている。あの境界線″に‥。
恭:チッ、しょうもねえなーお前。何が楽しくて生きてんだ?
紫:はあ‥はあ‥げほっ
恭:‥教えてくれよ‥なぁ‥。
紫:M何が楽しいか‥?そんなの、俺の方が知りたい。
この男の名は、不破恭平(ふわきょうへい)。
俺と同じ共学に通う不良、と言うには成績が良く、出席日数も皆勤賞。
見た目に関しては大量のピアスに真っ赤な髪色と、その言葉がよく当てはまるが、どうもしっくりこない。
ただ、俺のようなターゲット″を見つけると、たちまち凶暴な悪魔へと姿を変貌させる。
何が気に入らないのか、何をそんなに嫌悪するのか、それは不破のみぞ知る話だ。
不破が俺の髪を掴み上げる。
あまりにも強く引っ張るものだから、俺は痛みでふいに不破を睨みつけてしまった。
紫:‥、(睨む
恭:っ、何だよその目はよぉっ!?俺をそんな風に見るんじゃねえ!?
紫:Mああ、やってしまったーー。そう思ったところでもう遅い。嵐の荒波のように不破の手は止まらない。
これは流石にまずいーー。
そう意識が混濁(こんだく)する中、俺はある現象″に気づき目を見開いた。不破の居るその先で起こる不自然な静寂。向こう側の開けた歩道に続く平凡な一般道(いっぱんどう)。
その空間だけが止まっている。その空間だけが悍(おぞ)ましく静か。
殴られたせいか?視界が揺れているから?いや、違う。あれは‥静寂″だーー。
紫:ゔっ!がっ!
青:おい、恭ちゃん!そろそろやばいって!
恭:やめろ!触んなっ!チッ、なんだよ?青山、お前が代わりになんのか?
青:い、いや!ほ、ほら!恭ちゃん腹減ってない?俺奢るからさ!飯食いに行こうぜ!な?
恭:‥なぁ、青山ぁ‥。
青:な、なに?
恭:次、止めたら、分かってんだろうな‥?
青:あ、あはは‥、ごめん、恭ちゃん‥。
恭:‥はぁ‥だりぃ‥。こいつ、殴りがいなくて興が醒める‥青山ぁ、行くぞ飯。
青:っ、お、おうよ!そこの角にさ!新しいラーメン屋できたらしいぜ!恭ちゃんラーメン好きだったよな?
紫:Mやっと終わった。それだけならよかった。こんな時に出くわすなんて、本当に今日は運が悪い。2人が歩き始める。静寂のその先″にーー。
紫:待て!駄目だ!行くなっ!!その先はっ!
恭:‥あ″?てめえっ!?
紫:M昔、誰かがこう言っていた。
紫:Mその先は、境界の向こう側だーー
青:ん?なんだ?ッ、今、なんか‥寒気が‥
異:モーラーイーマーシーター
紫:ッ!?くそっ、間に合わなかっtッぐはっ!?
恭:何意味わかんねえことほざいてんだよこらぁ!?誰が俺に触っていいっつったよ!?ぶっ殺すぞてめえ!?
青:ちょ、ちょっと恭ちゃん!?ほら、行こうぜ!な?
恭:チッ!
青:ちょ!恭ちゃん待てよ!はあ‥お前も、いい加減にしろよまじで‥殺されてえのかよ‥。
異:コーローサーレーターイーノー、オイシソウナ、ナガイチョウダネ。
青:、なんか‥吐き気してきた‥ストレスかな?ゔゔ‥俺ってやっぱ苦労人?
恭:青山ぁ!さっさとしろやぁ!
青:っ、は、はいよ~!‥ゔ、すぐ行くから!ちょっと、待って‥ゔ‥お前も出来るだけ恭ちゃんの目に入らないようにしろよ?恭ちゃんはな‥ほんとはっ!
恭:あおやまぁあ!?
青:ああ!行くって!行くから!そんじゃあな!
紫:っ、待てっ‥
紫:M伸ばした手が空を切る。静寂の境界線。決して超えてはいけない静寂の境目。それはどこにでも現れる。
誰かが足を踏み入れるのをジッと待っている。
そこを超えれば、人で無しーー。
向こう側にいるナニカが、人で無しを食いに這い出てくるーー。
ーーーーーーーーーーーー
紫M:昔、婆ちゃんがこう言っていた。あの境界を越えてはならないとーー。
幼い頃の俺はその意味がよく理解できなくて、一度だけ、婆ちゃんとの約束を破り、境目を超えたことがある。
‥婆ちゃんが泣いていた。俺の肩を掴んで‥境界の向こう側で泣いていたんだ。
その日‥婆ちゃんが死んだーー
ーーーーーーー
紫:うわあっ!?はあ、はあ‥。朝‥夢か‥っ、いてて‥あいつ、馬鹿みたいに殴りやがって‥、ん?ひい!?
紫:M殺風景な部屋。普通の人間が例えるなら真っ先にこう言うだろう。だけど俺の目には、壁の柄が見えないほどの、たくさんのモノが映し出される。
髪の長い女。
黒くどデカい仮面の怪物。
小さな綿毛に人間の足が生えた気持ちの悪いやつ。その他にもたくさん‥。
彼らは境界の裂け目から流れ込んで来た異様なモノ″だ。
それは普通の人には見えないナニカ。
そのナニカと会話したり、触れたりする事はできない。
どうやら境界の向こう側からは、俺達に干渉できない決まりらしい。
だけど、こちら側から足を踏み入れてしまえば、その法則は逆転する。
婆ちゃん曰く、境界を越えたものは人で無し。すなわち、人では無くなってしまうのだ。
紫:Mそうなれば、奴らの好き放題‥奴らの好物はよく知っている。生きた人間だーー。
昨日の青山、だったか‥?
たぶんあいつは死ぬだろう。あれはそういうモノ″なのだ。止めるは止めた。出来ることはやったし、しょうがない。
俺は何もできない。ただ見えるだけだ。だから仕方がない。俺のせいじゃない‥俺のせいじゃ‥ない‥。
鏡に映った自分の顔が、情けなく歪んでいた。
ーーーーーーーーー
紫:ゔ‥さっむ‥
紫:M季節は冬。今日の気温はかなり下がるらしい。俺は白くなる息を見つめながら、通学路を歩く。
異:キコっエルっカイ?カイ?カイ?
異:ナンニンイマスゥ~?シンセンデスネー
紫:っ、
紫:M登校中の景色は‥地獄だ。至る所に奴らがいる。俺は俯き、目を合わさないように足早にその場を駆け抜けようとした、時だった。
男の子(凛:わ!!
紫:っ、ごめん!大丈夫か?
お父さん(青:おい!ショウタ!すみません、うちの子が‥。
男の子(凛:違うもん!俺悪くねえ!こいつがよそ見してたんだ!
お父さん(青:こら!なんて事言うんだ!お兄さんに謝りなさい!
紫:い、いえ、大丈夫ですから‥
男の子(凛:ふん!
お父さん(青:おいショウタ!はあ‥本当にすみません‥では‥。
紫:Mやつれた顔をした男は父親だろう。
無邪気に走り回る少年。そんな姿を目で追う。
懐かしい。俺もあんな時期があったな‥。
俺には両親がいない。
小さい頃に事故で他界したらしい。
両親がいない俺を婆ちゃんはよく公園に連れて行ってくれた。
楽しかった日常を懐かしいんでいると、ふいに公園のブランコが不自然に止まる。
静まり返る空間。静寂‥静寂。
先ほどぶつかった小学生くらいの男の子が、その空間へと駆けていく。
紫:まずいっ、そっちは!‥、いや‥
紫:M‥放っておけ。昨日も間に合わなかった。話しかけたところで不審者扱いされて終わりだ。あの子は運が悪かった。だから仕方がない。
境界が静かに歪みはじめる。まるで獲物が罠にかかるのを静かに待つように‥。
紫:うっ、違う‥俺のせいじゃないっ、俺のせいじゃっーー
凛:君っ止まりなさい!ーー
紫:っ!!
凛:ブランコに近づかないで!故障しているから今日は乗れません!早く離れて!
紫:Mガサリと背後の草むらが揺れて、俺の上を軽々しく飛び越える女の姿が目に映る。和服と洋服を合わせたような格好はまさに‥ジャパニーズ‥ニンジャ‥?
雪:凛、左のブランコの手前です。
凛:分かったわ!烏夜(うや)の朧者(おぼろもの)、宵闇(よいやみ)よりいでし者、狂花(きょうか)の玲瓏(れいろう)にて、その境目(さかいめ)、霧消(むしょう)となれ!ーー閉(へい)ーー。
紫:M一体何が起きているんだ?俺は呆然とその光景を眺める。凛と呼ばれた少女が、境界に何か唱えたと同時に、ピシリと音を立てて静寂が崩壊していく。
雪:完全に消失しました。凛、お疲れ様です。
紫:M待て、嘘だろーー、
紫:境界が‥消えた‥?!っ、まずいっ!?
凛:っ、誰‥?
ーーーーーーーーーー
恭side‥
姉(凛):このっ!?役立たず!?なんで私が殴られなきゃいけないのよっ!?
どうしてなのよもう!?あんたのせいよ全部!あんたのせい!ーー
恭:M罵声、罵声、罵声‥いつも誰かに疎(うと)まれている。
紫:俺のせいじゃないっ、俺は悪くないっ!?ーー。
恭:‥シドウちゃんはっけーん。さっきから何ぶつぶつ言ってんだぁ?‥気持ち悪ぃなぁ、ほんっとによぉっ!?
紫:ゔぐっ?!ーー。
恭:M憤り(いきどおり)‥いつも誰かを呪っているーー。
ーーーーーーー
恭:っ‥ゲホゲホ‥、
青:うぃ‥恭ちゃん、はよ~。って!?恭ちゃん!?また親父さんにやられたのか!?
恭:うるせぇ‥でけえ声出すんじゃねえよ‥。
青:ひでえ‥ひでえよ‥。今度こそ警察にっ!
恭:やめろ!!
青:うぐっ、で、でも、恭ちゃんっ悔しくねえのかよ!?
恭:っ‥どうでもいい‥。
青:なんでいつも我慢してんだよ‥お姉さんの事気にしてんなら、尚更だって!
恭:いいから、サツはやめろ‥。どうせ無駄だ‥。
青:っ、くそ!ずりぃよ‥あのクソオヤジッ‥警察のお偉いさんだかなんだか知んねえけどよ‥それで揉み消せるとでも思ってッ!
恭:青山‥手貸せ‥。
青:~ああもう!分かったよ!とりあえず治療すっから、家上がらせてもらうぜ!ういしょっ!お、重え‥ゔう、、
恭:‥。
恭:M弱い者は強者に平伏することしかできない。弱いから傷つく。弱いだけで周りに迷惑をかける。
悪いのは全部、弱い自分のせいだ。
そう言って親父は幼少期から俺を殴り続けた。
俺がいない日には母さんか姉貴を。
助けは求めた。誰にでも、どんな機会にでも。だけど、それはいつも無意味に終わった。
恭:くそがっ‥
恭:M他人のせいにする姉。見て見ぬ振りの隣人。権力の前に屈する教師。
誰もが親父を恐れた。誰もが目を逸らし、何もできないとそう告げる。
傍観、傍観、傍観‥どうしてお前らは普通でいられる?何故何もないように振る舞える?
ネットで騒ぐ一般人。イジメが起きた教室。蚊帳の外からは干渉するくせに、自身に火の粉が飛んだ途端、誰もが無関係を貫いた。
そういう人間にはいつもいつも反吐が出る。
青:よし、これでなんとか‥でも、今日は休んだ方がいいって‥。
恭:いや‥親父にバレたら面倒だ‥行くぞ。
青:‥はあ‥わーたよ‥。なぁ恭ちゃん‥どうして紫藤にあんなことすんの?
恭:‥急に何かと思えば‥なんだよ青山。やけにあいつの肩持つじゃねえか。
青:‥いつもはあそこまでやんねえだろ。ましてや何もしてねえ奴ボコして。
恭:何もしてねえだ?は、あいつはなぁ、一番下衆(げす)な事やってんだよ。見てるだけでイラつくっ!
恭:『かあ、さん‥?』
姉(凛):『いやああ!?お母さん!お母さん!?ああ、ああ!?あんたのせいよ!?あんたのせいでっ!?』
恭:M現実逃避して、のこのこと生きてやがる。平凡そうに。何もねえみてえに。
認めない。悪くない。俺のせいじゃない。関係ない。
見て見ぬふり?傍観者だぁ?そんなものが許されていいわけねえだろ。
同じ痛みを感じねえと人は変わんねえ。だから俺が分からせてやる。
強制的な粛清‥その為に俺は痛みを知ったんだ。
青:‥それさ、親父さんとやってる事、同じじゃねえの。
恭:っ!青山てめえっ!?今なんつった!?
青:うぐっ、らしくねえよ恭ちゃん!
恭:お前に俺の何がっ!?
恭:Mそれが違うって否定されんのなら‥俺は何のために?
青:ゔ、おええええっ!!
恭:っ、汚ねえ!なんっだよ?!
青:ご、ごめん‥恭ちゃん‥なんか、俺‥昨日から調子悪い、みたいでさ‥。っ、ゲホゲホ‥は?何これ、血?嘘、だろ?っ、ゔゔ!?
恭:青山‥?おい、青山!?どうした!?
恭:っ!?イッ‥てえ‥今、何か目に‥。っ!?
異:コレハボクノデス!サワラナイデ!イヤイヤ!
恭:‥は?‥なん、だよっ、それはぁ!?
人が賑わう大通り。五月蝿いはずの午後の街並み。笑い声、怒鳴り声、騒ぎ声。
沢山の騒音が混じり合い、そうやってひとつの空間が出来上がる。
ただ、俺の頭の中だけは、いつもいつもそれ〃で満ち溢れていた。
静寂‥いつも誰かの視線を気にしている。
静寂‥いつも、何かに怯えている。
静寂の境界線‥そこを越えれば、人で無しーー。
ーーーーーーーーーー
恭:さっきからなにぶつぶつ言ってんだよッ!ーー
紫:ゔっ!?ゲホゲホッ
恭:シドウちゃんよぉ‥この状況で考え事ですかぁ?はー、随分と舐め腐ってんじゃねえか。悲しいなぁ俺‥。そんな無視されるとさぁ‥。
お仕置きが足りねえのかなぁ!?なんて、思っちゃうんだけどよぉッ!?
紫:ゔがっ!?
紫:M路地裏の地面はカビ臭くて、湿気でヒヤリと冷たい。今日の放課後は珍しく足取りが軽かったはずなのに、気づけば自分の血がついたアスファルトの上に平伏している。
新作の小説を本屋に買いに行く予定だった。だけど道中、この男と出くわしたのが運の尽きだろう。
顔を合わせた途端、胸ぐらを掴まれ路地裏行きだ。
あとは簡単。殴る、蹴る、暴言を吐かれ続ける‥それの繰り返し。
あぁ、感覚がもう麻痺している。恐怖も痛みも何も感じない。
まるで‥静寂‥。そうだ、これはとてもよく似ている。あの境界線″に‥。
恭:チッ、しょうもねえなーお前。何が楽しくて生きてんだ?
紫:はあ‥はあ‥げほっ
恭:‥教えてくれよ‥なぁ‥。
紫:M何が楽しいか‥?そんなの、俺の方が知りたい。
この男の名は、不破恭平(ふわきょうへい)。
俺と同じ共学に通う不良、と言うには成績が良く、出席日数も皆勤賞。
見た目に関しては大量のピアスに真っ赤な髪色と、その言葉がよく当てはまるが、どうもしっくりこない。
ただ、俺のようなターゲット″を見つけると、たちまち凶暴な悪魔へと姿を変貌させる。
何が気に入らないのか、何をそんなに嫌悪するのか、それは不破のみぞ知る話だ。
不破が俺の髪を掴み上げる。
あまりにも強く引っ張るものだから、俺は痛みでふいに不破を睨みつけてしまった。
紫:‥、(睨む
恭:っ、何だよその目はよぉっ!?俺をそんな風に見るんじゃねえ!?
紫:Mああ、やってしまったーー。そう思ったところでもう遅い。嵐の荒波のように不破の手は止まらない。
これは流石にまずいーー。
そう意識が混濁(こんだく)する中、俺はある現象″に気づき目を見開いた。不破の居るその先で起こる不自然な静寂。向こう側の開けた歩道に続く平凡な一般道(いっぱんどう)。
その空間だけが止まっている。その空間だけが悍(おぞ)ましく静か。
殴られたせいか?視界が揺れているから?いや、違う。あれは‥静寂″だーー。
紫:ゔっ!がっ!
青:おい、恭ちゃん!そろそろやばいって!
恭:やめろ!触んなっ!チッ、なんだよ?青山、お前が代わりになんのか?
青:い、いや!ほ、ほら!恭ちゃん腹減ってない?俺奢るからさ!飯食いに行こうぜ!な?
恭:‥なぁ、青山ぁ‥。
青:な、なに?
恭:次、止めたら、分かってんだろうな‥?
青:あ、あはは‥、ごめん、恭ちゃん‥。
恭:‥はぁ‥だりぃ‥。こいつ、殴りがいなくて興が醒める‥青山ぁ、行くぞ飯。
青:っ、お、おうよ!そこの角にさ!新しいラーメン屋できたらしいぜ!恭ちゃんラーメン好きだったよな?
紫:Mやっと終わった。それだけならよかった。こんな時に出くわすなんて、本当に今日は運が悪い。2人が歩き始める。静寂のその先″にーー。
紫:待て!駄目だ!行くなっ!!その先はっ!
恭:‥あ″?てめえっ!?
紫:M昔、誰かがこう言っていた。
紫:Mその先は、境界の向こう側だーー
青:ん?なんだ?ッ、今、なんか‥寒気が‥
異:モーラーイーマーシーター
紫:ッ!?くそっ、間に合わなかっtッぐはっ!?
恭:何意味わかんねえことほざいてんだよこらぁ!?誰が俺に触っていいっつったよ!?ぶっ殺すぞてめえ!?
青:ちょ、ちょっと恭ちゃん!?ほら、行こうぜ!な?
恭:チッ!
青:ちょ!恭ちゃん待てよ!はあ‥お前も、いい加減にしろよまじで‥殺されてえのかよ‥。
異:コーローサーレーターイーノー、オイシソウナ、ナガイチョウダネ。
青:、なんか‥吐き気してきた‥ストレスかな?ゔゔ‥俺ってやっぱ苦労人?
恭:青山ぁ!さっさとしろやぁ!
青:っ、は、はいよ~!‥ゔ、すぐ行くから!ちょっと、待って‥ゔ‥お前も出来るだけ恭ちゃんの目に入らないようにしろよ?恭ちゃんはな‥ほんとはっ!
恭:あおやまぁあ!?
青:ああ!行くって!行くから!そんじゃあな!
紫:っ、待てっ‥
紫:M伸ばした手が空を切る。静寂の境界線。決して超えてはいけない静寂の境目。それはどこにでも現れる。
誰かが足を踏み入れるのをジッと待っている。
そこを超えれば、人で無しーー。
向こう側にいるナニカが、人で無しを食いに這い出てくるーー。
ーーーーーーーーーーーー
紫M:昔、婆ちゃんがこう言っていた。あの境界を越えてはならないとーー。
幼い頃の俺はその意味がよく理解できなくて、一度だけ、婆ちゃんとの約束を破り、境目を超えたことがある。
‥婆ちゃんが泣いていた。俺の肩を掴んで‥境界の向こう側で泣いていたんだ。
その日‥婆ちゃんが死んだーー
ーーーーーーー
紫:うわあっ!?はあ、はあ‥。朝‥夢か‥っ、いてて‥あいつ、馬鹿みたいに殴りやがって‥、ん?ひい!?
紫:M殺風景な部屋。普通の人間が例えるなら真っ先にこう言うだろう。だけど俺の目には、壁の柄が見えないほどの、たくさんのモノが映し出される。
髪の長い女。
黒くどデカい仮面の怪物。
小さな綿毛に人間の足が生えた気持ちの悪いやつ。その他にもたくさん‥。
彼らは境界の裂け目から流れ込んで来た異様なモノ″だ。
それは普通の人には見えないナニカ。
そのナニカと会話したり、触れたりする事はできない。
どうやら境界の向こう側からは、俺達に干渉できない決まりらしい。
だけど、こちら側から足を踏み入れてしまえば、その法則は逆転する。
婆ちゃん曰く、境界を越えたものは人で無し。すなわち、人では無くなってしまうのだ。
紫:Mそうなれば、奴らの好き放題‥奴らの好物はよく知っている。生きた人間だーー。
昨日の青山、だったか‥?
たぶんあいつは死ぬだろう。あれはそういうモノ″なのだ。止めるは止めた。出来ることはやったし、しょうがない。
俺は何もできない。ただ見えるだけだ。だから仕方がない。俺のせいじゃない‥俺のせいじゃ‥ない‥。
鏡に映った自分の顔が、情けなく歪んでいた。
ーーーーーーーーー
紫:ゔ‥さっむ‥
紫:M季節は冬。今日の気温はかなり下がるらしい。俺は白くなる息を見つめながら、通学路を歩く。
異:キコっエルっカイ?カイ?カイ?
異:ナンニンイマスゥ~?シンセンデスネー
紫:っ、
紫:M登校中の景色は‥地獄だ。至る所に奴らがいる。俺は俯き、目を合わさないように足早にその場を駆け抜けようとした、時だった。
男の子(凛:わ!!
紫:っ、ごめん!大丈夫か?
お父さん(青:おい!ショウタ!すみません、うちの子が‥。
男の子(凛:違うもん!俺悪くねえ!こいつがよそ見してたんだ!
お父さん(青:こら!なんて事言うんだ!お兄さんに謝りなさい!
紫:い、いえ、大丈夫ですから‥
男の子(凛:ふん!
お父さん(青:おいショウタ!はあ‥本当にすみません‥では‥。
紫:Mやつれた顔をした男は父親だろう。
無邪気に走り回る少年。そんな姿を目で追う。
懐かしい。俺もあんな時期があったな‥。
俺には両親がいない。
小さい頃に事故で他界したらしい。
両親がいない俺を婆ちゃんはよく公園に連れて行ってくれた。
楽しかった日常を懐かしいんでいると、ふいに公園のブランコが不自然に止まる。
静まり返る空間。静寂‥静寂。
先ほどぶつかった小学生くらいの男の子が、その空間へと駆けていく。
紫:まずいっ、そっちは!‥、いや‥
紫:M‥放っておけ。昨日も間に合わなかった。話しかけたところで不審者扱いされて終わりだ。あの子は運が悪かった。だから仕方がない。
境界が静かに歪みはじめる。まるで獲物が罠にかかるのを静かに待つように‥。
紫:うっ、違う‥俺のせいじゃないっ、俺のせいじゃっーー
凛:君っ止まりなさい!ーー
紫:っ!!
凛:ブランコに近づかないで!故障しているから今日は乗れません!早く離れて!
紫:Mガサリと背後の草むらが揺れて、俺の上を軽々しく飛び越える女の姿が目に映る。和服と洋服を合わせたような格好はまさに‥ジャパニーズ‥ニンジャ‥?
雪:凛、左のブランコの手前です。
凛:分かったわ!烏夜(うや)の朧者(おぼろもの)、宵闇(よいやみ)よりいでし者、狂花(きょうか)の玲瓏(れいろう)にて、その境目(さかいめ)、霧消(むしょう)となれ!ーー閉(へい)ーー。
紫:M一体何が起きているんだ?俺は呆然とその光景を眺める。凛と呼ばれた少女が、境界に何か唱えたと同時に、ピシリと音を立てて静寂が崩壊していく。
雪:完全に消失しました。凛、お疲れ様です。
紫:M待て、嘘だろーー、
紫:境界が‥消えた‥?!っ、まずいっ!?
凛:っ、誰‥?
ーーーーーーーーーー
恭side‥
姉(凛):このっ!?役立たず!?なんで私が殴られなきゃいけないのよっ!?
どうしてなのよもう!?あんたのせいよ全部!あんたのせい!ーー
恭:M罵声、罵声、罵声‥いつも誰かに疎(うと)まれている。
紫:俺のせいじゃないっ、俺は悪くないっ!?ーー。
恭:‥シドウちゃんはっけーん。さっきから何ぶつぶつ言ってんだぁ?‥気持ち悪ぃなぁ、ほんっとによぉっ!?
紫:ゔぐっ?!ーー。
恭:M憤り(いきどおり)‥いつも誰かを呪っているーー。
ーーーーーーー
恭:っ‥ゲホゲホ‥、
青:うぃ‥恭ちゃん、はよ~。って!?恭ちゃん!?また親父さんにやられたのか!?
恭:うるせぇ‥でけえ声出すんじゃねえよ‥。
青:ひでえ‥ひでえよ‥。今度こそ警察にっ!
恭:やめろ!!
青:うぐっ、で、でも、恭ちゃんっ悔しくねえのかよ!?
恭:っ‥どうでもいい‥。
青:なんでいつも我慢してんだよ‥お姉さんの事気にしてんなら、尚更だって!
恭:いいから、サツはやめろ‥。どうせ無駄だ‥。
青:っ、くそ!ずりぃよ‥あのクソオヤジッ‥警察のお偉いさんだかなんだか知んねえけどよ‥それで揉み消せるとでも思ってッ!
恭:青山‥手貸せ‥。
青:~ああもう!分かったよ!とりあえず治療すっから、家上がらせてもらうぜ!ういしょっ!お、重え‥ゔう、、
恭:‥。
恭:M弱い者は強者に平伏することしかできない。弱いから傷つく。弱いだけで周りに迷惑をかける。
悪いのは全部、弱い自分のせいだ。
そう言って親父は幼少期から俺を殴り続けた。
俺がいない日には母さんか姉貴を。
助けは求めた。誰にでも、どんな機会にでも。だけど、それはいつも無意味に終わった。
恭:くそがっ‥
恭:M他人のせいにする姉。見て見ぬ振りの隣人。権力の前に屈する教師。
誰もが親父を恐れた。誰もが目を逸らし、何もできないとそう告げる。
傍観、傍観、傍観‥どうしてお前らは普通でいられる?何故何もないように振る舞える?
ネットで騒ぐ一般人。イジメが起きた教室。蚊帳の外からは干渉するくせに、自身に火の粉が飛んだ途端、誰もが無関係を貫いた。
そういう人間にはいつもいつも反吐が出る。
青:よし、これでなんとか‥でも、今日は休んだ方がいいって‥。
恭:いや‥親父にバレたら面倒だ‥行くぞ。
青:‥はあ‥わーたよ‥。なぁ恭ちゃん‥どうして紫藤にあんなことすんの?
恭:‥急に何かと思えば‥なんだよ青山。やけにあいつの肩持つじゃねえか。
青:‥いつもはあそこまでやんねえだろ。ましてや何もしてねえ奴ボコして。
恭:何もしてねえだ?は、あいつはなぁ、一番下衆(げす)な事やってんだよ。見てるだけでイラつくっ!
恭:『かあ、さん‥?』
姉(凛):『いやああ!?お母さん!お母さん!?ああ、ああ!?あんたのせいよ!?あんたのせいでっ!?』
恭:M現実逃避して、のこのこと生きてやがる。平凡そうに。何もねえみてえに。
認めない。悪くない。俺のせいじゃない。関係ない。
見て見ぬふり?傍観者だぁ?そんなものが許されていいわけねえだろ。
同じ痛みを感じねえと人は変わんねえ。だから俺が分からせてやる。
強制的な粛清‥その為に俺は痛みを知ったんだ。
青:‥それさ、親父さんとやってる事、同じじゃねえの。
恭:っ!青山てめえっ!?今なんつった!?
青:うぐっ、らしくねえよ恭ちゃん!
恭:お前に俺の何がっ!?
恭:Mそれが違うって否定されんのなら‥俺は何のために?
青:ゔ、おええええっ!!
恭:っ、汚ねえ!なんっだよ?!
青:ご、ごめん‥恭ちゃん‥なんか、俺‥昨日から調子悪い、みたいでさ‥。っ、ゲホゲホ‥は?何これ、血?嘘、だろ?っ、ゔゔ!?
恭:青山‥?おい、青山!?どうした!?
恭:っ!?イッ‥てえ‥今、何か目に‥。っ!?
異:コレハボクノデス!サワラナイデ!イヤイヤ!
恭:‥は?‥なん、だよっ、それはぁ!?
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矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
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