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第9回ゲスト 文末の仕事人・エンターキーさん
しおりを挟む菊木: どうも皆さん、こんばんは、菊木萬太郎です。今宵も、本来なら話を聞くことが出来ない方々に、この菊木萬太郎が……
観客: NEHORI! HAHORI!
菊木: 聞いていきたいと思います。ではゲストを紹介いたしましょう。誰もが一度は、いや何度も押したことのあるキー。世界中で毎日使用されているキー。大きさも形も実は様々。文末に現れる仕事人・エンターキーさんです!
エンターキー(以降はエンタ): どうも、よろしくお願いします、エンターキーです。
菊木: いやぁエンターキーさん、お忙しいところお越しいただきありがとうございます。
エンタ: いえいえ、とんでもないですよ。この番組に出演出来るのはもう、あれですからね、光栄なことですから。えー、ちょっと緊張してます。
菊木: えっ? 緊張ですか? エンターキーさんが?
エンタ: いや、今日は僕一人だけなので……
菊木: あっ、なるほど。いつもは他のキーの皆さんとご一緒ですからね。
エンタ: そうなんですよ。いつもは僕の他にたくさんの同僚たちがいますから、ちょっと心細いといいますか……
菊木: 確かに言われてみればそうですよね。ではこうしてみてはいかがですか? スタジオにいる観客の皆さんを他のキーの皆さんだと思うんですよ。
エンタ: いやぁ、ちょっと難しいですねぇ。
菊木: うーん、そうですか……それじゃ逆に相手が私一人と考えてみてください。所詮相手は菊木萬太郎ただ一人。そこらによくいるインタビュアーが相手なんだと。どうですか、楽になり‥
エンタ: だいぶ気が楽になりましたね!
菊木: (笑)
エンタ: これはすごい効果ですね! 相手はたかだか菊木萬太郎なんだと考えたら、緊張していた自分がバカバカしく思えてきましたよ! 所詮、菊木萬太郎さんということですよね。
菊木: いやぁ、エンターキーさんの緊張が解けて、気が楽になって何よりですよ! まぁ、私の方はグッと意気消沈ですけどね(笑)。
エンタ: (笑)
菊木: 私としては「一人の人間相手に」という意味でしたが「たかだか菊木」だ「所詮、菊木」だというお強めの言葉をいただいて、冬場のドッジボールに似た痛みを感じております(笑)。
エンタ: いや、これはどうも、あの……(笑)
菊木: ボールだというのに鋭く冷たく刺すようなあの痛みということで、本日は、えー、よろしくお願いします(笑)。
エンタ: よろしくお願いします(笑)。
菊木: では早速インタビュー、っといきたいところなんですが、実はちょっとしたお知らせがございまして。
エンタ: おっ、なんでしょうか?
菊木: 少し前にですね、SNS上でアンケートを実施したんです。内容は「四人のゲスト候補の内、誰を次回のゲストに招きたいか」というものなんですが……
エンタ: はい。
菊木: そのアンケートで見事、エンターキーさんは二位となりまして……
エンタ: 二位ですか! それは嬉しいですねぇ! ちなみに他の三名の方はどんな方々だったんですか?
菊木: おっ、自分より下の二人が知りたいんですね?
エンタ: 「たかだか菊木」発言を受けての意地悪対応じゃないですか(笑)。
菊木: そんなことあるわけないじゃないですか(笑)。
エンタ: どうだかなぁ(笑)。
菊木: 本当ですよ。えー、それで他のお三方はですね……鉛筆さん、袋麺さん、まな板さんですね。順位は一位鉛筆さん、二位エンターキーさん、三位袋麺さん、四位まな板さんです。
エンタ: いやぁ、やっぱり鉛筆さんは人気なんですねぇ。
菊木: ちなみに獲得票数のパーセンテージは、鉛筆さん57パーセント、エンターキーさんは29パーセント。お二人で86パーセントとほぼ9割を占めているんですよ。
エンタ: は、はぁ……僕と鉛筆さんをまとめた数字を言う必要が……
菊木: 86パーセントですから残りは何パーセントですか?
エンタ: えっ? 残りですか? えっと、14パーセントですよね。
菊木: 三位の袋麺さんが14パーセントということなんですけど、まな板さんは何パーセントでしょう?
エンタ: (笑)
菊木: (笑)
エンタ: いやぁ菊木さん、そっちがその気なら僕にだって考えがありますよ?
菊木: (笑)。
エンタ: まな板さんが0パーセントだということを僕に言わせようとするその根性たるや……
菊木: いやでも、やはりあの、私はまな板さんをゲストとして招く立場ですから、なかなか私の口からは……
エンタ: 私の口からはって、その招いたゲストの口からなら良いんですか(笑)。
菊木: 発言したという事実の所在が私以外にあるのならば、やむを得ないですよね。
エンタ: (笑)
菊木: (笑)
エンタ: いや、本当にまな板さん回が楽しみですね。
菊木: (笑)
エンタ: ぜひね、中国で使用されているあの丸太を切ったようなまな板さんを招いて欲しいですね。二度三度ぶん殴られたほうがね、菊木さんの為になると思うんですよ(笑)。
菊木: すみません、一度目で終了の可能性もありますので(笑)。
エンタ: (笑)
菊木: でもあれですよエンターキーさん、あくまで今までの話は、エンターキーさんの緊張をほぐすためのものですからね?
エンタ: ………………嘘だね(笑)。
菊木: いや……(笑)。
エンタ: まぁ、そうだとしたら効果は抜群ですよ。旅館で風呂と食事を終えて部屋に戻ってきたようなリラックス加減ですからね(笑)。
菊木: かなりなリラックス加減じゃないですか!
エンタ: もうお布団も敷いてありましてね。
菊木: 端に寄せた座卓に、買ってきた飲み物とツマミ広げて……
エンタ: そうですそうです。
菊木: 土産に買ったけど、一箱開けちゃおうかなんて饅頭食べちゃったりなんかして。「なんだ母さん饅頭開けちゃったのか」「いいのよ、どうせインターで似たのが売ってるでしょ」なんて言いながら、自分も干した貝柱の袋を‥
エンタ: 良いんですよそこまで広げなくて!
菊木: そう言いながらお嫁さんも饅頭を食べてるんですよね(笑)。
エンタ: お嫁さんのセリフを言ったんじゃないんですよ! 話を広げるなって言ってるんですよ(笑)。
菊木: あっ、すみません(笑)。でも結局インターで済ませちゃうことあるんですよね。
エンタ: いや、ちょっと僕にはそこまでは分からないですけど……
菊木: では話を戻して、インタ……インタービューを‥
エンタ: くだらないんですよ!
菊木: そうですかぁ? 面白いかなと思ったんですが……えー、それではインターキーさん‥
エンタ: 誰がインターキーだ! エンターキー!
菊木: すみません(笑)。
エンタ: まったくもう(笑)。
菊木: では、色々と伺っていきたいんですが、まずは簡単にお仕事内容といいますか、エンターキーさんの役割について説明していただけますか?
エンタ: はい。えーっとですね、基本的には文章の改行であったり、日本語入力では文字の確定などをするのが僕の仕事ですね。
菊木: あっ、そうですよね。日本語だと変換作業がありますけど、英語だとそれが必要ないですもんね?
エンタ: そうなんですよ。英語の場合は入力した時点で文字は確定されるので。あの、ちょっといいですか?
菊木: はい、なんでしょうか?
エンタ: こんな急に「真面目」な方向へ舵を切るんですか?
菊木: そう……ですね(笑)。
エンタ: あっ、そうなんですね(笑)。
菊木: 帆船の動きに似た番組進行なんですよ、この番組は。
エンタ: と言いますと?
菊木: 横風を受けて斜め前に進んで、ある程度進んだら舵を切り、横にずれた分を戻して、また風を受けて斜め前に進んでいく。つまり、本題を話しつつも他の面白い話を盛り込んでいくというやり方です。
エンタ: いやぁ凄いですね。
菊木: ありがとうございます。
エンタ: 何が凄いって「本題だ」って言ってるのに斜め前へ進めていくんですから(笑)。
菊木: あっ、それは……(笑)
エンタ: 「本題が斜めに進んでるけど、まぁ後で少し戻しゃいいだろ」具合が凄いですよね。
菊木: そんな風に思ってませんよ! じゃ、話戻しまーす。
エンタ: 思ってるし、ベタな戻し方(笑)。
菊木: ベタなのは別にいいじゃないですか(笑)。
エンタ: ベタベタだもんなぁ菊木さん。
菊木: はい、それでは話を戻しますよケンタッキーさん。
エンタ: 誰がバーボン・ウイスキーの名産地なんだよ!
菊木: おっ、そっちでしたか!
エンタ: そっちもあっちもないんですよ!
菊木: さぁそれではね、話を進めていきますが……聞くところによりますと、エンターキーさんは「リターンキー」さんでもあるとか?
エンタ: あぁ、そうなんですよ。まっ、これはメーカーによる違いなんですけどね。
菊木: あっ、メーカーの違いなんですね。
エンタ: もちろん、役割や場所はほぼ同じなんですけど。
菊木: いやぁ、でもこれ、リターンキー……
エンタ: はい。
菊木: ………………
エンタ: ……リターンキーに似た言葉を探してる暇はないんですよ菊木さん。
菊木: (笑)
エンタ: ヤバいバレたみたいな顔して笑ってますけど、えぇ? そりゃバレますよ!
菊木: いやぁ、エンターキーさん、実は視聴者の方々から質問が届いてまして!
エンタ: 本当に……(笑)。
菊木: こちらのほうもSNSで受け付けてまして。あの、視聴者の方の質問も織り交ぜながらですね、これから色々とお伺いしていきたいと思います。
エンタ: 織り交ぜるのが謎ですけど、はい、お願いします。
菊木: えー、まぁ、我々人間がエンターキーさんを使うということは、エンターキーさんを叩かなければならないわけですよね?
エンタ: そうですね。
菊木: これね、エンターキーさん。中にはタイピング時にですね、非常に力を入れる方もいると思うんですが……
エンタ: あぁ、いらっしゃいますね。そう多くはありませんが、稀にいらっしゃいます。
菊木: 軽く叩くだけで済むところ、必要以上に力を入れる方に対して、エンターキーさんはどのようにお感じですか?
エンタ: そうですねぇ、そこまで嫌な気持ちにはなりませんけどね。まぁこれはですね、僕の役割上そう思うということなんでしょうけどね。
菊木: 役割上ですか?
エンタ: 僕が叩かれるということは文字を確定したり、改行したり、何かを実行したりするときですよね? つまり一区切りつくタイミングで僕が叩かれるわけなんですよ。
菊木: なるほど、一区切りつけるタイミングだからこそ、思わず力が入ってしまうと。
エンタ: 長時間のタイピング、例えば小説や論文、企画書などを作成しているときの最後の一打なんていうのは、叩かれた僕も気持ちの良いものですよ。
菊木: 確かに! あれは気持ちがいいですよねぇ! 私もですね、インタビューの為に資料作成や質問リスト・番組構成などの書類を作っているんですけど、完成したときの最後のエンターキーは気持ちが入ります!
エンタ: 質問リストに番組構成の書類を作って、あれですか、この感じなんですか(笑)。
菊木: な、何を言ってるんですかエンターキーさん! 書類を作っているからこそ、こんなにもスムーズに番組が進行しているんじゃないですか!
エンタ: スムーズの意味をお調べ直したほうがいいですよ?
菊木: (笑)
エンタ: まぁ、人によって何がスムーズなのか違いはありますけどね?
菊木: そうですそうです! そういうことなんですよ。それにしてもエンターキーさん、本当に少しも嫌ではないんですか?
エンタ: 嫌じゃないですねぇ。プラスといいますかポジティブな理由で思わず強く叩いてしまう分には、嫌な気持ちにはならないですかね。
菊木: ポジティブですか。まぁ確かに嫌々エンターキーさんを押すことはほとんどないですからね。
エンタ: 同僚の他のキーの皆も同じような考えですよ。ただまぁね、少し怒ってる同僚がいることも事実ですね。
菊木: あっ! やっぱりいらっしゃるんですね?
エンタ: 僕の上の方に位置します、バックスペースキーさんは少し怒ってますね。メーカーによってはデリートキーさんですけど、まぁ両者とも怒ってますよね。
菊木: ……これはもしかしてネガティブな理由からの、ということでしょうか?
エンタ: あぁ、もうその通りですね。バックスペースキーを叩くということは、入力ミス・タイピングを間違ってしまった時ですよね。その時に人間の皆さん、バックスペースキー強く叩いてませんか?
菊木: スッ…………叩いてない……そうですね叩いてない、叩いてない……です(笑)。
エンタ: 何を自分に言い聞かせるように……
菊木: (笑)
エンタ: 叩いてますね?
菊木: ……叩いてませんす。
エンタ: えぇっ? なんて?
菊木: (笑)
エンタ: どうなの?
菊木: すみません、強く叩いてしまうときがあります……ね。
エンタ: バックスペースキーさんの言葉をそのまま言いますけどね……
菊木: はい。
エンタ: 自分で間違っておいて何をふて腐れて、さも俺のせいかのように強く叩くんだよバカ! その間違いを消してやってるのは俺だぞこの野郎! 逆に感謝されてもおかしくねぇんだ! たまには「間違えちゃったとこ消してくれてありがとう」くらい言いやがれってんだ! ……とまぁ、こんな感じで少し怒ってます。
菊木: 少しですか?
エンタ: (笑)
菊木: べらぼうに怒ってますよ(笑)。
エンタ: まぁ、怒ってることには違いはないですよ。
菊木: いやぁ、今のお話を聞いてちょっと反省してます。……あっそういえば、いま思い出したんですけど、視聴者の皆さんの中には「ストレス発散で連打」している方もいらっしゃいましてね。
エンタ: なんですか?
菊木: (笑)
エンタ: もう一度言ってもらえますか?
菊木: ストレス発散で連打、ということで……
エンタ: サンドバックと同じ扱いですか(笑)。
菊木: い、いや違いますよ洗濯機さん‥
エンタ: 色物は別にしてって言ってるでしょって誰が洗濯機だ! 誰が洗濯機だ!
菊木: (笑)
エンタ: 誰が二槽式だ!
菊木: そこまでは言ってない‥
エンタ: まったくもう……
菊木: でもエンターキーさん、何もサンドバックのように乱暴に扱ってストレスを発散しているわけじゃないですよ? やっぱり、カチャカチャと軽やかに音を立てながら、慣れた手付きでタイピングするというのは、ちょっとした憧れといいますかねぇ……真似て動かしているだけでも楽しいんですよ、人間にとっては。
エンタ: まぁ、それはわかりますけど……
菊木: あの、エンターキーさんを始め、キーボードのキーの皆さんが思う、タイピングの上手い方というのはどういった方なんでしょう?
エンタ: 僕らが思う、タイピングの上手い人ですか。
菊木: えぇ。私達人間の世界では検定などで能力別に分けて、上手な方とまだ慣れてない方という感じになるのですが……
エンタ: 実際にタイピングされている僕らの視点でということですか。
菊木: そういうことです。
エンタ: うーん、そうですねぇ、また急に真面目な話になったので驚いてますが……
菊木: (笑)
エンタ: なんというか「叩く」でも「打つ」でもないんですね、本当に上手い方は。弾くというか爪弾くというかねぇ、まぁ、一番上手な人は「奏でる」に近いですかね。
菊木: 「奏でる」ですか。
エンタ: ……なんですかその「言うと思った」という顔は?
菊木: してないですよ! 全くしておりません(笑)。
エンタ: いやでも本当に奏でるかのようにね、タイピングする人はいますよ。私の仕事先であるオフィスにはもう上手な人が多いですからね。上司の人が「○○さん、この資料を奏でておいて」なんて言いますからね。
菊木: 絶対にウソじゃないですか(笑)。
エンタ: 何がですか(笑)。ウソじゃないですよ! 言われた人はすぐに奏で始めますよ。ハ長調でね。
菊木: (笑)
エンタ: ただもう、その上のレベルの人になると「奏でる」ではないんですよね。
菊木: 何というんですか?
エンタ: 愛でる。ホワイトボードの文章を愛でといて、なんて言いますから。
菊木: もう意味変わってきますよ!
エンタ: いやですから、間違えて「愛でる」レベルの人以外に言ってしまうと、えー、まぁ本当に文章を愛でてしまう……
菊木: そんなわけないでしょ(笑)。
エンタ: まっ、軽いタッチで、程よくキーを弾いてくれる方が上手だと思いますね。ただ上手なことよりもっと大切に感じていることが僕らにはありまして。
菊木: それはどういったことなんでしょうか?
エンタ: 汚れていないキレイな手でタイピングしてくれること、です!
菊木: これは確かにそうですね! 汚れたままの手で触られるというのは気持ちの良い話じゃないですよね。
エンタ: 怒りに震えてますよ。
菊木: (笑)
エンタ: いや、笑い事じゃないんですよ菊木さん(笑)。
菊木: すみません。でも本当に悪気はないといいますかねぇ……
エンタ: 触ってるんですか、汚い手で!
菊木: これは、あの、あれですよ、あくまでも可能性の話で……
エンタ: 触ってるな?
菊木: ………………はい。
エンタ: 問い詰めるとバカ正直……(笑)
菊木: (笑)
エンタ: どうして汚い手で触るんですか?
菊木: わざとではないんですよ、それはもう、もちろんのことで。ただその、自分しか使わないし、ちょこっとポテトチップスの油がつい‥
エンタ: ポテトチップス!?
菊木: 違います! さつまチップス‥
エンタ: 芋の……(笑) 芋の種類は関係ないんだよ!
菊木: 申し訳ありません(笑)。
エンタ: 笑いながら言う「申し訳ありません」に何か効能があるとお思いですか(笑)。
菊木: ないでしょうね。
エンタ: なんでそこは真顔なんですか!
菊木: いや、本当に出来心で……
エンタ: 汚れた手どころじゃないでしょう。ダメですよ、精密機器の近くで飲食をしたら。万が一の時には機器が壊れてデータが無くなってしまうかもしれないんですよ?
菊木: あっ、クラウドにバックアッ……プ……してるので……あの……
エンタ: 私にはバックスペースキーさんがついているんですよ?
菊木: バック……(笑) それは恐ろしい意味合いで言ってますよね?
エンタ: もちろんもちろん! おそらくこの宇宙のどこかにあるであろう、任意の人物を消すことのできるコンピューターで、菊木さんを……
菊木: コピー&ペーストですね?
エンタ: 菊木さんが何人もいてたまるか(笑)。
菊木: なんでですか(笑)。
エンタ: 汚い手でキーボードを扱うのをやめないとエンターキーの僕自ら「実行」しますよ?
菊木: 二度と汚いで触りません!
エンタ: よろしい(笑)。
菊木: 何を「実行」するのかわからないからこその恐怖ですよ。
エンタ: (笑)
菊木: えー、そろそろ番組終了まで時間がないんですが、ここでテンキーについていらっしゃる小さなエンターキーさんとの関係についてお聞きしたいと思います。
エンタ: 時間がないのに!?
菊木: はい。
エンタ: 菊木さん……
菊木: はい、どうしました?
エンタ: バカでしょ?
菊木: (笑)
エンタ: (笑)
菊木: まぁ、返す言葉は見つからない……
エンタ: (大笑)
菊木: ただこのとんでもないタイミングで聞くあたりが私なので、こればかりは、ちょっと……はい。
エンタ: いや、僕も「バカでしょ」なんて失礼なことを言ってしまって、まぁ後悔はしてませんが……
菊木: してくださいよ(笑)。
エンタ: えー、それではテンキーに配置されているエンターキーさんとの関係についてお答えしますが、これがですね、非常に良好な関係なんですよ。
菊木: ウソでしょ?
エンタ: まぁ、返す言葉は見つからない……
菊木: (笑)
エンタ: 冗談ですよ? 冗談ですからね! 本当に仲がいいんですから! 互いにリスペクトですよ。
菊木: リスペクト?
エンタ: そうですよ。これがまぁ互いに自分が持っていないものを持っているという所に、こう、なんですか、憧れていたりするわけですよ。
菊木: お二人の場合はどういったところが、その「憧れる」部分なんでしょうか?
エンタ: これはズバリ「容姿」ですね。
菊木: 容姿……といいますと形の違いですか?
エンタ: いえ、表面の違いです。
菊木: 表面?
エンタ: 私は使用頻度がテンキーエンターキーさんに比べて多いもんですから、度重なる指との摩擦で、中央部分がテカテカと光っているんですね。色も少し変わりますし。
菊木: 言われてみれば確かにそうですね。キレイな手で使用していても、人間の油はどうしてもついてしまいますから、表面が滑らかになって光りますよね。
エンタ: 一方、テンキーエンターキーさんは人によってはほとんど使用しないこともあります。なので私と比べると新品時の表面を保っているわけなんですよ。
菊木: なるほど。エンターキーさんはその新品のような容姿に憧れていて、テンキーエンターキーさんは仕事で使い込まれたテカテカの容姿に憧れていると?
エンタ: そういうわけです。同じエンターキーでもそれぞれに違う悩みを抱えていたり、同じ目標を持っていたりと、まぁ、そこは人間の皆さんと同じですよ。「特有」や「共通」によって相手や自分を理解してリスペクトしていく……そういう感じです。
菊木: いやぁ、人間の全員が全員、そういった考えを少しずつ持ってくれたら良いんですがね……
エンタ: …………
菊木: あの、エンターキーさん、真面目な方向へ舵を切りました?
エンタ: (笑)
菊木: あっ、やっぱり!
エンタ: やっぱりじゃないですよ! すんごい斜めに進んでるのに、菊木さん全然直してくれないんですもん、真っ直ぐな方向へ(笑)。帆船の動きに似た番組進行で、なんていうのはウソなんですもん。
菊木: ウソじゃないですって(笑)。
エンタ: 菊木萬太郎製エンジンが推進力で、舵取りがエンジン作っている本人なんですから……
菊木: あっという間に遭難ですよね。
エンタ: ちゃんと航海経路を決めておいてくださいよ?
菊木: 後悔しないようにですね?
エンタ: ……実行するってことでいいですね?
菊木: ごめんなさい! すみません! 申し訳ありません!
エンタ: 本当にもう……(笑)
菊木: さて、それではサーターアンダギーさん‥
エンタ: 誰が優しい甘さが心をくすぐる沖縄の揚げ菓子なんだよ! ちょっと言い間違わないと思ったら最後の最後で放り込んできて!
菊木: 数度のツッコミ、ありがとうございました。
エンタ: いえいえ、とんでもない。
菊木: さぁ、それではですね……(笑)
エンタ: (笑)
菊木: エンターキーさんから我々人類にお言葉を頂戴したく‥
エンタ: それはガチガチに真っ直ぐ進みすぎ(笑)。
菊木: (笑)
エンタ: えー、まぁ、科学力や技術力の発展で、携帯端末などもタッチ式のキーボードが主流になっている時代です。そのうち、キーボードを使用せず、音声などの入力方法が主流になり、全く新しい形での入力方法も開発されていくことでしょう。しかしながら、僕らキーボードを愛してくださってる多くの方々がいます。
キーの押し込み具合、タイピング時の音や、キーの数・配列までこだわってくれる方もいます。キーボードでなければダメなんだと言ってくれる方々、そう、僕らを求めてくださる皆さんがいるかぎり、キーボードのキー一丸となって、任された仕事を的確に行っていきたいと思います。
なのでどうぞ、菊木さんのように汚い手ではなく、キレイな手で使用してください。
菊木: (笑)
エンタ: えー、以上です(笑)。
菊木: いやぁ、お言葉ありがとうございました(笑)。
エンタ: とんでもないです(笑)。
菊木: 今回はお忙しいところ、本当にありがとうございました。
エンタ: いえいえ、こちらこそ呼んでいただいて……今日は楽しかったです(笑)。
菊木: あっ、そう言っていただけると、本当にあの……助かります(笑)。
エンタ: (笑)
菊木: それでは、最後にもう一度ご紹介しましょう。誰もが一度は、いや何度も押したことのあるキー。世界中で毎日使用されているキー。大きさも形も実は様々。文末に現れる仕事人・エンターキーさんでした!
エンタ: ありがとうございました! キレイな手で使ってね!
菊木: さて番組をご覧の皆さん、次回はこの菊木萬太郎がアナタの事を!
観客: 『NEHORI!』 『HAHORI!』
菊木: 聞いちゃうかもしれませんよ。それではまた次回、ごきげんよう! さよなら!
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