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3章 ルダマン帝国編

第158話 逃亡者

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「はあはあ……」

 息を荒くして森の中を歩くフードの男――ジャックは脇腹を手で抑えていた。

「さすがに上級精霊の眼を誤魔化すのはできませんでしたね」

 痛みはあるものの余裕がまだあるのか、薄く笑うジャック。

 脇腹には深々と短剣が刺さっていた。

(あの上級精霊は侮れないですね。ハイエルフは私が用意した幻影を見ていたましたが、あの精霊だけは本物を見抜いていました)

 ジャックは自分が隠れる以外の行動を起こそうとすると、周囲の自然力に揺らぎが発生することは、知っていた。

 だから、見つかったときの保険として幻影を魔法で生み出していた。

 しかし、上級精霊――エアリスには通用しなかった。

(あの精霊には少しの証拠も残すわけにはいかないですね)

 血が流れないように短剣を布で固定して【逃げ】に徹する。

ザーガスは惜しかったですね。でも、犠牲に見合う結果は得られました)

「私たちの目標に一歩近づいた……」

 自分の喋り方に素が出てしまっていることに薄く笑みを浮かべる。

 思っていたよりも余裕はないようだ。

「はあはあ、中々きついですね」

 真剣をすり減らし、全身全霊で気配を消し続ける。

 魔物の真横を通っても気づかれない。

 すると、とある場所に辿り着いた。

 そこはルダマン帝国の部隊を琉海が壊滅させた場所だった。

 死体もあるが、生き残った者達は、縛られていた。

「これはこれは……ラッキーですね。いいものを見つけましたね」

 ジャックは口角を上げた。

 ジャックは息をしている者たちに触れていく。

「うッ…………」

 うめき声が一瞬聞こえたが、すぐに静かになる。

 一通り縛られている者たちに触れ終わったあと、脇腹から短剣を抜いた。

 短剣を抜いた箇所からは一滴も血は流れなかった。

「いい食事でしたね」

 ジャックは短剣をそこら辺の草むらに放り投げる。

「さて、ここからは早く離れた方が良さそうですね」

 エアリスに付けられた傷が癒え余裕が生まれる。

 万全の状態でジャックは姿を消した。

 隠れることに専念したジャックを見つけることは難しいだろう。
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