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3章 ルダマン帝国編
第132話 国境の砦
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身体強化で駆け続けて数十分。
次第に砦が見えてきた。
「あれが砦か……」
この世界に来て初めて見る砦。
両脇は森になっており、高い壁がそこにあった。
外観は堅牢さを醸し出す石壁。
重厚さを感じさせられる。
そんな砦を見て、琉海は足の速度を緩めた。
エアリスも何かを感じて足を止める。
「なんか、嫌な感じがするな」
琉海が気づいたのは、近づくにつれて匂ってくる焦げ臭さ。
エアリスは別のことに気づいたようだ。
「血の匂いがするわよ」
エアリスは眉間に皺を寄せて言った。
「血の匂い?」
琉海は焦げ臭さで血の匂いなんてわからなかった。
「それも、一人や二人なんて規模じゃないわ。多分、数百人規模の血が流れているわ
よ」
「数百人……?」
多くの人間の血が流れている。
砦でそれ程の死傷者がいるということだろうか。
思考していると、防壁の上で動きがあった。
琉海は視力を強化する。
男が兵士に剣を向けて斬りかかっていた。
しかし、男に剣は弾かれ防壁の外へと落ちていく。
男が落ちていく兵士を見届けていると後ろから二人の兵士が剣を突き刺した。
口から吐血する男。
体から力が抜けたことで死を悟る。
兵士二人で死んだ男を防壁の外へ放り投げた。
「仲間を殺したのか……?」
突然の出来事に琉海は眉を顰(ひそ)める。
「どうだろう。声が聞こえなかったからわからないわね」
琉海は防壁から落とされた男に視線を向けた。
息絶えていることは明らか。
近くにいた雑食の鳥や獣が近寄り貪り始めている。
そして、死者の近くには、所有者の墓標のように男の剣が地面に突き刺さっていた。
「…………ッ!?」
その剣に視線を向けたとき、琉海は表情を変えた。
「エアリス、ここから離れるぞ」
「どうしたの?」
「いいから、行くぞ」
琉海は何も言わず来た道を戻り出す。
エアリスは砦をもう一度見てから、琉海の後を追った。
琉海たちは砦から遠ざかっていく。
まだ、砦が見えるだけでかなり遠かったから、見つかってはいないだろう。
防壁の上の光景が見えたのも、精霊術の身体強化のおかげだ。
常人が琉海たちを視界に捉えられるには遠すぎるだろう。
(まあ、クレイシアのような視力に特化した《トランサー》がいたら話しは別だろうけど……)
「ねえ、もういいんじゃない?」
エアリスが後方の砦が見えなくなったのを確認して言ってくる。
琉海も後ろを見て頷く。
「ああ、大丈夫そうだな」
「それで、何に気づいたのよ?」
「防壁の上で刺された男を見ただろ」
「ええ、兵士二人に刺されて外に捨てられていたわね」
「その男の傍に男の剣が地面に刺さってたんだが、剣に刻まれていた紋章がシュライト家の紋章と同じだった」
琉海はそう言って、バッグに入っているトウカからもらった証明書を広げる。
その証明書には、シュライト家の捺印がされていた。
「この紋章が刻まれた剣を持っていたあの男は、シュライト家の人間だった可能性が高い」
「じゃあ、刺していた兵士たちは何者?」
「さあ、わからない」
仲間割れだろうか。
だが、シュライト家は軍事関係に強い家柄のはず。
その家系の男を殺すとなると、仲間割れだと思うのは、楽観的だろうか。
「言えることは、あの砦は危険な可能性があるってことだ」
「ふーん、じゃあどうやってあっち側へ行くのよ」
エアリスの言うあっち側とはルダマン帝国のことだろう。
ルダマン帝国領に行く方法は、あの砦を通過するか、森を超える方法しかない。
しかし、森には魔女がいて、入ったら出ることは叶わないらしい。
それでも、不穏な砦で警戒し続けるよりはいいのかもしれない。
琉海はこれからの方針を決めた。
「森から入ろう」
「魔女がいるっていう森のこと?」
「ああそっちの方が、砦で大勢を警戒するよりいいだろ。それに、森を突っ切って行った方が近道でもあるしな」
砦からだと、迂回する道程になる。
森を一直線に横切れれば、かなりの時短になることだろう。
「私はいいわよ。魔女ってのにも、会ってみたかったし」
「できれば、魔女の目は掻い潜りたいんだけどな」
会う気満々のエアリスに琉海は苦笑いをした。
次第に砦が見えてきた。
「あれが砦か……」
この世界に来て初めて見る砦。
両脇は森になっており、高い壁がそこにあった。
外観は堅牢さを醸し出す石壁。
重厚さを感じさせられる。
そんな砦を見て、琉海は足の速度を緩めた。
エアリスも何かを感じて足を止める。
「なんか、嫌な感じがするな」
琉海が気づいたのは、近づくにつれて匂ってくる焦げ臭さ。
エアリスは別のことに気づいたようだ。
「血の匂いがするわよ」
エアリスは眉間に皺を寄せて言った。
「血の匂い?」
琉海は焦げ臭さで血の匂いなんてわからなかった。
「それも、一人や二人なんて規模じゃないわ。多分、数百人規模の血が流れているわ
よ」
「数百人……?」
多くの人間の血が流れている。
砦でそれ程の死傷者がいるということだろうか。
思考していると、防壁の上で動きがあった。
琉海は視力を強化する。
男が兵士に剣を向けて斬りかかっていた。
しかし、男に剣は弾かれ防壁の外へと落ちていく。
男が落ちていく兵士を見届けていると後ろから二人の兵士が剣を突き刺した。
口から吐血する男。
体から力が抜けたことで死を悟る。
兵士二人で死んだ男を防壁の外へ放り投げた。
「仲間を殺したのか……?」
突然の出来事に琉海は眉を顰(ひそ)める。
「どうだろう。声が聞こえなかったからわからないわね」
琉海は防壁から落とされた男に視線を向けた。
息絶えていることは明らか。
近くにいた雑食の鳥や獣が近寄り貪り始めている。
そして、死者の近くには、所有者の墓標のように男の剣が地面に突き刺さっていた。
「…………ッ!?」
その剣に視線を向けたとき、琉海は表情を変えた。
「エアリス、ここから離れるぞ」
「どうしたの?」
「いいから、行くぞ」
琉海は何も言わず来た道を戻り出す。
エアリスは砦をもう一度見てから、琉海の後を追った。
琉海たちは砦から遠ざかっていく。
まだ、砦が見えるだけでかなり遠かったから、見つかってはいないだろう。
防壁の上の光景が見えたのも、精霊術の身体強化のおかげだ。
常人が琉海たちを視界に捉えられるには遠すぎるだろう。
(まあ、クレイシアのような視力に特化した《トランサー》がいたら話しは別だろうけど……)
「ねえ、もういいんじゃない?」
エアリスが後方の砦が見えなくなったのを確認して言ってくる。
琉海も後ろを見て頷く。
「ああ、大丈夫そうだな」
「それで、何に気づいたのよ?」
「防壁の上で刺された男を見ただろ」
「ええ、兵士二人に刺されて外に捨てられていたわね」
「その男の傍に男の剣が地面に刺さってたんだが、剣に刻まれていた紋章がシュライト家の紋章と同じだった」
琉海はそう言って、バッグに入っているトウカからもらった証明書を広げる。
その証明書には、シュライト家の捺印がされていた。
「この紋章が刻まれた剣を持っていたあの男は、シュライト家の人間だった可能性が高い」
「じゃあ、刺していた兵士たちは何者?」
「さあ、わからない」
仲間割れだろうか。
だが、シュライト家は軍事関係に強い家柄のはず。
その家系の男を殺すとなると、仲間割れだと思うのは、楽観的だろうか。
「言えることは、あの砦は危険な可能性があるってことだ」
「ふーん、じゃあどうやってあっち側へ行くのよ」
エアリスの言うあっち側とはルダマン帝国のことだろう。
ルダマン帝国領に行く方法は、あの砦を通過するか、森を超える方法しかない。
しかし、森には魔女がいて、入ったら出ることは叶わないらしい。
それでも、不穏な砦で警戒し続けるよりはいいのかもしれない。
琉海はこれからの方針を決めた。
「森から入ろう」
「魔女がいるっていう森のこと?」
「ああそっちの方が、砦で大勢を警戒するよりいいだろ。それに、森を突っ切って行った方が近道でもあるしな」
砦からだと、迂回する道程になる。
森を一直線に横切れれば、かなりの時短になることだろう。
「私はいいわよ。魔女ってのにも、会ってみたかったし」
「できれば、魔女の目は掻い潜りたいんだけどな」
会う気満々のエアリスに琉海は苦笑いをした。
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