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2章 スティルド王国編

第100話 ドラゴンの出現

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 ドラゴンの姿を目撃し、会場内は一瞬の静寂に包まれた。

 しかし――

「GAURAAAA――」

 ドラゴンの咆哮で観客や貴族たちは我に返り、悲鳴と共に駆け出した。

 どこもかしこも怒号と悲鳴で混乱状態だ。

 琉海の隣に立つグランゾアも苦虫を噛み潰した表情をしていた。

 咆哮だけで人を恐怖に陥れたドラゴンは、なぜか舞台に立つ琉海を睨んでいる。

 ドラゴンは他のことはどうでもいいのか、琉海のいる場所の一点を見下ろしていた。

 そして、ドラゴンが破壊した個室のあった場所から人影が三人飛び出してくる。

 俊敏な動きで舞台を囲むように三方向に陣取る者たち。

 その中に、知っている顔の男がいた。

 準々決勝で戦ったウルバ・ダズレイだ。

 ディバル公爵家の代表枠で出場していた男がなぜこんなところにいるのだろうか。

 琉海は三方に立つ男たちの表情を見た。

 皆、目は虚ろで表情が読み取れない。

 それでも、確実に読み取れるものがあった。

 空気中に滞留している自然力だ。

 辺りの自然力は濁流のように三人に集まっているのがわかる。

 そこから推測できる答えは一つだった。

(こいつら、魔薬を使っているのか)

 だが、この会場内で一番自然力を取り込んでいるのは、あのドラゴンだった。

 激流の如く、三人の倍以上のスピードで吸い込んでいる。

 もうすでに許容量を超えていると思えるほど吸収していた。

 それでも、取り込み続けるドラゴン。

 あの勢いで吸収し続けたら、どうなるのか琉海にはわからなかった。

 しかし、このまま放置しておくわけにもいかないだろう。

 琉海は両手を広げ、《創造》する。

 光の粒子が形を成し、剣を生成する。

 琉海は二振りの長剣を生み出し、駆け出した。

     ***

 ドラゴンが出現したとき、ティニアたちは個室にいた。

 琉海の勝利に盛り上がった矢先の出来事だったため、思考が一瞬停止した。

 爆発が起きた場所は対面の個室だったおかげで、被害はなかったが室内は大きく揺れ、出てきたのがドラゴンだとわかるとティニアたちは青ざめた。

 この世界の住人ではない静華と人ではないエアリスはティニアたちほど動揺はあしなかったが、危険は感じていた。

「なんでこんな場所にドラゴンがッ!?」

 ティニアの疑問に答えられる者はいない。

 ティニアも誰かに答えて欲しかったわけではないだろう。

 咆哮を放つドラゴン。

 ガラス張りの壁が声の圧力で振動して揺れる。

「ティニア様、ここは危険です。避難したほうがいいかと」

 アンジュがティニアをこの場から退避するよう促す。

 ティニアの視線はドラゴンから舞台の上に立つ琉海へと視線が流れる。

 ティニアも自分がここにいてやれることはないとわかっている。

 だが、好いている人をあの場所に置いて、自分だけ安全な場所に逃げることを心が納得してくれない。

 静華はティニアが琉海を見つめているのを察し、

「ティニア様、私とエアリスが琉海くんを助けに行くので、先に行っててください」

 琉海に向けていた視線を静華に変える。

 ジッと見つめ、ティニアは口を開いた。

「わかりました。お願いします。私は先に安全地帯を確保して、お母様とドラゴンの対策を考えます」

 ティニアは毅然とそう言って最後に琉海へ視線を向けてから歩き出した。

 アンジュが先頭になり、ティニアの後ろをメイリが追う。

 三人は個室から出て行った。

「エアリス、私たちも行きましょう」

 ドラゴンを見つめているエアリスに静華は言う。

「ええ、私たちも行ったほうがいいかもしれないわね」

 エアリスはドラゴンへの視線を静華に戻し、二人も行動に出た。
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