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2章 スティルド王国編

第91話 因縁の戦い

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 準々決勝、最初の試合は去年の優勝者であり、《剣王》の異名を持つグランゾアと8年前まで優勝者であった元王者――アドルフ・フォーレンの試合だった。

 アドルフ・フォーレン。

 8年前まで若くして三連覇を成し遂げたことのある元王者。

 最初の優勝は20歳という若さで優勝を飾り、最年少優勝者としても表彰された。

 領地を与えられ、善政を行っていた。

 四連覇の期待もされていた。

 だが、去年の予選でグランゾアと当たることになった。

 新兵だったグランゾアは王が自由に選べる枠を勝ち取り、イロフやシェイカーらと出場。

 予選で戦ったアドルフを打ち倒し、見事に新たな王者となった。

 苦渋を飲まされたアドルフは、毎年リベンジに燃えていた。

 しかし、この7年間は常にグランゾアたちホルス騎士団の部隊長たちに優勝を阻まれていた。

 武器は長剣。両手や片手で持ち、どんな状況でも臨機応変に戦うスタイル。

 対するグランゾアは大楯と長剣の攻防一帯のスタイルだった。

 因縁の試合が始まって最初に動いたのは、アドルフ。

 長剣をいきなり力いっぱい横薙ぎに振る。

 しかし、そんな単調な攻撃がグランゾアに通じるはずもなく――

 ガキンッ!

 金属同士がぶつかる音が鳴り響いた。

「相変わらず固い盾だな」

 アドルフは口元に笑みを作る。

 対するグランゾアは無表情だった。

 アドルフは眼中にないと訴えているような眼。

 その顔がアドルフに去年の試合を思い出させる。

「その表情を今に変えてやる」

 盾に弾かれた長剣を再び振る。

 しかし、またしても大楯が剣を阻む。

 それを何度も繰り返す。

 馬鹿の一つ覚えのような連撃。

 アドルフが狙っている場所はグランゾアの剣を持つ腕側。

 剣で防ぐこともできるが、攻撃の機を逃さないために全て盾で防ぐ。

 また、盾で防ぎアドルフを斬れるタイミングはあるが、グランゾアは剣を出さなかった。

 いや、出せなかったのだ。

 アドルフの連撃は盾に弾かれた反動から戻ってくるまでが威容に早かった。

 負けもしないが、勝てもしないとグランゾアは思っただろう。

 機械的に防ぐグランゾア。

 だが、次の瞬間、グランゾアが防ごうとしたときに伸びてきたのはアドルフの手だった。

 大楯がグランゾアの視界を塞いでしまう一瞬を狙ってアドルフは剣ではなく、腕を伸ばす。

 盾で防ごうとした攻撃は来ず、アドルフの手が大楯の天辺を掴み力技で盾をずらし、隙間を狙って剣を差し込んだ。

 剣は狂いなく、グランゾアの腹部に差し込まれる。

 素早く抜き放ち、二撃目を加えようとした。

 しかし、その攻撃は盾に阻まれる。

「くッ!」

 アドルフは二撃目を仕損じ、顔を歪めた。

 本来は二撃目で完全にグランゾアを倒す予定だったのだが、そううまくはいかない。

(だが、俺の一撃は効いているはず、殺すほどの重症を与えれば反則だが、あれぐらいなら死にはしないだろう)

 これは数多の経験則でわかることだった。

 しかし、アドルフが言っているのは、今すぐには死なないだろうということだ。

 時間が経てば、大量出血で死にかねない。

 ただ、長引けば確実に動きが悪くなる。

「時間を稼げば、自ずと俺の勝ちか……」

 正直、こんな勝ち方はしたくないと思うアドルフ。

 だが、これ以外あの男から勝ちを得られる方法が見つからなかった。

 グランゾアは7年前の優勝から数多の逸話を残してきたのだ。

 防御力で言えば、この王国最強と言っても過言ではないだろう。

 ホルス騎士団の団長よりも防御は固いだろう。

 大乱戦の中でも無傷で帰ってくるような男だ。

 そんなグランゾアに一撃入れられたのだ。

 それだけで自分を褒めたいとアドルフは思う。

 アドルフはグランゾアの動きを注視し、グランゾアが動いたら、回避に専念する。

 常に防御に集中して、時間を稼ぐことに注力しろと自分に言い聞かせる。

 そうしていると、グランゾアの体がピクリと動き――

 気づいたときには目の前に盾があった。

 その盾はアドルフを吹き飛ばすほどの衝撃でぶつかってきた。

 一瞬で頭の中が真っ白になるほどの衝撃。

 だが、考えるよりも先に体が動いた。

 ゴロゴロと転がり、衝撃を和らげつつ距離を取る。

(時間を稼ぐんだ)

 言い聞かせ、それに従って行動するアドルフ。

 ある程度距離が取れたら立ち上がる。

 土まみれになっているが、体のダメージはそこまで大きくなかった。

「はあ、逃げか。時間を稼ぐつもりか」

 グランゾアはため息を吐き、アドルフの戦法を看破した。

(バレた。だが、バレたところで状況は変わらない。奴は血を流しつつ戦わなければならない。そのうち、審判が止めることになる)

 顔に出さないようにアドルフは平静を保つ。

「くだらない戦い方だな。実につまらない。お前がなぜここまで上がって来れたのかも分からん」

 グランゾアの侮蔑の言葉にアドルフは頭にくるが、挑発を受けるべきではないと自分に言い聞かせ、同じようなことがないようにさらに距離を取る。

「これでもダメか。仕方がない。お前の行動がどれだけ馬鹿なことか教えてやる」

 グランゾアはそう言って、さっきアドルフが一撃入れた場所を見せてくる。

 何をしているんだと思いつつ、アドルフの視線は傷に向く。

「――――ッ!?」

 アドルフは現実を突きつけられた。

「き、傷が……無いだと……」

 刺してまだ数分も経っていないはずだが、グランゾアの体には、傷が一切なかった。

「治癒魔法を使ったのか……?」

「ふっ、そんな大層なものは持っていない」

 治癒魔法を扱える人間は貴重であり、希少である。

 特に刺し傷などの深い裂傷を治せる術師はそれだけで優遇されるほどだ。

「じゃあ……」

「ああ、俺はトランサーだ。これは俺の能力だ」

 傷を回復する能力。

 これが、大乱戦の中、無傷で生還したという逸話の真実。

 すべてを防御していたわけではなく、回復することで傷を治していただけ。

「じゃあ……俺の作戦は……」

「無駄ってことだ。わかったら、さっさとやるぞ」

 この時、グランゾアの表情が獰猛な顔へと変貌した。

 そこからグランゾアの一方的な攻撃でアドルフは大敗した。
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