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2章 スティルド王国編
第86話 敗者
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王宮の一室では、ホルス騎士団の部隊長たち三人が集まっていた。
その中で1人だけが重い空気を放っていた。
琉海に負けてしまったシェイカーだ。
ソファにグランゾアとイロフが座り、その対面にはシェイカーが俯いて座している。
「負けて落ち込んでいるのか?」
イロフは眼鏡を指で押し上げながら、シェイカーに言う。
「…………」
「敗者は何も言えないか」
反応を示さないシェイカーにイロフはため息を吐く。
普段のシェイカーなら、調子のいいことを一つ二つ言ってくるのだが、そんな気分でもないようだ。
勝って当然と思っていた予選で敗退してしまったのだ。
理解はできるが、何か喋れと思うイロフ。
「そこまで、言わなくてもいいと思うがな」
グランゾアはイロフを窘める。
「甘やかさないほうがいいですよ。シェイカーが予選を落ちたことでホルス騎士団の影響力も下がってしまいます。これから横槍を入れてくる貴族も増えてきますよ」
「結果がすべてだ。それは仕方がないだろう。だが、勝者に意見できるほど、肝の据わった貴族も少ない。それも頂点に立つ者がいる騎士団ならなおさらだ」
その言葉でグランゾアが言いたいことはイロフに伝わった。
グランゾアかイロフのどちらかが優勝してしまえば、コバエのように小言を言ってくる貴族たちは黙るだろう。
いや、王が意見を許すわけがない。
それだけ勝者に与える恩恵はでかい。
「だが、シェイカー。お前が負けた相手がどんな奴だったのかは聞いておきたい」
グランゾアたちはシェイカーと琉海の戦いは見ていなかった。
勝者が決まっている試合を見ても時間の無駄だと思ったからだ。
だが、予想に反して勝者は琉海だった。
グランゾアの問いに一瞬だけシェイカーの拳が強く握られる。
そして、意を決したかのように口を開いた。
「最初は俺が押していた。いつも通りの展開だった。だが、途中でいきなりあいつは俺と同じような動きで攻撃してきた」
「ほう、スピード型で手数重視か」
グランゾアは興味を持つ。
イロフも興味なさそうに振舞いながらも、聞き耳は立てていた。
「ああ、俺と同じ戦い方だと思った。だけど、あれは違った」
「…………?」
「あれは俺だった。いや、俺を上回る俺だった」
シェイカーが何を言っているのか二人とも理解できなかった。
「どういうことだ?」
「あの動きは紛れもなく俺の動き。ただ、その動きの速さと一撃の重さが俺以上だった。俺が追い求める完成形。あれは俺の上位互換だった」
シェイカーの説明にグランゾアもイロフも言葉を挟まなかった。
「グランゾアの旦那。奴はもしかしたら、技術を盗めるのかもしれない」
シェイカーが顔を上げ、グランゾアに真剣な顔を向ける。
その目から、ただの妄想ではないのだろうとグランゾアは思う。
「なるほど。つまり、動きを真似るのがスタント公爵家の騎士が使う《トランサー》ということか」
「おそらく、そうだと思う」
グランゾアの考察にシェイカーは頷いた。
シェイカーと戦った少年――ルイ。
シェイカーの言っていることが本当であるのなら、厄介な相手かもしれないとグランゾアは心の中で思った。
その中で1人だけが重い空気を放っていた。
琉海に負けてしまったシェイカーだ。
ソファにグランゾアとイロフが座り、その対面にはシェイカーが俯いて座している。
「負けて落ち込んでいるのか?」
イロフは眼鏡を指で押し上げながら、シェイカーに言う。
「…………」
「敗者は何も言えないか」
反応を示さないシェイカーにイロフはため息を吐く。
普段のシェイカーなら、調子のいいことを一つ二つ言ってくるのだが、そんな気分でもないようだ。
勝って当然と思っていた予選で敗退してしまったのだ。
理解はできるが、何か喋れと思うイロフ。
「そこまで、言わなくてもいいと思うがな」
グランゾアはイロフを窘める。
「甘やかさないほうがいいですよ。シェイカーが予選を落ちたことでホルス騎士団の影響力も下がってしまいます。これから横槍を入れてくる貴族も増えてきますよ」
「結果がすべてだ。それは仕方がないだろう。だが、勝者に意見できるほど、肝の据わった貴族も少ない。それも頂点に立つ者がいる騎士団ならなおさらだ」
その言葉でグランゾアが言いたいことはイロフに伝わった。
グランゾアかイロフのどちらかが優勝してしまえば、コバエのように小言を言ってくる貴族たちは黙るだろう。
いや、王が意見を許すわけがない。
それだけ勝者に与える恩恵はでかい。
「だが、シェイカー。お前が負けた相手がどんな奴だったのかは聞いておきたい」
グランゾアたちはシェイカーと琉海の戦いは見ていなかった。
勝者が決まっている試合を見ても時間の無駄だと思ったからだ。
だが、予想に反して勝者は琉海だった。
グランゾアの問いに一瞬だけシェイカーの拳が強く握られる。
そして、意を決したかのように口を開いた。
「最初は俺が押していた。いつも通りの展開だった。だが、途中でいきなりあいつは俺と同じような動きで攻撃してきた」
「ほう、スピード型で手数重視か」
グランゾアは興味を持つ。
イロフも興味なさそうに振舞いながらも、聞き耳は立てていた。
「ああ、俺と同じ戦い方だと思った。だけど、あれは違った」
「…………?」
「あれは俺だった。いや、俺を上回る俺だった」
シェイカーが何を言っているのか二人とも理解できなかった。
「どういうことだ?」
「あの動きは紛れもなく俺の動き。ただ、その動きの速さと一撃の重さが俺以上だった。俺が追い求める完成形。あれは俺の上位互換だった」
シェイカーの説明にグランゾアもイロフも言葉を挟まなかった。
「グランゾアの旦那。奴はもしかしたら、技術を盗めるのかもしれない」
シェイカーが顔を上げ、グランゾアに真剣な顔を向ける。
その目から、ただの妄想ではないのだろうとグランゾアは思う。
「なるほど。つまり、動きを真似るのがスタント公爵家の騎士が使う《トランサー》ということか」
「おそらく、そうだと思う」
グランゾアの考察にシェイカーは頷いた。
シェイカーと戦った少年――ルイ。
シェイカーの言っていることが本当であるのなら、厄介な相手かもしれないとグランゾアは心の中で思った。
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