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第二章 与えられた自由
Sixteen. Recuperate
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「おはよう。」
「「おはようこざいます。」」
終戦パーティーの翌日は、庭で倒れるように寝た。私は酔わないのでいつも通り寝てもよかったのだが、たまには、そんなこともしてみたくなった。
朝はまだ冷えたから、風邪を引かせてはいけないと思い、一人一人抱っこで運んだ。
ぐっすりと寝ていて、可愛いものだ。
入り口に放ったローブと褒章はそれぞれ、持ち主の部屋に返した。
風呂で暖まった後、二日酔い達の為にトマトジュースを買いに行く。水分は大事だ。
私が階下へ降りるといつも朝餉の準備をしながら受け入れてくれる。健気なものだ。
ウィリアムがじっと私の顔を見つめて、ハキハキと物を言う。
「また夜更かしされたんですか?クマが濃いですよ。」
デフォルメなんだよ。んん。
「ぐっすり寝たよ。お陰様でね。」
横をすり抜け、コップを出す。水を一杯。
「暇か?」
「予定はありません。」
「ありません。」
「そうか。ダンジョンに行こうと思うんだが、来るか?」
「行きます。」
「ご一緒します。」
そうか。しっかり食べろよ。
しっかり着込んで支度したら、邸を出る。
「行ってきます。」
我々が向かうは、鉱山。待ってろよ、カワイコチャン達。
後日陛下から賜った馬に揺られ、辺境の森奥へ来た。
部下達に身体能力強化魔法をかける。
今回は潜っても二日くらいだから、血の魔力はあげない。
「鉱石が掘れる所でね。魔物が多いから、好きに退治してくれると嬉しい。私の傍にいなければいけないと言うわけではないから、自由に行動してくれ。」
楽しんで冒険してくれるといいな。
「言ってしまえば、修行みたいなものかな。取った物は勿論自分の物だ。奥に行けば行く程強い敵も多いけど、稀に浅いところにもいるから、頑張ってね。」
ハンマーやピッケル等を入れた道具袋を二人に渡す。
「私は2日位籠った後で帰るつもりだけど、もっといたかったらいてくれて構わない。その時は声をかけてくれ。」
日の光が遠くなるのを感じながら鉱山に踏み入れた。
やはり中は暗いので、一人一つ、灯火を呼び出す。ふわふわと浮いて後を着いてくるものだから、可愛くて好きだ。たまにもっと早く着いてこいと思うが。
二人の能力的に、ここから先は無理だろうと思ったところで別れる。
下へ下へ、魔力の流れが濃くなって、当てられる程キツい中を一人進む。キラキラと自身から発光して採ってくれと誘う鉱石達。
一株砕いて袋に入れる。
この辺りだと灯火はいらないから消す。
さらに降りて泉に出た。水中でキラキラと鉱石が発光して底まで透き通った薄い青を望める。
ここで二日間を過ごそうと寝袋を広げたが、
どうせ来たんだから、泳ぎたくなった私はせっせと荷物を下ろして入水する準備をした。
ゆっくりつかる。魔力の泉だ。
先の戦で使った私の魔力もグン、と補充されて満たされる気配が伝わる。
中心まで泳いで変身魔法・強化魔法を解く。傷だらけの体。足の腱を切られ、何もできない不自由な体。そのまま空気を吐いて沈む。
キラキラ、キラキラ。明るい水中を見上げながら沈む。
底に着いて背中がトン、と軽い衝撃を受けた。
…なんだか、まるでここのボスになった気分だ。
やっとの思いで辿り着いた冒険者を水魔法で撃退してね、ふふ。
想像を楽しみながら過ごす。
…この鉱石、陛下にあげようかしら。
贈り物くらいしといた方が、なんかやってますよアピールできるかしら。
腕を使って壁に生えた鉱石のところまで歩み進める。
どんな形がいいかしら。悩ましい。
実に悩ましい。
暫くぼーっと考えて思い付いた。
お月様にしよう!
三日月にできそうな大きさの鉱石を探す。
探し出して水魔法で切り離し、整形していく。その際出た余材は私の懐に納めよう。
両手を添えてじっくり眺める。陛下のくれた自由で陛下のために作りましたと献上できそうだ。
思いがけず一仕事終えた私は三日月と一緒に暫し眠ることにした。
元気になった私はダンジョンを登り二人と合流する。
ムキになっているのか、二人とも汗だくで掘っている。もう少し、掘るそうだ。
わかった。二人から離れるので、簡易結界を書いた魔方陣を渡す。好きに使って欲しい。
朝日が眩しい。
一人ダンジョンから出た私は陛下に手紙を書く。
本日閣下の予定が無ければ御身のもとに馳せ参じたく存じます。用事があるようでしたらば、この手紙、燃やして頂けると恐縮です。
自由を貰った小鳥 ウィン・リベル
意地悪を滲ませて書き留めた。
小鳥の姿にして、送り出す。見送った後、馬に跨がり、帰路に立つ。
さー!帰るぞー!!
邸で一旦持ち帰ったものを自室に置いて身なりを整える。
手紙は燃やされていないようなので王宮を徒歩で進む。馬で行った方が早いし多分そういう計算で道程を長くしてるんだと思うけど、徒歩で歩く。
のんびり歩いて王宮の無駄にでかい扉の前に着いた。
「蔦の魔術師様の、ごとうちゃーく!!」
声を張り上げる係ってのも、大変だなぁ
執事が礼をして私を出迎えた。
「リベル様、ようこそおいでくださいました。陛下が首を長くしてお待ちでいらっしゃいます。」
「それはありがたい。大した用でもないんだが、案内してくれるか。」
「承知致しました。」
無駄ではない広さの中をぐねぐねと進む。
覚える気もなければ、覚えられそうにもない。
執事が扉の前に立ち、中にいる主へ声を飛ばす。
「陛下、蔦の魔術師様のご到着です。」
「通せ。」
執事が扉を開けて中へ促す。
綺麗に片付けられた執務室だこと。
「茶を用意してくれ。私には濃いめで頼む。」
「承知しました。」
「突然の手紙、御受取りいただき感謝致します。」
「そなたからの申し出だからな。嫌とは言うまい。ゆっくり、くつろいでくれ。」
執事が入り口とは違う、執務室と横に面した扉から茶器を運ぶ。
「邸はどうだ。不自由はないか。」
「とても広くて部下達も喜んでおります。」
「そうか。」
茶を入れ終えた執事に退室を促す。
「堅苦しい言い方は、やめにしないか。」
「はっ?」
「うわべのそなたを見たいわけではない。私には胸襟開けぬか?」
「…私は、加減というものをよく知りません。それでも宜しければ。」
「よい。許す。」
あそう。
私は大切に布で覆った貢ぎ物を机の上に差し出した。
「なんだ、それは。」
「貢ぎ物。」
陛下がまじまじと私を見た。お前が言ったんだからな!
「先日鉱山に潜った時に発掘した鉱石でしてね、あなたが喜ぶかと思って。」
「俺は貴婦人か?」
「似たようなもんでしょう?」
暫し見つめあった後にぼふん、と背もたれにもたれた。
「あぁ…」
あぁ
「そうか。」
そうだ。
「ダンジョンを散策していると秘湯を見つけましてね、入っていると陛下の顔が浮かんだものですから。」
「秘湯を見つけたか。」
「結構な秘湯でありました。」
「そうか。」
「見てやってくださいよ。」
陛下がちら、と私を一瞥し、机の上の鉱石に手を伸ばす。布を広げ、大きな結晶が顔を出す。
「普通の石ではないか。」
「そう思うでしょう?」
「違うのか。」
ちらりと期待を込めた嬉しそうな顔を見せる。
「夜、奥方と真暗な部屋でもう一度開けてご覧ください。感動しますよ。」
「なんだ、勿体つけた言い方をして。」
「私が見た感動をきっとお届けできるでしょう。」
「今では駄目なのか。」
「意外とせっかちでらっしゃる。」
「えぇ?」
歴戦の愛嬌って、微笑ましい。
「用はそれだけです。貴重なお時間をありがとうございました。」
「まだいいではないか。もう少し、これを取ったときの話をしたらどうだ。有り難みが全く伝わらん。」
そう引き留めてくださるものだから、私は楽しく陛下と語り合った。
「「おはようこざいます。」」
終戦パーティーの翌日は、庭で倒れるように寝た。私は酔わないのでいつも通り寝てもよかったのだが、たまには、そんなこともしてみたくなった。
朝はまだ冷えたから、風邪を引かせてはいけないと思い、一人一人抱っこで運んだ。
ぐっすりと寝ていて、可愛いものだ。
入り口に放ったローブと褒章はそれぞれ、持ち主の部屋に返した。
風呂で暖まった後、二日酔い達の為にトマトジュースを買いに行く。水分は大事だ。
私が階下へ降りるといつも朝餉の準備をしながら受け入れてくれる。健気なものだ。
ウィリアムがじっと私の顔を見つめて、ハキハキと物を言う。
「また夜更かしされたんですか?クマが濃いですよ。」
デフォルメなんだよ。んん。
「ぐっすり寝たよ。お陰様でね。」
横をすり抜け、コップを出す。水を一杯。
「暇か?」
「予定はありません。」
「ありません。」
「そうか。ダンジョンに行こうと思うんだが、来るか?」
「行きます。」
「ご一緒します。」
そうか。しっかり食べろよ。
しっかり着込んで支度したら、邸を出る。
「行ってきます。」
我々が向かうは、鉱山。待ってろよ、カワイコチャン達。
後日陛下から賜った馬に揺られ、辺境の森奥へ来た。
部下達に身体能力強化魔法をかける。
今回は潜っても二日くらいだから、血の魔力はあげない。
「鉱石が掘れる所でね。魔物が多いから、好きに退治してくれると嬉しい。私の傍にいなければいけないと言うわけではないから、自由に行動してくれ。」
楽しんで冒険してくれるといいな。
「言ってしまえば、修行みたいなものかな。取った物は勿論自分の物だ。奥に行けば行く程強い敵も多いけど、稀に浅いところにもいるから、頑張ってね。」
ハンマーやピッケル等を入れた道具袋を二人に渡す。
「私は2日位籠った後で帰るつもりだけど、もっといたかったらいてくれて構わない。その時は声をかけてくれ。」
日の光が遠くなるのを感じながら鉱山に踏み入れた。
やはり中は暗いので、一人一つ、灯火を呼び出す。ふわふわと浮いて後を着いてくるものだから、可愛くて好きだ。たまにもっと早く着いてこいと思うが。
二人の能力的に、ここから先は無理だろうと思ったところで別れる。
下へ下へ、魔力の流れが濃くなって、当てられる程キツい中を一人進む。キラキラと自身から発光して採ってくれと誘う鉱石達。
一株砕いて袋に入れる。
この辺りだと灯火はいらないから消す。
さらに降りて泉に出た。水中でキラキラと鉱石が発光して底まで透き通った薄い青を望める。
ここで二日間を過ごそうと寝袋を広げたが、
どうせ来たんだから、泳ぎたくなった私はせっせと荷物を下ろして入水する準備をした。
ゆっくりつかる。魔力の泉だ。
先の戦で使った私の魔力もグン、と補充されて満たされる気配が伝わる。
中心まで泳いで変身魔法・強化魔法を解く。傷だらけの体。足の腱を切られ、何もできない不自由な体。そのまま空気を吐いて沈む。
キラキラ、キラキラ。明るい水中を見上げながら沈む。
底に着いて背中がトン、と軽い衝撃を受けた。
…なんだか、まるでここのボスになった気分だ。
やっとの思いで辿り着いた冒険者を水魔法で撃退してね、ふふ。
想像を楽しみながら過ごす。
…この鉱石、陛下にあげようかしら。
贈り物くらいしといた方が、なんかやってますよアピールできるかしら。
腕を使って壁に生えた鉱石のところまで歩み進める。
どんな形がいいかしら。悩ましい。
実に悩ましい。
暫くぼーっと考えて思い付いた。
お月様にしよう!
三日月にできそうな大きさの鉱石を探す。
探し出して水魔法で切り離し、整形していく。その際出た余材は私の懐に納めよう。
両手を添えてじっくり眺める。陛下のくれた自由で陛下のために作りましたと献上できそうだ。
思いがけず一仕事終えた私は三日月と一緒に暫し眠ることにした。
元気になった私はダンジョンを登り二人と合流する。
ムキになっているのか、二人とも汗だくで掘っている。もう少し、掘るそうだ。
わかった。二人から離れるので、簡易結界を書いた魔方陣を渡す。好きに使って欲しい。
朝日が眩しい。
一人ダンジョンから出た私は陛下に手紙を書く。
本日閣下の予定が無ければ御身のもとに馳せ参じたく存じます。用事があるようでしたらば、この手紙、燃やして頂けると恐縮です。
自由を貰った小鳥 ウィン・リベル
意地悪を滲ませて書き留めた。
小鳥の姿にして、送り出す。見送った後、馬に跨がり、帰路に立つ。
さー!帰るぞー!!
邸で一旦持ち帰ったものを自室に置いて身なりを整える。
手紙は燃やされていないようなので王宮を徒歩で進む。馬で行った方が早いし多分そういう計算で道程を長くしてるんだと思うけど、徒歩で歩く。
のんびり歩いて王宮の無駄にでかい扉の前に着いた。
「蔦の魔術師様の、ごとうちゃーく!!」
声を張り上げる係ってのも、大変だなぁ
執事が礼をして私を出迎えた。
「リベル様、ようこそおいでくださいました。陛下が首を長くしてお待ちでいらっしゃいます。」
「それはありがたい。大した用でもないんだが、案内してくれるか。」
「承知致しました。」
無駄ではない広さの中をぐねぐねと進む。
覚える気もなければ、覚えられそうにもない。
執事が扉の前に立ち、中にいる主へ声を飛ばす。
「陛下、蔦の魔術師様のご到着です。」
「通せ。」
執事が扉を開けて中へ促す。
綺麗に片付けられた執務室だこと。
「茶を用意してくれ。私には濃いめで頼む。」
「承知しました。」
「突然の手紙、御受取りいただき感謝致します。」
「そなたからの申し出だからな。嫌とは言うまい。ゆっくり、くつろいでくれ。」
執事が入り口とは違う、執務室と横に面した扉から茶器を運ぶ。
「邸はどうだ。不自由はないか。」
「とても広くて部下達も喜んでおります。」
「そうか。」
茶を入れ終えた執事に退室を促す。
「堅苦しい言い方は、やめにしないか。」
「はっ?」
「うわべのそなたを見たいわけではない。私には胸襟開けぬか?」
「…私は、加減というものをよく知りません。それでも宜しければ。」
「よい。許す。」
あそう。
私は大切に布で覆った貢ぎ物を机の上に差し出した。
「なんだ、それは。」
「貢ぎ物。」
陛下がまじまじと私を見た。お前が言ったんだからな!
「先日鉱山に潜った時に発掘した鉱石でしてね、あなたが喜ぶかと思って。」
「俺は貴婦人か?」
「似たようなもんでしょう?」
暫し見つめあった後にぼふん、と背もたれにもたれた。
「あぁ…」
あぁ
「そうか。」
そうだ。
「ダンジョンを散策していると秘湯を見つけましてね、入っていると陛下の顔が浮かんだものですから。」
「秘湯を見つけたか。」
「結構な秘湯でありました。」
「そうか。」
「見てやってくださいよ。」
陛下がちら、と私を一瞥し、机の上の鉱石に手を伸ばす。布を広げ、大きな結晶が顔を出す。
「普通の石ではないか。」
「そう思うでしょう?」
「違うのか。」
ちらりと期待を込めた嬉しそうな顔を見せる。
「夜、奥方と真暗な部屋でもう一度開けてご覧ください。感動しますよ。」
「なんだ、勿体つけた言い方をして。」
「私が見た感動をきっとお届けできるでしょう。」
「今では駄目なのか。」
「意外とせっかちでらっしゃる。」
「えぇ?」
歴戦の愛嬌って、微笑ましい。
「用はそれだけです。貴重なお時間をありがとうございました。」
「まだいいではないか。もう少し、これを取ったときの話をしたらどうだ。有り難みが全く伝わらん。」
そう引き留めてくださるものだから、私は楽しく陛下と語り合った。
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