同じ

悪魔と天使

悪魔と天使の出会い

雪化粧の中………響くのは青年の叫びだけ………


彼らは双子だった………

故に悲しい運命を背負った………

天界と魔界に生まれた左右生きる世界が違う｢双子｣………

白い翼と白銀の髪を持つ弟と黒い翼と純黒の髪を持つ兄………天使と悪魔の元々は同じ道を辿っていた2人………

兄は優しく弟は賢かった………

人間界で起きた天使と悪魔の｢2回目｣の戦争………

天使と悪魔に古くから伝わる言い伝え………

｢双子の内片方が生きれば戦争は終わる｣

その双子に天使の弟と悪魔の兄が該当していた………

彼らは最初から殺し合う運命を背負わされていたのだ………

生まれた時から別々に住んでいれば2人は躊躇なく殺しあっていただろう………

しかし彼らは翼と髪の色が別れる前まで共に過ごしていた………

幼き頃を共に過ごした兄弟を殺すことなどできない………

それは彼らが背負うしかなかった悲しい運命………

兄はいずれ戦争が起きると知っていた………自分達に背負わされたその運命にも………

兄は自分の翼と髪の色の変化に気がついたと同時に弟から離れ魔界へと行った

弟への最後の優しさとして………

戦争が始まって数年  弟も運命の存在を知る………

弟は悲しむしかなかった………背負わされた運命は余りにも残酷で………兄を殺すことなどできない………

それは兄である青年も同じ………弟を殺すことなどできない

しかし片方が生きない限り戦争は終わらず人が危害を加えられていく………

兄は悲しくも世界のためにある方法をとる………

雪化粧のその場所で………2人は剣を交える………

兄は弟に暗示をかけ無理矢理戦わせていた

弟はコントロールの効かない身体に涙を流しながら兄を呼ぶ

兄は弟に負けるはずが無かった

兄は魔界で負け無しの戦士として力を振るい王のために生きていた戦士………

対して弟は神に仕える使者であり戦闘方法は素人並み………つまり戦闘をすれば兄に勝敗が上がる

だが兄は武器を持っていても攻撃は軽く回避しやすいスピード

兄は弟に寂しそうな顔を見せた後新しい暗示をかける………

｢俺を殺せ｣

と………

弟は兄の暗示に抵抗することが出来ず兄を懇親の力で斬る………兄は防御することなく斬られ後ろに倒れる………

暗示の解けた弟は武器を投げ捨て兄の元に駆け寄る

本来なら即死レベルの傷でも悪魔の力で生き延びたが出血が酷く止血は不可能………

抱きしめられた兄はほとんど動かない身体に鞭打ってある物を弟の胸に押し当てる………

兄に渡されたモノは2枚重ねのドッグタグネックレス………

1枚目は恐らく建前であろう言葉が綴られ………2枚目は英語でたった一言が書かれていた………

｢愛してる｣

言葉にすることは出来なかったその言葉をネックレスに込め……

薄れゆく意識の中で………兄は小さく弟に言葉を零す

｢生きろ｣

その言葉にどれだけの想いと伝えられなかった言葉を込めたのか………

弟は力も温度もなくなっていく兄の体を抱きしめて泣き続けた

兄は誰よりも優しく天使よりも優しすぎた………

弟を英雄にするために自らを悪役にした兄

優しすぎて………余りにも悲しい運命を受け入れた………

戦士を失った悪魔達は敗退し天使達が勝利して

弟は天界にも伝わる英雄になった………

しかし弟は誰よりも愛していた兄を失った………


あの雪化粧の広がる場所で………



特定視点なし

その日  天界の英雄がその姿を消した………

しかし天使達は彼を探さなかった………愛する兄をその手で殺めたその時から彼が変わったと知っていたから………


海翔｢…………｣

天界から人間界に降り立った海翔は理由もなく歩き回り色々な場所を巡っていた………

海翔｢………っ…すいません｣

???｢こちらこそすいません｣

ふと人と肩の当たった海翔は謝ったが相手になにか感覚を覚えた………確かに見た目は人間なのだが他の人間とは明らか違う何かを感じたのだ

海翔  まぁ気のせいだろ

そう思って歩きだそうと思った海翔にその人が耳打ちをする

???｢今日の深夜  海の見える橋に来い………その違和感の理由を教えてやる｣

海翔｢…………｣

海翔は耳打ちをされて咄嗟に振り向いたがそこにその人はいなかった

海翔  一瞬魔力を感じた………まさか悪魔の中の希少種か？

天使は生まれつき見た目が人間だが悪魔にはそれが珍しい

海翔  行くには行ってみるか………

兄を失った時から海翔は危機管理能力が著しく低下し罠があってもそのまま行ってしまう

海翔｢…………｣

海翔  煙草って結構味あるよな

海翔は特に行く宛もなかった為既に橋に来て煙草を吸っておりすっかり人間界に馴染んでいた

海翔｢夜………か｣

ふとどれくらい時間が経っていたのか………気がつけば空は黒く夜になっていて海翔は驚く

???｢早いな｣

海翔｢行くあてがないからな｣

???｢そう｣

恐らく予定していた時間より早く到着したのであろう青年は海翔の隣に来て煙草を吸う

海翔｢お前何者？｣

???｢悪魔だよ  ただし見た目が人間で魔界には住んでないけど｣

海翔｢つまり希少種か………なんで俺のことを知ってたんだ？｣

???｢お前の兄  陸翔とは親友だった｣

海翔  兄さんの………？

???｢俺の名前は瑠海(るい)………瑠璃色の瑠に海と書いて瑠海  お前は？｣

海翔｢海に翔くと書いて海翔(かいと)｣

瑠海｢海翔………な  名前に同じ海が入ってるな｣

海翔｢それもそうだね｣

海翔  本当に考えてることが見えないから悪魔なんだな………

海翔は天使の中でも力が強いので考えてることが見えるのだが瑠海は見えない

瑠海｢それで？俺の何が知りたいんだ？｣

海翔｢兄さんとはどこで出会ったんだ？｣

瑠海｢人間界で  陸翔は度々人間界に来てはある人と会ってたんだ………その時に戦闘になって大怪我をした時に俺と出会って気がついたら親友になってた｣

海翔  ある人と会ってた？

海翔｢ある人って？｣

瑠海｢そこまでは知らない  声だけ聞いたことがあるだけだ｣

海翔｢そう………｣

瑠海は海翔にある場所を書いた紙を渡しつつあることを言う

瑠海｢普段日中はここにいるからまた何か聞きたいときはここに来るといい｣

海翔｢分かった｣

瑠海｢仕事があるんだ  悪いな｣

そう言って瑠海は翼を広げて飛び立ってしまいそこに残った黒い翼を拾う

海翔｢…………｣

海翔は瑠海の瞳の中に強く悲しく燃え上がる炎を確実に捉えていた………まるで自分を誰かに被せているような………そんな感覚

海翔｢…………｣

海翔  もしかしたら………

海翔はあることを考え翼を広げて天界の歴本を読んでみる………するとその中に天使と悪魔の戦争の話がありその際は悪魔側が勝利したと記されていた………しかし悪魔側が提示したのは戦闘訓練の禁止と武器の制限だけだった………それ以外は代わり映えなく終わったらしいが………

海翔  天使と悪魔の双子の生死はその後不明………

つまりどっちが死んで生き残ったのかは誰も知らないのだ

海翔｢…………｣

天界から人間界に戻った海翔は人間界と展開の時差を感じつつ紙に書かれた場所へ

｢コンコン｣

瑠海｢はいはい………って海翔か｣

海翔｢…………｣

瑠海｢まぁ入れよ｣

部屋に到着しノックをすると出てきた瑠海はノースリーブトータルネックインナーと、黒いベルトを通したズボン姿でかなりの軽装

海翔｢ここ高級住宅街の高級マンションの最上階だろ………の割には物ほとんどないけど………｣

瑠海｢いるのが昼と夜の仕事終わり程度だから物をそこまでものを置く必要は無いからな………家賃は9割俺が払っててもう1人余り家にいないやつが残りを払ってる｣

海翔｢一緒に住んでるのか？｣

瑠海｢ああ  暫くは家にいるけどまだ寝てる｣

海翔  天使と悪魔には性別がないとはいえ………俺も瑠海も見た目が男だし多分一緒に住んでるのも男………

何となく海翔は男2人が高級マンションの最上階に住んでいるという現状は如何なものかと………少しそう思ってしまうが瑠海は特に気にしていないらしくそこに関しては何も言わない

???｢…………今日はお前の客人がいるのか………？｣

ふと声が聞こえて起きてきたのか顔に傷跡が残っている青年が部屋から出てきてそう言う

瑠海｢おはようラミ  お前今日仕事は？｣

ラミ｢今日はない………｣

瑠海｢お前まだ体調悪いだろ  薬飲んだか？｣

ラミ｢飲んでない………｣

どうやら同居者のラミは体調が優れないらしく倒れそうになったところを瑠海がキャッチ

瑠海｢飲まなきゃ治らないだろ  ずっと苦しいままでいる気か？｣

ラミ｢…………｣

瑠海｢後で水運ぶがてら起こすから今は飲み物飲んで寝ろ｣

ラミ｢………分かった………｣

瑠海に言われラミは飲み物を飲んで出てきた部屋に引き返し瑠海は皿洗い

瑠海｢何分今日帰ってきた時酷い有様でな………俺が帰ってきた時には玄関で倒れてて意識がなかったし、めちゃくちゃ焦りながら起こしたと思ったらトイレに駆け込んで吐くし………吐いたあとは意識が朦朧とした状態で部屋徘徊するんで寝室に連れてって寝かせた………その後仕事中に強姦されて副作用の強い薬盛られたらしくて………今その副作用を緩和すると同時に効果が早く切れる薬飲ませてる｣

海翔｢仕事中に強姦？｣

瑠海｢ラミは情報屋なんだ  多くの情報を持ってるんで狙われやすいから気をつけてはいるんだがな………何分その時は手が空いてなかった｣

海翔  情報屋ってやっぱり危ないんだな………

瑠海｢ところで俺に用があったんじゃないのか？｣

海翔｢忘れてた………｣

瑠海｢何が聞きたい？｣

海翔｢………｢1回目｣の天使と悪魔の戦争について｣

海翔の言葉に瑠海は皿を洗っていた手を止めた………一瞬にして変わった雰囲気に海翔は身構えたい気持ちを抑え込む

瑠海｢………あの戦争で多くの命が犠牲になった  それこそ家族や仲間、友人を失った者も多くいる｣

海翔｢…………｣

瑠海｢………俺はあの戦争で弟を失った  代わりに得た死ぬことの出来ない体を持て余してこの世界に居座った………無意味に時間を過ごしていた俺に声を掛けたのが陸翔だった………だからお前のことも陸翔から聞いて知ってたんだ｣

海翔｢つまり………｣

海翔  ｢1回目｣の戦争は………

瑠海｢………弟が死んだ  そして俺は人間界で生き残った｣

瑠海もまた愛する人を失った者だった………

瑠海｢お前も俺と同じ………兄弟を殺さなければならなかった者同士………｣


海翔が出会った瑠海はかつて1度目の戦争で弟を失った悪魔だった………