上 下
29 / 39

嵐の前は、静かなのです②

しおりを挟む
 どうもこのところ、私のモブりょくの低下を感じてたんだよね。
 メインキャラに呼び止められるとしても、
 『〇〇持ってきてくれ』と目も合わせずに一方的に頼まれるとか、
 『〇〇はどうなってるんだッ』とその担当なのかも確認されず、八つ当たり気味に確認されるとか。
 モブがメインキャラと会話するっているのは、そういう感じが正しくて。
 間違っても、がっつり目が合ったまま、しかも二人きりの状況で話しかけられるなんて、モブりょくがぶったるんでる証拠。
 確かに自分でも感じてた。

 先日も、背景モブとしてメインキャラたちの後ろ(画角からしたら後ろ。実際は脇)を、意味不明に荷物をもって通り過ぎようとしたら、
 『私が運びましょう』と荷物をイスリオに取り上げられてしまった。
 声が出れば上滑りな理由で断るところなんだけど、そんな複雑なカードは用意してない。
 『捧げ持ってるけど中身不明の箱という荷物』というモブアイテムを返してもらおうとワタワタしていると、イスリオが耳元で囁いてきた。
 『俺がお前といたいだけなんだ。ちょっと大目にみてくれ』
 王宮騎士Ver.から一瞬だけの『俺』Vre.&ウィンク付きというダブルコンボでメインキャラから詰め寄られたら、モブのMPメンタルポイントゲージが『0』になっても仕方ないと思う。

 はたまた別の日。
 正しいモブとして、そう大した用事でもなく王女宮からサルファス王子の宮にお使いに出された。
 さっくりすまして、早々に帰ろうとしたら、王子付きの女官さんたちに捕まって、トレイに乗ったお茶セット(ポット。カップは二つ。それとお茶菓子)を持たされて、サルファス王子の執務室の扉の前。
 トレイをどなたかにお返ししようにも、私の後ろに人がいて、私の前は扉ばかり。
 サルファス王子の執務室の扉がどなた様かに開けられると、なんだか前にもあった澱んだ空気。
 うっそりと顔を上げる、やつれてても目の下隈でもイケメンな王子サマ。
 『だから、休憩などいらいないと…………』
 モブと目が合う。
 しばしの硬直。
 息を詰める王子宮の方々。
 目が合ったので、意味なくへらりと笑うモブ
 サルファス王子の口から出た、根負けしたかのような長い溜息。
 『こんなに読まれやすくなっているとはね…………。
  わかった、少し休む』
 ほぐれる空気。
 なんだか感謝の目を向けられるモブ

 いや、アカンでしょ、自分。
 完全にメインキャラに絡んでるでしょ。
 個別識別もされちゃってる。

 ここは己の力不足を見直し、今後の精進につなげる所存です、って自分自身で宣言してみたりするくらいのところで、どうしてこういう状況に陥っているのかな、自分?
 とセルフ突っ込みから一段上げて、セルフ上から目線とかしてみても、状況は変わらないわけで。

 少し肌寒いくらい、空気の澄んだ夜。
 月明りに照らされる、王宮の中庭。
 そこにひとりたたずむ、もの思わし気な少年アクシオ君

 だ~か~ら~。
 どうしてそんな場面に出くわすかなっ、自分っ。
 こういうとこには、同じくメインキャラの少女が遭遇して、ちょっとトキメいて読者をキュンとさせたり。
 同じくメインキャラの少年がきて、不安を漏らしつつも前向きになっていって、読者を萌~っさせたり。
 あれ? 結構重要なシーンじゃない?
 モブが来ちゃダメなヤツだよ。
 早急に退散、退散。
 
 「アンタ。なにほけほけしてんだよ」
 だから、ここで話しかけられちゃう私。
 本っっ当にモブりょく低下感じてる。
 己の弱点を鑑み、みなみなさまのお足を引っ張ることのないよう、モブ道を邁進していく所存なので、ここはスルーでお願いいたしますっ。

 という全力の思いを込めて、持ってる板に返事を書く。
 『近道だったから』
 実際、お使いの帰り道。
 中庭を囲むように廊下があるから、突っ切ったほうが正直早いんだもん。
 もちろん人目がある日中は、お行儀よく回り込むけど、夜だからいいかなって思った私の油断。
 あえてガッサガサ音を立てながら歩いたから、もし逢引きデートしてる人たちがいたら、察して避けてくれるだろうし。
 と、考えてしまったこと自体が、モブ力の低下なのかしらっ。
 もっとモブらしく、定型の動きをしていたら、こんなことにはならなかったのかもっ。

 ほら、こんなに反省してるんだから、さらっと流していきましょうっ。
 
 「あぶねーだろ、こんな夜にひとりで歩いてたら」
 いえいえ。
 年下(記憶の世界的には未成年)の君が、夜ひとりで佇んでいる方が問題。
 悩みがあるなら、話した方がいいよ。
 できればモブ以外に。

 こういう時、話せないって確かに不便かも。
 アクシオ君が、悩んでいるのを知っている。
 これは私のチートなんだけどさ、私がいないところでの話だし、一部のメインキャラたちだけが知っている、っていう設定の話。
 ありがち? 設定だけど、アクシオ君てば実は魔王に滅ぼされた国の王子様だったりしたわけで。
 遺臣の人たちから、ご両親が残した言葉とか聞いたのが、多分今頃なんだろうな。
 魔王討伐に向けて、ある意味盛り上がっていく周りの中で、ほんのひと時とはいえ今まで知らなかった両親からの愛情を知ってしまって。
 少し、ひとりになりたかったんだと思う。

 そんなところに、モブ来て、ほんとスミマセン。
 速やかに撤収します。
 カードの中から『おやすみ』って書いてあるのを探していると、手を重ねて止められた。
 「悪い。用とかないなら、少し、一緒にいてもらっても、いいか」
 自分より身長の高い少年からの上目遣いって、まさかそんなのあり得ない、って思ってましたが、体験しております。たったいま。
 そして、その破壊力に完敗中です。現在進行形。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。 幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。 シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。 そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。 ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。 そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。 邪魔なのなら、いなくなろうと思った。 そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。 そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。 無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...