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白薔薇園遊会……か~ら~の②

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 メインキャラたちと同じ場に居合わせてしまった時のモブの身の処し方は、『ひたすら背景になる』。
 もし会話をせざるを得ない場面になっても、モブの言葉はその場の全モブの集大成的な言葉や、読者(メタ発言失礼)へ説明をするためのきっかけになるような質問など。
 メインストーリーの進行のため、モブは歯車に差す油のように、姿があっても存在感をなくすのが鉄則。

 なーのーにー。
 どうしてこの兄妹は私に絡みまくるのでしょうか。
 「へぇ。拡大マグニフィクションというのは効果や範囲だけじゃなく、その魔法の方向性まで変えられるというわけなんだね」
 「はぁ……」
 「そのようなのじゃ、兄上様。先の時も、わらわはアンに魔法を預けただけじゃからの」
 「いえっ。レリア王女殿下のお力があってこそのっ」
 ここ大事なところだからっ。
 モブはなんかやったとしても、メインキャラたちが飛躍する土台作りまでしかやっちゃいけないものだからっ。
 私が焦っていっているのに、なんで微笑んでいますかね、美形兄妹。
 「申し上げた通りでありましょう? 兄上様。アンはほんに控えめで」
 「そのようだね。先の魔王襲来の際の功労者だというのに、なんの褒章も求めないなんて」
 いえ。
 私も図々しくいける時はいきますよ。
 今は全力で、私本来の生息域である『モブの領域』に逃げ込みたいのに、超美形のメインキャラ二人に、後ろからガッチリ抑え込まれているのが、私の心象風景。
 レリア王女は悪意のない準メインキャラの圧なんだけど、サルファス王子のほうがなぁ。
 チラ見しかしていないけど(目とか合ったらなにか良くないことが起きる気がする)、目の奥が笑ってない気がする。
 それなのに、仲良し兄妹のロイヤル王族会話はキラキラしいんだもんなぁ。

 「アンがわらわの宮に来たとき、身の回りの物か、袋ひとつに入っておりましたのじゃ。
  わらわはてっきり空間魔法をかけた袋かと思ったのじゃが、違ったのじゃ。
  なんと清貧なことであろう。のう、兄上様」
 いえ。
 魔法士団の下っ端なんて、そんなもんですから。
 「衣装なぞ、わらわがほんのわずか用意したもので、足りてしまうと申すし」
 うん。
 体はひとつしかないので。
 衣装棚も目いっぱい入ってるのがひとつあれば、十分以上なんです。
 『衣裳部屋はいくつ所望じゃ?』と聞かれたとき、冗談で『では2部屋ください』なんて返さなくて本当に良かった。
 準備されたのは3部屋だったし。(レリア王女は……うん。知っても理解できないことってある、とわかった)
 「そうなの?
  では、贈るなら別の物が良さそうだね」
 いえ。
 サルファス王子から贈り物いただくことなんてありえませんので、思考の無駄遣いでございます。
 「それなら、この間の王室図書館への入館許可証は、」
 「アンのものですじゃ。常に己を磨くことを忘れておらぬ」
 レリア王女にドヤァ顔されても。
 単に人目がなくて、放っておいてくれるとこを見つけただけです。
 ちなみに、これは本当に知識を探しに来ていた主人公たちとニアミスしたけど、見事背景モブとして華麗にスル―された実績あり。
 「王室図書館では、どんな書物に興味が?」
 輝く微笑みキープのまま、サルファス王子が聞いてくる。
 「そ、そうでございますね。奥の古代発明具についての書物など」
 のあたりが誰もいなくて、ナイス昼寝スポットです。

 「……そう。古代発明具に興味があるんだ」
 「ひっ」
 私の口から、まったく意識してないのに、小さく悲鳴が出てた。
 なんだか変なオーラ発していません? サルファス王子。
 『なにか企んでます』オーラをバンバンに感じるんですけどっ。
 「ほう。アンはそのようなものに興味があるのか。まぁ、励むとよい。なにかあれば、わらわが助力してやるゆえ」
 鷹揚にいってお茶を飲むレリア王女。
 え? 王族ってオーラキャンセリング機能、標準装備ですかっ。
 
 美しく微笑みつつ、不穏なオーラ絶賛発現中のサルファス王子。
 それをまったく感じず動じず、優雅にお茶を楽しむレリア王女。
 オーラにあてられつつ、共感者が誰もいない状況で、今この瞬間ここに存在している自分を否定したい無名のモブ(私)。
 まさしくカオス地獄絵図(私の心象風景のみ)。

 大人しくしていると、
 『まあ、両殿下は相変わらず仲がおよろしくて』
 貴族モブたちの会話が流れてくる。
 これも小説なんかでは当たり前なんだけど、実際聞こえてくると、もうちょっと小声でしてくれればこっちには聞こえないのに、と思う。
 『殿下方の席に同席しているのは? 魔法士の格好をしているが、仮装の趣向でもありましたかな』
 『ご存知なくて? 彼女がアン魔法士ですのよ。魔王襲来の折、レリア王女殿下をお守りするため、命がけで王宮に馳せ参じたとか』
 『あぁ。私も聞き及びましたよ。なんでも王女殿下のお力を得つつ王族の方々や、我ら貴族を守護したとか』
 いや、守護したのは王宮内の全員のつもりですけど。
 『その力に、魔王も恐れをなして逃げ去ったとか』
 え? なにそれ、聞いてない。
 『その功績を持って、一代限りの男爵に任じられ、レリア王女殿下の側近になったとか』
 『ほぉ。それはそれは。では知己を得ておいて損はなかろう』
 『そうですわね。そういえば、男爵位にある私の甥が独り身で……』

 え? なんか話がとんでもない感じになってません?
 魔王なんて会ってませんし。
 結婚相手は同じ平民モブって決めてるんで、ご紹介は結構です。
 というか、私も貴族だったら、あなた方モブの中に入れてほしいです(あ、貴族だった)。
 好奇と嫉妬の視線が背中にバンバン当たってくるので、背中の汗が止まらない。
 私に聞こえてるんだから、同じテーブルの二人にも聞こえてそうなものなのに、二人とも無反応ノーリアクション
 王族って、騒音低減ノイズキャンセリング機能もついてるの?

 「アン、どうしたのじゃ。具合でも悪いのか」
 レリア王女が奇跡的に、王族以外の人間の様子に気づいた。
 このビッグチャンスを逃す手はないっ。
 「申し訳ございません、王女殿下。
  このように高貴な方々がおそろいになる華やかな席は慣れておりませんので……」
 帰らせてほしいです。
 最後まで言う前に、サルファス王子が声を出した。
 「ああ。主催者を独り占めしてしまっては、申し訳なかったね。
  レリア、あちらでレジュ公爵令嬢がお前と話したそうにしているよ」

 少し離れたところに、レリア王女の取り巻きたちがたむろしてらっしゃる。
 「おぉ、シレイアじゃ。兄上様、御前を失礼いたしますぞ」
 さすが優雅に席を立つと、レリア王女はサルファス王子に席を辞す礼をした。
 たとえ、ややお笑い担当準メインキャラといっても、生まれついての王族。
 仕草も所作もお美しい。
 で、ど庶民から成り上がりの貴族。
 貴族会の底辺の私も一緒に席を立とうとした。
 ほら、私、レリア王女の側近ですので、ご一緒しなくては。
 優雅な動きにはならないけど、椅子くらいは係りの人が引いてくれるはず。
 なんだけど。
 え? 引いてくれない?
 いや、底辺貴族だから?
 だったら元庶民は自分で椅子を下げますけど。
 え?
 逆に椅子、後ろから押さえつけられてるんですけど。
 え?
 なんかサルファス王子が係りの人に手で合図送ってる?
 「私をひとり寂しく置いていくなんて、そんなことはしないよね?」
 なんですかっ。
 そのメインキャラしか持ちえはい、世界は私の意志の上に動く的なオーラと自信はっ。
 この方、一歩も動くことなく、手の合図だけで私を立てなくさせた上に、美形の上目使いなんて国宝級のものをモブに発揮しやがってっ。
 あぁっ。
 私が名もないモブであったら、目をハートにでもして倒れこんでしまえばことは済むはずだったのにっ。
 人を助けられたことに後悔はないけど、数日前の自分のばかっ。

 「アン嬢は具合が悪いようだから、この席で休ませておくよ」
 なんですか。その親切ごかしな、実は私の危機をあおるだけのお言葉はっ。
 「おぉ、さすが兄上様はお優しい。
  アン、随行は無用じゃ。しばし休んでおれ」
 いや、あなたの側近を、簡単に死地においやりますなぁっ。

 と、いうことで。
 背後には好奇とか嫉妬とかをにじませたモブ貴族たち。
 正面には、キャラの裏面を惜しげもなくモブに見せつけてるメインキャラ。

 …………もっかい魔王とかって、ここに来てくれないかな?
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