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前編
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「ローズ。君との婚約を解消し、僕は男爵令嬢・コニスと結婚する!」
突然はじまったレグ王太子殿下の宣言。
そのせいで賑やかだったミオン王国主催の夜会が一気に静まりかえってしまう。
会場を華やかな音楽で包んでくれていた音楽隊が楽器の演奏を止めはじめ、ダンスを踊っていた貴族たちが固まっている。
名指しで呼ばれた私・セロン国の第一王女ローズも彼らと同じで、氷像のようになっていた。
――えっ?
呆然としていた私だったけど、我に返り壇上へ顔を向ける。
すると、発言の主であるレグ王太子殿下の姿があった。
殿下はミオン王国の王太子であり、私の婚約者でもある。
年は私と同じで十五歳だ。
いわずもがな、私と殿下の婚約は両国のメリットが多いので結ばれたもの。
本人の意志なんて関係ない。
完全な政略結婚だ。
会っても数回しか会話をしないくらいの間柄。
しかも、殿下が口を開けば、「お前、冷めているよな。つまらなそう」と言われる始末。
それでも人生を共にする人だからと私は何度も歩み寄ろうとしていた。
……まぁ、結果がこのざまだけど。
急に婚約破棄なんてこの子が原因だろうなぁと思いながら私は殿下の隣にいる少女を見た。
殿下の傍にはぴったりと寄り添っている少女がいる。
彼女こそが、さきほど殿下が結婚すると宣言した男爵令嬢・コニスだ。
子ウサギを思い出す大きくてつぶらな黒い瞳を持ち、庇護欲をかりたてる可愛らしさ。
殿下に「お前、冷めているよな。つまらなそう」とよく言われていた自分とは真逆。きっと、あぁいう少女が殿下の好みなのかもしれない。
「俺に婚約破棄をされショックのあまり言葉を失ったか。まぁ、気持ちはわかる」
いえ、呆れてものが言えなかっただけです。
逆に聞きたいんですけどその自信はどこから?
私、別に殿下に対して熱烈な感情を抱いていませんが。
「ローズ様。私、殿下のことをお慕いしているんです」
コニスは瞳にうっすらと涙を溜めながら弱々しい声で私に語りかけてきたんだけど、正直「そうですか」という感想しかない。
「殿下とコニスにお伺いしますがこの婚約は双方の国にとってメリットがある事だというのはわかっていますよね?」
「双方ではない。おまえの国だけだろう。俺の国にはメリットが全くないからな。あんな自然しかない田舎の国と関係を強化しても無意味だ」
殿下は鼻で笑ったけど、自然豊かな国がどんな国かわかっていない。
なぜ、両国が関係を結ぼうとしたのかさえも……
自然豊かな国。言い換えれば資源が豊富。
私の祖国・セロン国は国としての歴史は浅く農耕中心だけど、天然資源に関しても強みを持っている。
一方の殿下が暮らすミオン王国は歴史が深く華やか。
そのため、いろいろな国との繋がりがあり社交的な国。
でも、ここ数年は農作物が不作な年も多いなどダメージを受けている。
そこで白羽の矢が立ったのがセロン国。
ミオン王国の農作物の不作を解決するためにセロン国が農業の技術者の派遣などでサポートを提案。
セロン国としてはミオン王国の他国との繋がりを利用したい。
ミオン王国としてはうちからの食料支援や技術者派遣により、国内の供給量を安定させたい。
双方の狙いにより、私と殿下の婚約は決定したという経緯がある。
「おまえのような田舎の姫と結婚しなくて清々したよ。二度とこの国の敷地をまたぐな」
不幸中の幸いだわ。
国のことを考えられない王太子殿下と結婚しても先がなかったもの。
さっさと帰ってお父様達にご報告しよう!
そんなことを思っていると、「ローズ様」という可愛らしい声が聞こえてきた。
顔を向ければ、殿下の弟君・メテオ様の姿が。
大人になったら美少年になるだろうなぁという愛らしい顔立ちをしている。
たしか、第三王子だったよね。今年で十歳になったはず……
「ローズ様。兄上と婚約破棄したのでしたら僕と結婚して下さい」
「はいっ!?」
突拍子もない台詞を聞き、私は裏返った声を上げてしまう。
「あの……僕ではだめですか……?」
潤んだ瞳で言われ、私は胸がきゅんとした。
くっ、かわいいすぎる!
その破壊力はすさまじく、周りにいたご令嬢達も胸を押さえてハァハァ言っている。
「哀れだな、ローズ。こんなに大勢の男達がいるというのに、お前に結婚を申し込むのは十歳のメテオのみ。魅力ゼロだな。メテオ、やめておけ。こんな女」
殿下はそう言うとコニスとこちらを見て馬鹿にしたように笑っている。
そんな二人を見て、私は冷静だった。
視界の端に騒ぎを聞きつけた陛下達がこっちに来ているのが見えたから。
詰んだな、殿下。
「レグ! この馬鹿者が! 婚約破棄とはなにを勝手なことを!」
陛下は登壇すると殿下に向って今にも胸ぐらを掴みそうなくらいに感情むき出しで怒鳴った。
「なぜそんなに怒っているんですか、父上。俺はコニスと結婚します。彼女ならとても聡明でそこの田舎の王女よりもかなり役にたってくれます」
聡明だったらこの婚約破棄を止めているだろう。
こんなに諸外国の貴族王族が集まっているところで醜態さらしているんだもの。
「殿下。まだわからないんですか? 私達の婚約に関して片方だけのメリットのみのわけがありません。ある意味国同士の契約なんですよ。それなのに、一方的に婚約破棄したらどうなりますか?」
「あっ……」
あっじゃない。
気づくのが遅すぎる。
「レグ。お前の王位継承者を廃する! 誰かこの馬鹿者をさっさと外へ出せ」
「お待ち下さい、父上」
殿下が陛下にしがみつき懇願するが振り払われた。
……まぁ、当然だけど。
「殿下、人生詰みましたわね。もう王太子ではなくなったので、時間がたっぷりできたでしょう。是非、お勉強なさって下さいね」
私は手にしていた扇子を広げながら言えば、殿下は顔を青ざめて膝から崩れ落ち、ただ静かに床を見つめている。
――王太子殿下ではなくなったけど、好きな女性と一緒に暮らせるからいいのでは?
なんて思っていると、視界の端にコニスの姿が入った。
彼女はゆっくりと殿下から離れると、一目散に逃げ出す。
気づいた殿下が彼女の名を叫ぶがコニスは止まらずに人々を押しのけるようにして会場を後にした。
――逃げ足早っ。
ぼんやりと見ていると、「ローズ様」とメテオ様に声を掛けられたので顔を向ける。
「やっぱり、年下はだめですか?」
きらきらとした澄んだ瞳で私をじっと見ている。
うっ……捨てられた子犬が頭に浮かんでしまう……
ちょっと待って。これ、断るの勇気がいるんですけど!
「僕、ローズ様にふさわしくなるように頑張りますから。お願いします」
「わ、私だけでは決められませんわ。どうか、一度国に持ち帰らせて下さい」
私に言えたのはこれが精一杯。
半年後。両国の協議の結果、私とメテオ様の婚約が決定した。
突然はじまったレグ王太子殿下の宣言。
そのせいで賑やかだったミオン王国主催の夜会が一気に静まりかえってしまう。
会場を華やかな音楽で包んでくれていた音楽隊が楽器の演奏を止めはじめ、ダンスを踊っていた貴族たちが固まっている。
名指しで呼ばれた私・セロン国の第一王女ローズも彼らと同じで、氷像のようになっていた。
――えっ?
呆然としていた私だったけど、我に返り壇上へ顔を向ける。
すると、発言の主であるレグ王太子殿下の姿があった。
殿下はミオン王国の王太子であり、私の婚約者でもある。
年は私と同じで十五歳だ。
いわずもがな、私と殿下の婚約は両国のメリットが多いので結ばれたもの。
本人の意志なんて関係ない。
完全な政略結婚だ。
会っても数回しか会話をしないくらいの間柄。
しかも、殿下が口を開けば、「お前、冷めているよな。つまらなそう」と言われる始末。
それでも人生を共にする人だからと私は何度も歩み寄ろうとしていた。
……まぁ、結果がこのざまだけど。
急に婚約破棄なんてこの子が原因だろうなぁと思いながら私は殿下の隣にいる少女を見た。
殿下の傍にはぴったりと寄り添っている少女がいる。
彼女こそが、さきほど殿下が結婚すると宣言した男爵令嬢・コニスだ。
子ウサギを思い出す大きくてつぶらな黒い瞳を持ち、庇護欲をかりたてる可愛らしさ。
殿下に「お前、冷めているよな。つまらなそう」とよく言われていた自分とは真逆。きっと、あぁいう少女が殿下の好みなのかもしれない。
「俺に婚約破棄をされショックのあまり言葉を失ったか。まぁ、気持ちはわかる」
いえ、呆れてものが言えなかっただけです。
逆に聞きたいんですけどその自信はどこから?
私、別に殿下に対して熱烈な感情を抱いていませんが。
「ローズ様。私、殿下のことをお慕いしているんです」
コニスは瞳にうっすらと涙を溜めながら弱々しい声で私に語りかけてきたんだけど、正直「そうですか」という感想しかない。
「殿下とコニスにお伺いしますがこの婚約は双方の国にとってメリットがある事だというのはわかっていますよね?」
「双方ではない。おまえの国だけだろう。俺の国にはメリットが全くないからな。あんな自然しかない田舎の国と関係を強化しても無意味だ」
殿下は鼻で笑ったけど、自然豊かな国がどんな国かわかっていない。
なぜ、両国が関係を結ぼうとしたのかさえも……
自然豊かな国。言い換えれば資源が豊富。
私の祖国・セロン国は国としての歴史は浅く農耕中心だけど、天然資源に関しても強みを持っている。
一方の殿下が暮らすミオン王国は歴史が深く華やか。
そのため、いろいろな国との繋がりがあり社交的な国。
でも、ここ数年は農作物が不作な年も多いなどダメージを受けている。
そこで白羽の矢が立ったのがセロン国。
ミオン王国の農作物の不作を解決するためにセロン国が農業の技術者の派遣などでサポートを提案。
セロン国としてはミオン王国の他国との繋がりを利用したい。
ミオン王国としてはうちからの食料支援や技術者派遣により、国内の供給量を安定させたい。
双方の狙いにより、私と殿下の婚約は決定したという経緯がある。
「おまえのような田舎の姫と結婚しなくて清々したよ。二度とこの国の敷地をまたぐな」
不幸中の幸いだわ。
国のことを考えられない王太子殿下と結婚しても先がなかったもの。
さっさと帰ってお父様達にご報告しよう!
そんなことを思っていると、「ローズ様」という可愛らしい声が聞こえてきた。
顔を向ければ、殿下の弟君・メテオ様の姿が。
大人になったら美少年になるだろうなぁという愛らしい顔立ちをしている。
たしか、第三王子だったよね。今年で十歳になったはず……
「ローズ様。兄上と婚約破棄したのでしたら僕と結婚して下さい」
「はいっ!?」
突拍子もない台詞を聞き、私は裏返った声を上げてしまう。
「あの……僕ではだめですか……?」
潤んだ瞳で言われ、私は胸がきゅんとした。
くっ、かわいいすぎる!
その破壊力はすさまじく、周りにいたご令嬢達も胸を押さえてハァハァ言っている。
「哀れだな、ローズ。こんなに大勢の男達がいるというのに、お前に結婚を申し込むのは十歳のメテオのみ。魅力ゼロだな。メテオ、やめておけ。こんな女」
殿下はそう言うとコニスとこちらを見て馬鹿にしたように笑っている。
そんな二人を見て、私は冷静だった。
視界の端に騒ぎを聞きつけた陛下達がこっちに来ているのが見えたから。
詰んだな、殿下。
「レグ! この馬鹿者が! 婚約破棄とはなにを勝手なことを!」
陛下は登壇すると殿下に向って今にも胸ぐらを掴みそうなくらいに感情むき出しで怒鳴った。
「なぜそんなに怒っているんですか、父上。俺はコニスと結婚します。彼女ならとても聡明でそこの田舎の王女よりもかなり役にたってくれます」
聡明だったらこの婚約破棄を止めているだろう。
こんなに諸外国の貴族王族が集まっているところで醜態さらしているんだもの。
「殿下。まだわからないんですか? 私達の婚約に関して片方だけのメリットのみのわけがありません。ある意味国同士の契約なんですよ。それなのに、一方的に婚約破棄したらどうなりますか?」
「あっ……」
あっじゃない。
気づくのが遅すぎる。
「レグ。お前の王位継承者を廃する! 誰かこの馬鹿者をさっさと外へ出せ」
「お待ち下さい、父上」
殿下が陛下にしがみつき懇願するが振り払われた。
……まぁ、当然だけど。
「殿下、人生詰みましたわね。もう王太子ではなくなったので、時間がたっぷりできたでしょう。是非、お勉強なさって下さいね」
私は手にしていた扇子を広げながら言えば、殿下は顔を青ざめて膝から崩れ落ち、ただ静かに床を見つめている。
――王太子殿下ではなくなったけど、好きな女性と一緒に暮らせるからいいのでは?
なんて思っていると、視界の端にコニスの姿が入った。
彼女はゆっくりと殿下から離れると、一目散に逃げ出す。
気づいた殿下が彼女の名を叫ぶがコニスは止まらずに人々を押しのけるようにして会場を後にした。
――逃げ足早っ。
ぼんやりと見ていると、「ローズ様」とメテオ様に声を掛けられたので顔を向ける。
「やっぱり、年下はだめですか?」
きらきらとした澄んだ瞳で私をじっと見ている。
うっ……捨てられた子犬が頭に浮かんでしまう……
ちょっと待って。これ、断るの勇気がいるんですけど!
「僕、ローズ様にふさわしくなるように頑張りますから。お願いします」
「わ、私だけでは決められませんわ。どうか、一度国に持ち帰らせて下さい」
私に言えたのはこれが精一杯。
半年後。両国の協議の結果、私とメテオ様の婚約が決定した。
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