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私とルルと王太子殿下の穏やかな時間

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 植物園でルルと出会ってから数ヶ月後。
 私はいつものように学園から帰宅して、手洗いなどを済ませると屋敷の日当たりの良い部屋に入った。

「ルル、ただいま」
 そう言いながら足を踏み入れれば、中庭から太陽の光が差し込み、ポカポカと温かい窓際を見る。
 そこにはルルの姿が。
 ルルはふかふかの猫用のクッションの上に寝転がっていたけど、私が部屋に入るやいなや身を起こして「にゃ」と鳴き、身を起こした。

 最初に出会った頃と違い、今はある程度肉もつき毛並みも良い。
 怪我も完治。今では自由に部屋を歩き回れるまでに回復。

 ほんとうに良かった。

「ルル、体調大丈夫?」
 私が手を伸ばしてルルを撫でれば、ゴロゴロと喉を鳴らした。
 学校から帰宅すると、まずルルの部屋に行くのが日課。
 ルルは家族だけではなく、メイドをはじめとした使用人の人達にも大人気だ。

(ルル、かわいいなぁ。元気になって良かったわ)

 ルルを見ていると、自然と笑みが浮かんでくる。
 あの時、助かってくれて本当に良かったと心から思っていると、部屋をノックする音が聞こえた。

(誰かしら?)

 首を傾げながら扉の方を見れば、「お嬢様。王太子殿下がいらっしゃっています」と侍女の声が……
 王太子殿下というフレーズに一瞬で体温が高くなってしまう。

 ルークス様はルルを気に掛けてくれ、入院中だけではなく退院してからも様子を見に来てくれる。
 ルルだけではなく、私の事も気に掛けてくれ、王都で人気のお菓子などの贈り物もして下さる優しい方だ。

 ルルに会いに来て下さっているのはわかっていても、ルークス様に会えるのを楽しみにしている自分がいる。


「ど、どうぞ。お入りになって下さい……!」
 私の返事の後。扉が開かれ現れたのは侍女に案内されたルークス様の姿だった。
 私とルルを見ると、穏やかに微笑んだ。

 その笑顔すら、私の胸を締め付けるには十分な破壊力。
 きっとあの笑顔をご令嬢達が見たら、自分の事を好きでいてくれるんじゃないか? って、勘違いしてしまう。

 だって、私がそうだから。
 ルークス様の周りには素敵なご令嬢達がいっぱいいるから、私なんて相手にされないのはわかっているけど……

「ルルとアンジュールの顔を見に来た」
 ルークス様は私とルルの傍に来ると、しゃがみ込んだ。
 すると、ルルがルークス様の足下に近づき、ぐりぐりと頭をこすりつけるように甘え出す。
 ルルはルークス様に懐いていて、こうしてルークス様が来ると撫でて! と傍に来る。

「ルルもルークス様が好きなのね」
 私はクスクスと笑った。

 こういう穏やかな時間が好き。ずっと続けばいいのにって思う。

「ルルも……?」
 ルークス様が目を大きく見開きながら私に聞いてきたので、私は慌てて口元を手で隠した。

 体の血の気が引いていく。
 だって、私の淡い恋心はずっと閉じ込めておかなければならない。
 学園を卒業したら、ワンダー様と結婚しなければならないから……

「な、なんでもありません」
 私は首を横に振りながら、どうかこの気持ちがルークス様に気づかれませんようにと願った。

(なんだか、微妙な空気が……!)

 ルークス様も私もよそよそしくなったので、ちょっと不安になったため、私はルルに手を伸ばして撫でようとしたら、ルークス様の手と触れあってしまう。
 どうやらルークス様もルルを撫でようとしたらしく、私の手とぶつかってしまったみたい。


「も、申し訳ありません!」
 急いで手を引っ込めようとしれば、ルークス様が私の手を掴んだ。
 そのため、私は弾かれたようにルークス様の顔を見れば、熱を帯びたルークス様の瞳に自分が映っていたので胸が高鳴った。

(手も顔も熱いわ……)

 視線が外せない。
 恥ずかしいから手を離したいのに、離してしまうのが寂しい。

 そんなごちゃごちゃしている感情の中、「にゃ、にゃー」という可愛らしい鳴き声が私とルークス様の間に聞こえた。
 二人してそちらを見れば、私とルークス様の繋いでいる手にルルが頭をぐりぐりとさせている。
 どうやら早く撫でて欲しいみたい。

 私とルークス様は顔を見合わすと、吹き出して笑い合った。

「ルル、撫でて欲しいみたいですわ」
「そうだったな。撫でる途中だった。悪かった、ルル」
 ルークス様が目尻を下げながらルルを撫でれば、ルルが目を細めた。




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