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番外編(web版)

メディの恋~いつも見守ってくれていた私の騎士様~1

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※書籍版ではコルタはシグノと名前が変わっています。
こちらの番外編では、コルタで統一する予定です。



(コルタ視点)

 俺は忙しくてなかなか顔を出せていなかった猫のしっぽ亭――実家へと顔を出していた。
 今日は定休日のため、店内はがらんとしているが、室内は燭台に設置されている蝋燭の明かりに照らされているため、俺とレイが座っているテーブル席は明るい。

 テーブルには酒の他に肉の燻製などの酒の肴が乗っている。
 奥の調理場からはお袋の鼻歌に交じり、旨そうな匂いが漂って来ていた。

 レイが久しぶりにうちに帰宅したため、親父もお袋も手料理を沢山作って出迎えたいらしく、張り切っている。
 王となってからは、ほとんどうちに来ることもなくなっていたから……

「かなり久しぶりだな。ここに来るのは。二年前に少し顔を出して以来か? おじさん達になかなか顔を見せられずに申し訳なかった」
 レイは眉を下げながら言った。

「仕方ないだろ。お前、忙しいんだから。親父達もわかっているさ。それより、大事な話ってなんだ?」
「あぁ、その事なんだが……」
 珍しく言葉じりを弱めたレイに対して、俺は眉を顰める。
 レイは葡萄酒が入ったグラスに手を伸ばすと、ゆっくり傾かせて喉を潤す。
 そして、俺の方を真っ直ぐ見据えて口を開いた。

「――俺の結婚が決まった」
 それはまるで明日の天気を語るようなさらりとした口調だった。
 のろけも重みも嬉しさも全く感じない。ただ義務的なもの。

 誰と? 聞きたいことは山ほどあるはずなのに、咄嗟に浮かんだのはメディのこと。

 ――メディはどうなるんだ?

 あいつの事を考えると胸が締め付けられる。
 レイの結婚はエタセルの祝い事として、大々的に発表されるだろう。
 絶対にメディの耳にも入ってしまう。

 メディの事を尋ねたくて仕方がないが、俺はそれを押し殺すと口を開く。

「もう決まりなのか……?」
 本決まりでなければ、メディにも可能性が残されている。

「あぁ。王妃は決まったから、側室達の事も今決めている」
「政略結婚か……お前はそれでいいのかよ?」
「エタセルはティア達のお蔭で大きくなったけど、まだまだ成長できる。俺の結婚もそれに使えるなら使うさ」
「そうか」
 レイは国を背負っているため、俺ではレイの結婚を辞めさせることは出来ない。
 本当はレイが本当に心から好きになってくれた人と一緒に添い遂げさせたかった。
 今まで苦労した分、幸せになって欲しかったから。

 レイとは兄弟のようにして育てられたから、余計にそう強く思う。
 だが、同時にレイの王としての覚悟を知っていたから感情的に反対も出来ず。

「俺の代では政略結婚を避けられないが、次の世代はわからない。俺達の子供達が自由に恋愛を出来るように、土台を作りたいんだ。ファルマのように揺るがない国にしたい。彼女は……エタセルの王妃となるラーナは、俺と同様の思想を持ってくれている。ティアの行っている事業の一部をラーナが引き継ぐ予定だ」

 メディが知ったらどうなるんだ? という気持ちや俺の知らない間にレイの結婚が決まっていたことの寂しさなどの複雑な感情で心も頭もぐちゃぐちゃだ。

「……だからさ、俺はメディとは結婚は出来ない」
 レイの口から出たメディの名に、俺は俯きがちだった視界を上げれば、レイの瞳とかち合う。
 あまりにも真剣なまなざしに視線を逸らしたくなれば、レイがふっと微笑を浮かべる。

「好きなんだろ? コルタ」
 レイは葡萄酒の入ったボトルを手に取ると、俺のグラスへと注いでくれた。

「好きだが、あいつは……」
「知っている」
「メディの気持ち知っていたのか……?」
「薄々な。ただ、俺としてはお前がメディの事を気にしていることの方に強く感情を奪われていたんだよ。俺はメディを大切な仲間だと思っているが、でもコルタは家族だからさ」
「メディのことは無理なのか? メディが望むのはお前の傍だ」
「さっきも言ったとおり、俺では政略結婚になってしまう。政略結婚でメディとの婚姻は、反対者はいないかもしれない。だが、メディは政略結婚に対して良い印象を受けていないだろう。彼女の母親の件があるから」
「それは……」
 メディの花親である前ファルマ王妃は側室達の策略により命を落としてしまった。
 レイは国の事や王妃・側室達のケアもあるため、メディに付きっ切りにはなれない。だから、きっとレイとメディが結婚しても彼女は不安定になるだろう。

「俺の結婚は発表になるまで黙っていて欲しい。家族に伝える事は許可を得ているが、まだ色々話し合うことがあるから公表は出来ないんだ。今日はその知らせをおじさん達にするつもりなんだよ」
「……わかった」
 俺は頷くと、ゆっくりと瞳を閉じる。
 浮かぶのは、メディの笑った顔。願うのは、彼女の笑顔が曇らない世界だった。





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