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連載
幕間 その頃のあの人達は2(セス視点1)
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(セス視点)
メディさんにアルツナ薬学辞典を教えているのだが、彼女は薬草師だけあって知識も豊富で飲み込みが良い。
現代では書字版が断片的に残されているだけのようで、本にするために原稿を書いているそうだ。
彼女からは新しい情報を教えて貰ったりし、お互い良い刺激を受けている。
「すごく充実しているなぁ。ティア様に出会う前は、永遠の牢獄だったのに」
僕は神殿裏・湖付付近にある墓石の前に立っている。
最高神サズナ様に逆らいし神の子。彼が安らかな死後の世界へ旅立てるように心から祈ると、西大陸の文字で刻まれている『僕の墓』。
僕が生きて来たのは、今から二千三百年ほど前。
愛する人と引き裂かれた上に罪人として殺され、冥界の扉を潜ることなく、僕はずっと現世に繋がれたまま存在している。
「グローリィ。君も僕と同じように現世に留まっているのかい?」
腕を上げ薬指に嵌められている指輪へ口づけを落とし、永遠に忘れることがないであろう最愛の彼女を思い浮かべる。
将来を約束していた彼女・グローリィは『サズナ神の花嫁』に選ばれてしまった故、神官達に引き裂かれてしまった。
神の花嫁は神殿で毒杯を浴び、魂となり神の元へと向かう。
本当にサズナ神がいるのならば、そんな残酷な事をさせるのだろうか?
させるはずがない。だから僕はサズナ教なんて信じてない。
彼女が花嫁に選ばれた時から、サズナ教を捨て、僕達はお互い生きて人生を共にする道を選んだ。
駆け落ちをしようと考えた矢先に僕は殺され、捕えられた彼女はサズナ神の花嫁に。
今すぐ彼女に会いたい。
この気持ちは二千年以上経っても色あせない。
「会いたいよ、グローリィ」
「へー。二千年以上ずっと彼女だけを想っているんだね」
僕の言葉に返事をするように突然耳元に届いた声。
遠くまで通る第三者のそれに、僕は背筋に悪寒が走り身を退ける。
自分以外の存在はなかったのに、一体誰が……!
「そんなに驚かなくても良いのにぃ~」
目の前には見ず知らずの青年が立っていた。
クスクスと喉で笑いつつ、僕の事を見ている。
腰まで長いベージュ色の髪を風に靡かせ、灰色の騎士服のような衣装を纏っていた。
筆で描いたような涼しげな瞳にちょっと丸めの鼻、毒々しいくらいに紫の唇は弧を描いていて一度見たら忘れない。
「初めまして、セス。僕は『フーザー』。あっ、警戒しなくて良いよ」
いきなり現れて警戒するなという方が無理だ。
「僕はティアの知り合いだよ。まぁ、ティアの方は知らないけど」
「それは知り合いと言わないですよね?」
「そうかも。でも、僕はティアとリストのことなら良く知っているよ。彼女達は僕の『加護持ち』だからね。本人達は知らないけど」
ティアナ様とリスト様を一方的に知っているということは、ストーカー的な人なのだろうか。
気配もなく僕の傍に立ったし、警戒は永遠に解かれる事はない気がする。
彼のことはよくわからない。
ただ一つ言える事は、この人ヤバイと本能が教えてくれている。
「僕はティア達の事が大好きで大切なんだ。でもね、ティア達は僕がこんなに強く想っているのに、僕のことを一切頼ろうとしないんだよ。むしろ、僕の血が入っていることすら忘れてそう。どうしてうちの子孫たちは皆、自分達の力で道を切り開こうとするのかな?」
「大抵はそうですよ」
「そうだけど、僕としては頼って欲しいのっ! 可愛い子孫には」
「申し訳ありませんが、おっしゃっている意味が……」
「わからないの? 君達サズナ教の神官は『叡智の民』と呼ばれていたのに? 神殿地下の巻物ってただのコレクション?」
「……なぜそれを。貴方は何者ですか」
彼がいましがた口にしたことは、サズナ教でも上級神官しかしらない秘密。
我々サズナ教は膨大な知識を得るために、世界中からあらゆる書物を集めていた。ただ集めるだけではなく、頭に入れ役立てるように。
これがサズナ教の神官が叡智の民と呼ばれる由縁だ。
「言っておくけど、僕は君よりも遥かに年上だから物知りなの。さぁ、問題です。僕は誰でしょうか?」
「え」
いきなり明るい口調で出題されても困惑。
ただでさえ、つかみどころのない相手だというのに。
メディさんにアルツナ薬学辞典を教えているのだが、彼女は薬草師だけあって知識も豊富で飲み込みが良い。
現代では書字版が断片的に残されているだけのようで、本にするために原稿を書いているそうだ。
彼女からは新しい情報を教えて貰ったりし、お互い良い刺激を受けている。
「すごく充実しているなぁ。ティア様に出会う前は、永遠の牢獄だったのに」
僕は神殿裏・湖付付近にある墓石の前に立っている。
最高神サズナ様に逆らいし神の子。彼が安らかな死後の世界へ旅立てるように心から祈ると、西大陸の文字で刻まれている『僕の墓』。
僕が生きて来たのは、今から二千三百年ほど前。
愛する人と引き裂かれた上に罪人として殺され、冥界の扉を潜ることなく、僕はずっと現世に繋がれたまま存在している。
「グローリィ。君も僕と同じように現世に留まっているのかい?」
腕を上げ薬指に嵌められている指輪へ口づけを落とし、永遠に忘れることがないであろう最愛の彼女を思い浮かべる。
将来を約束していた彼女・グローリィは『サズナ神の花嫁』に選ばれてしまった故、神官達に引き裂かれてしまった。
神の花嫁は神殿で毒杯を浴び、魂となり神の元へと向かう。
本当にサズナ神がいるのならば、そんな残酷な事をさせるのだろうか?
させるはずがない。だから僕はサズナ教なんて信じてない。
彼女が花嫁に選ばれた時から、サズナ教を捨て、僕達はお互い生きて人生を共にする道を選んだ。
駆け落ちをしようと考えた矢先に僕は殺され、捕えられた彼女はサズナ神の花嫁に。
今すぐ彼女に会いたい。
この気持ちは二千年以上経っても色あせない。
「会いたいよ、グローリィ」
「へー。二千年以上ずっと彼女だけを想っているんだね」
僕の言葉に返事をするように突然耳元に届いた声。
遠くまで通る第三者のそれに、僕は背筋に悪寒が走り身を退ける。
自分以外の存在はなかったのに、一体誰が……!
「そんなに驚かなくても良いのにぃ~」
目の前には見ず知らずの青年が立っていた。
クスクスと喉で笑いつつ、僕の事を見ている。
腰まで長いベージュ色の髪を風に靡かせ、灰色の騎士服のような衣装を纏っていた。
筆で描いたような涼しげな瞳にちょっと丸めの鼻、毒々しいくらいに紫の唇は弧を描いていて一度見たら忘れない。
「初めまして、セス。僕は『フーザー』。あっ、警戒しなくて良いよ」
いきなり現れて警戒するなという方が無理だ。
「僕はティアの知り合いだよ。まぁ、ティアの方は知らないけど」
「それは知り合いと言わないですよね?」
「そうかも。でも、僕はティアとリストのことなら良く知っているよ。彼女達は僕の『加護持ち』だからね。本人達は知らないけど」
ティアナ様とリスト様を一方的に知っているということは、ストーカー的な人なのだろうか。
気配もなく僕の傍に立ったし、警戒は永遠に解かれる事はない気がする。
彼のことはよくわからない。
ただ一つ言える事は、この人ヤバイと本能が教えてくれている。
「僕はティア達の事が大好きで大切なんだ。でもね、ティア達は僕がこんなに強く想っているのに、僕のことを一切頼ろうとしないんだよ。むしろ、僕の血が入っていることすら忘れてそう。どうしてうちの子孫たちは皆、自分達の力で道を切り開こうとするのかな?」
「大抵はそうですよ」
「そうだけど、僕としては頼って欲しいのっ! 可愛い子孫には」
「申し訳ありませんが、おっしゃっている意味が……」
「わからないの? 君達サズナ教の神官は『叡智の民』と呼ばれていたのに? 神殿地下の巻物ってただのコレクション?」
「……なぜそれを。貴方は何者ですか」
彼がいましがた口にしたことは、サズナ教でも上級神官しかしらない秘密。
我々サズナ教は膨大な知識を得るために、世界中からあらゆる書物を集めていた。ただ集めるだけではなく、頭に入れ役立てるように。
これがサズナ教の神官が叡智の民と呼ばれる由縁だ。
「言っておくけど、僕は君よりも遥かに年上だから物知りなの。さぁ、問題です。僕は誰でしょうか?」
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