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ティアのことが好きだよ2

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「お兄様、ごめんなさい」
 傷の手当てをして貰った私は、ベッドで眠っているお兄様の元にいた。
 気絶したお兄様はライや村人の手によって私と同様に集会所に運ばれ、空いていたベッドで肢体を休めている。
 長い睫毛は伏せられ、未だに目を開ける気配が全くない。

「ライ。お兄様は……」
「もうそろそろ目を覚ますと思う。頭は打ってないよ。リストが気付いたら知らせるから、ティアは空いているベッドで休んでいて」
 カルテでも書いているのか、ライはクリップボードに挟まれている紙の上にペンを走らせながら答えた。


「私なら大丈夫だよ。メディに痛め止めと化膿止めを貰って飲んだし」
「ラシットが所有している菌に対して免疫があるっていっても、相手は野生動物だから色々な菌を保有しているから未知なんだよ。しばらく経過観察だから大人しくしていて」
「平気だって。前も噛まれたし」
「ティア」
 ライの声がいつもと違ってかなり低めで絶対に怒っているというようなトーンだったため、私は唇を結びそっと視線を外す。
 彼と出会って結構時間が経っているが、こんなにわかりやすく怒りのゲージを越えたことがない。
 纏っている空気が張りつめ過ぎて、指一つ動かすのにも神経を使ってしまう。

「お、怒っているよね……? 心配かけてごめんなさい。ラシットがいるかもって見回りしたら偶然見つけちゃったの。放置するのは被害を広げちゃうから、捕まえちゃったんだ。私以外誰も捕まえられないし」
 ライに怒られるのがメンタルに一番響くのは何故なのだろうか。

「わかっている。俺が怒っているのはティアが自分の身を顧みず危険な目にあった件もだけれども、もう一つあるんだ」
「私、気づかないうちに何かしちゃった?」
「ティアは悪くないよ。俺が嫉妬しているだけ」
「嫉妬……」
 私はライの言葉に首を傾げる。


「リストが目を覚めしても大人しくしていてくれよ。ティアのことだから、またラシット探しに行くつもりだろうけど駄目だからね。明日まで安静」
「よ、よくお分かりに」
 私は視線を彷徨わせだしてしまう。


「ティアの考えそうなことくらいわかるよ。ティアの性格だから仕方ないけど、危ない事でも自ら突き進むから目を離しているのが怖い。ファルマとエタセルは距離があるから、いつもティアのことを見ていられないから。ティア、考えるより行動しちゃえ派だし」
「ほんとライって私のことよく理解しているよね」
 ライは私のことをありのまま受け止めてくれている気がする。
 自然体で居られるというか、なんというか。

「前も言ったけど、ファルマに来てよ。そうすれば、距離なんて気にしなくなる」
「そういえば、部屋が空いているって言っていたね」
「部屋もだけど、王妃の座も空いているんだ」
 確かにライは独身だし、婚約者もいないから空いている。


「俺はティアのことが好きだよ」
 ライの真っ直ぐで情熱的な瞳とかち合い、告白されたんだと脳が処理した瞬間、私の体中の血液が勢いよく循環してしまう。


 予想もしていなかったライの言葉。
 まさか、ライが私のことを好きでいてくれたなん気づかずに生活していた。


「ティア、ジンクスの噴水で王妃運ゲットしたけど、ファルマの王妃になってくれないか?」
「「王妃っ!?」」
 私が声を上げると同時に、とある人物の声が綺麗に重なってしまう。
 それは私とライの右隣から上がった声で、流石は兄妹と拍手をしたくなるくらいに息がぴったりだった。

「お兄様!」
 声の主はお兄様だった。
 どうやらお兄様の意識が戻ったらしく、上半身を起こしたお兄様が申し訳なさそうな表情をしてライへと視線を向けている。


「……なんかすまない、ライ。微妙なタイミングで意識を取り戻してしまって……」
 お兄様は両手で顔を覆うと、小刻みに震えだす。


「いや、構わないよ。リスト、体調は?」
「ライの優しさが染みる。本当にごめん。空気を読めずに」
「いいって、気にしないでくれ。気分が悪いとか頭痛がするなど、体調に異変はあるか?」
「大丈夫」
「そう、良かった。ゆっくり休んで」
「いや、でもこんな状況だから僕も……」
「リスト」
 さっき私が怒られた時と同じトーンでライがお兄様の名を呼んだため、お兄様は動かそうとした唇を結んだ。
 ライは医者としてお兄様を止めているため、お兄様も重く受け止めたようで首を縦に動かす。


「えっと……お言葉に甘えて少し休もうかな。動物に噛まれた人達の容体は?」
「ティアのワクチンのお蔭で落ち着いているよ。ティアがワクチン貰ってくれていて助かった。念のために、エタセルでも西大陸からワクチンを輸入した方がいいだろうな」
「僕も考えていたんだ。もしもの時のために常備しておくべきだと。本当にティアが貰ってくれてよかったよ。ティアも噛まれたけど、大丈夫なのかい? 熱は?」
「私なら大丈夫です。お兄様、心配かけてごめんなさい」
「ティアが無事でよかったよ」
 お兄様が手を伸ばしたので、私は腕を伸ばしてその手を包むように掴んだ。
 血の気が引いているため体温が低下していたのか、お兄様の手が冷たかった。








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