44 / 134
連載
ライの秘書官2
しおりを挟む
「なんだろう……?」
城で用事を済ませた私は、仕事のために商会の門を潜ったのだけれども、建物の前が騒がしい事に気づく。
足を踏み出して近づいていけば、馬車が止まっていた。
絢爛豪華な装飾が施されている馬車の紋章を見て私は驚いてしまう。
それはファルマの王族――ライが乗っている馬車だったから。
人々の集まりにゴアさんがいたので、私は声をかけた。
「ゴアさん、ライ……ファルマの王様が来ているんですか?」
「ティアナ様、ちょうど良かったです。ティアナ様にお会いするためにいらっしゃったそうですよ。今、応接室で待っていて貰っています」
「本当ですか!? ありがとうございます」
久しぶりにライと会えるのが嬉しくて、私はゴアさんにお礼を言うと駆け出して建物の中へ。
ふかふかの毛足の長い絨毯を踏みしめ、応接室へと向かうけれども、いつもよりも距離が遠く感じてしまう。
応接室と掘られた銀のプレートがかけられた扉をノックして入れば、ソファセットに座って紅茶を飲んでいるライの姿が。
「ライ! 体は大丈夫? 手紙で忙しいって……あ」
ライしかいないと思って気さくに話しかければ、ライの隣に青年が座っているのに気づく。
エメラルドグリーンの髪を右肩で束ねて流し、メガネ越しに筆で描いたような涼しい目元が窺える。
年齢は二十台後半から三十台前半だろうか。
身に纏っている服から、彼が身分の高い人物であることを理解できた。
――やってしまった。ライだけだと思って、いつも通りに接してしまったわ。
顔に出ていたのか、ライが苦笑いを浮かべた。
「いいよ、彼はティアのことも知っているから。紹介するよ。俺の秘書官のエルド」
「初めまして、ティアナ様。お噂はライナス様より伺っています。お仕事中の突然の訪問申し訳ありません。ライナス様がここ数日多忙だったため、元気を分けていただきたく参りました」
「エタセルは自然豊かですから、癒されますもんね!」
ファルマは都会って感じだけど、エタセルは自然。
美味しい空気を吸って疲れをとるには、ちょうど良いだろう。
「もしかして、新聞に掲載されていた件でこっちに? ファルマも協力しているって書いてあったよ。珍しい動物に噛まれたって証言があったけど、もしかして西大陸から密猟された動物が原因?」
「よくわかったな。そうだ。西大陸古来の動物による接触感染。三ヶ月で密猟者のものと思われる破損した馬車が数か所から見つかった。近くになにも入っていないゲージがあったりしていているから、もしかして逃げ出したのかもしれないな」
「さすがにラシットではないよね?」
「ラシットは確認されていない。ただ、いろいろな動物が逃げ出していると思う。症状はダニを媒介にしたものから、直接引っかかれ感染したものまで多種多様だ。とにかく早く動物を保護しなければならない。詳しい専門医を派遣する予定だ」
「ファルマって医療大国だからお医者さんも多いもんね。ライもお医者さんだし」
「エルドも医者だ。エルドの家は代々病院を経営しているんだよ。なぜか秘書官やっているけど」
「え」
私がエルドさんを見れば、にこにことしている。
医療大国だから住民はなんらかの医療に関する資格を持っているって聞いていたけど、まさか秘書官様もなのか。
「ライ、今日はうちに泊っていく? メディともつもる話があるだろうし」
「一泊なら泊っても良いって許可貰っているから、泊らせて欲しい」
「勿論」
「……ねぇ、ティア。ちょっと話が変わるけど、大事なことを聞きたいんだ。レイガルド様があれからティアの家に来ているの?」
「時々かな」
「頻度は?」
「「頻度」」
私とエルドさんの台詞が綺麗に重なった。
「仲が良いのか?」
「それ、さっき似たようなことをお城でコルタに聞かれたよ。ライと仲が良いのかって」
なんでみんな仲の良さを気にするのだろうか。
「コルタって、騎士団長だったよな」
「うん」
「どうなっているんだ、一体。遠距離だから全く状況がわからない。ティアさ、本気でファルマへの移住考えてよ。俺の隣空いているから」
「部屋?」
「確かに部屋という物理的空間も空いているけどさ」
「ティアナ様。ライナス様の隣の部屋は見晴らしが良いですよ。王都が一望出来ます。如何ですか? ぜひ、ファルマへ来て下さると我々は嬉しいです。ティアナ様なら貴族達も大歓迎ですし。もし、来て頂けるならば、ティアナ様が大好きなリムス王国の菓子を毎日ご用意致します」
エルドさんがすごく私の移住を進めてくれるんだけれども、秘書官じゃなくてちょっとセールスマンっぽかった。
城で用事を済ませた私は、仕事のために商会の門を潜ったのだけれども、建物の前が騒がしい事に気づく。
足を踏み出して近づいていけば、馬車が止まっていた。
絢爛豪華な装飾が施されている馬車の紋章を見て私は驚いてしまう。
それはファルマの王族――ライが乗っている馬車だったから。
人々の集まりにゴアさんがいたので、私は声をかけた。
「ゴアさん、ライ……ファルマの王様が来ているんですか?」
「ティアナ様、ちょうど良かったです。ティアナ様にお会いするためにいらっしゃったそうですよ。今、応接室で待っていて貰っています」
「本当ですか!? ありがとうございます」
久しぶりにライと会えるのが嬉しくて、私はゴアさんにお礼を言うと駆け出して建物の中へ。
ふかふかの毛足の長い絨毯を踏みしめ、応接室へと向かうけれども、いつもよりも距離が遠く感じてしまう。
応接室と掘られた銀のプレートがかけられた扉をノックして入れば、ソファセットに座って紅茶を飲んでいるライの姿が。
「ライ! 体は大丈夫? 手紙で忙しいって……あ」
ライしかいないと思って気さくに話しかければ、ライの隣に青年が座っているのに気づく。
エメラルドグリーンの髪を右肩で束ねて流し、メガネ越しに筆で描いたような涼しい目元が窺える。
年齢は二十台後半から三十台前半だろうか。
身に纏っている服から、彼が身分の高い人物であることを理解できた。
――やってしまった。ライだけだと思って、いつも通りに接してしまったわ。
顔に出ていたのか、ライが苦笑いを浮かべた。
「いいよ、彼はティアのことも知っているから。紹介するよ。俺の秘書官のエルド」
「初めまして、ティアナ様。お噂はライナス様より伺っています。お仕事中の突然の訪問申し訳ありません。ライナス様がここ数日多忙だったため、元気を分けていただきたく参りました」
「エタセルは自然豊かですから、癒されますもんね!」
ファルマは都会って感じだけど、エタセルは自然。
美味しい空気を吸って疲れをとるには、ちょうど良いだろう。
「もしかして、新聞に掲載されていた件でこっちに? ファルマも協力しているって書いてあったよ。珍しい動物に噛まれたって証言があったけど、もしかして西大陸から密猟された動物が原因?」
「よくわかったな。そうだ。西大陸古来の動物による接触感染。三ヶ月で密猟者のものと思われる破損した馬車が数か所から見つかった。近くになにも入っていないゲージがあったりしていているから、もしかして逃げ出したのかもしれないな」
「さすがにラシットではないよね?」
「ラシットは確認されていない。ただ、いろいろな動物が逃げ出していると思う。症状はダニを媒介にしたものから、直接引っかかれ感染したものまで多種多様だ。とにかく早く動物を保護しなければならない。詳しい専門医を派遣する予定だ」
「ファルマって医療大国だからお医者さんも多いもんね。ライもお医者さんだし」
「エルドも医者だ。エルドの家は代々病院を経営しているんだよ。なぜか秘書官やっているけど」
「え」
私がエルドさんを見れば、にこにことしている。
医療大国だから住民はなんらかの医療に関する資格を持っているって聞いていたけど、まさか秘書官様もなのか。
「ライ、今日はうちに泊っていく? メディともつもる話があるだろうし」
「一泊なら泊っても良いって許可貰っているから、泊らせて欲しい」
「勿論」
「……ねぇ、ティア。ちょっと話が変わるけど、大事なことを聞きたいんだ。レイガルド様があれからティアの家に来ているの?」
「時々かな」
「頻度は?」
「「頻度」」
私とエルドさんの台詞が綺麗に重なった。
「仲が良いのか?」
「それ、さっき似たようなことをお城でコルタに聞かれたよ。ライと仲が良いのかって」
なんでみんな仲の良さを気にするのだろうか。
「コルタって、騎士団長だったよな」
「うん」
「どうなっているんだ、一体。遠距離だから全く状況がわからない。ティアさ、本気でファルマへの移住考えてよ。俺の隣空いているから」
「部屋?」
「確かに部屋という物理的空間も空いているけどさ」
「ティアナ様。ライナス様の隣の部屋は見晴らしが良いですよ。王都が一望出来ます。如何ですか? ぜひ、ファルマへ来て下さると我々は嬉しいです。ティアナ様なら貴族達も大歓迎ですし。もし、来て頂けるならば、ティアナ様が大好きなリムス王国の菓子を毎日ご用意致します」
エルドさんがすごく私の移住を進めてくれるんだけれども、秘書官じゃなくてちょっとセールスマンっぽかった。
0
お気に入りに追加
2,585
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。